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第85話、視線

「それはそうと、貴方達・・・いつの間に仲良くなっちゃったの。てっきり殴り飛ばされた男の報告も、最初はそっちの彼が殴り飛ばされたと思ってたのよ。彼と一緒に何処かへ行ったって話を先に聞いてたから、負傷者が出たって聞いた時に勘違いしちゃったわ」


 昨日の馬鹿共の話が終わった所で、支部長は俺の後ろに立つ男に視線を向けた。

 確かに支部長からすると、この男は先の話の馬鹿共と印象は変わらないだろう。

 今でこそ真面目にコツコツやっているが、彼女に絡んだ前科があるしな。


 しかもそれはたった数日前だ。どう考えても、印象を変える方が難しい。

 とはいえ俺と男の関係は、支部長が思う様な関係ではないと思うが。


「別に仲良くなった訳じゃ無い。仕事を頼まれただけだ」

「仕事? 一体何を」

『鍛えてあげるらしいよ!』

「金を払うから鍛えて欲しいと頼まれた。とはいえ、俺に大した指導など出来んがな」

「へぇ・・・」


 支部長は若干怪訝な表情になり、男の事をじろじろと観察しはじめた。

 男は以前絡んだ前科があるせいか、大分気まずそうな表情を見せている。

 だが少し息を吸うと、視線をしっかり支部長に向けて口を開く。


「あの時は迷惑をかけて、すみませんでした」

「あら・・・本当に、あの時とは全然印象が違うわね、貴方」


 まさか素直に謝るとは、と言いたげな表情を隠さない支部長。

 そんな彼女に対し文句を言うでもなく、ただ素直に頭を下げる男。

 二人の会話は多少目立ってしまっているが、どちらも気にする様子は無い。


 支部長は目立つ事も仕事と思っているし、男は自分の非を隠す気が無いからだろう。

 俺に頭を下げる事を嗤われても一切気にしなかった男だ。今更気にする訳がない。


「死にかけて、嬢ちゃんに命を助けて貰って、色々と目が覚めたんで」

「そう。まあ、組合職員や他の組合員に迷惑をかけないなら、私はそれで良いわ。彼女との関係も良好な様だし、個人的な付き合いに口を出す気も無い。好きにしなさい」

「・・・ありがとうございます」


 先日私に絡んだ事なんて、一切気にしていないから好きにしなさい。

 今のはそういう意味で、男は一瞬悩んでから再度頭を下げた。

 もう少し咎めというか、嫌味ぐらいは言われると思っていたんだろう。


 ただ俺には、俺が怖いから下手に咎めるのは止めておこう、という風に見えた。

 俺がコイツを助けたという点で、少々関係を勘違いしている様に思える。

 男が俺に対し、子供と侮った態度じゃない、っていうのも大きな要因か。


 まあ別に、態々訂正してやる気も無ければ、そんな義理も無い。

 勝手に無駄な想像をして怖がっていれば良いと思う。

 けして笑われた事を根に持っている訳じゃない。


「それと、さっきの話は聞いていたと思うけど、貴方も注意しておきなさい。彼女と一緒に居る事が多いなら、仲間と思われて貴方も狙われる可能性があるわよ」

「昨日の馬鹿共っすね。解りました。気を付けます」


 言われてみれば確かにそうだな。昨日はコイツと長く一緒に居たし。

 それこそ稽古をつけてやった所は、多くの人間が見ているはずだ。

 俺にとってはただの仕事だが、周囲にしてみればそんな事は解らないだろう。


 むしろ俺の様な人間が態々稽古をつけ、講義までしてやる様な間柄だと思っておかしくない。


「それは考えていなかった。どうやら俺のせいで迷惑をかけそうだな」

「気にするこたねえさ。悪いのは嬢ちゃんじゃない。理屈の通じねえ馬鹿共の方だ。それでもし襲われたからって、嬢ちゃんに恨み言を吐く気は無いさ」


 それはその通りなんだがな。俺も自分が悪いと言うつもりは全く無いし。

 だが巻き添えにしてしまったのは事実で、そんな事は一切考えても居なかった。

 アレを構うのも面倒と思っていたので、何も考えていなかったせいだが。


「そうか。だがまあ、何かあれば俺の所に来い。出来る限りは―――――」


 助けてやると、そう言おうとして、ゾクリと悪寒が走ったのを感じた。

 それと同時に反射的に、空いている窓へと体ごと振りむいた。

 だがその頃には悪寒は消え去り、視線の先には何も居ない。


 何だ、今のは。一体何を感じた。一体何が居た。何に見られていた。


「ど、どうしたの?」

「・・・嬢ちゃん、何かあったのか」


 俺の行動に支部長は少し慌て、男は神妙な様子で訊ねて来る。

 この辺り、俺をどう見ているのか、というのが解る対比だな。


「いや、何か居た気がしたが、気のせいだったらしい」

「・・・そう」

「そうか・・・」


 だが俺がそう答えても、二人とも似た様な反応を見せた。

 つまりは信じておらず、そして予想が付いているのだろう。

 昨日の馬鹿共かと。昨日の今日で来たのかと。だが、しかし。


『じっと見られてたねー。妹のファンかな?』

「・・・あんな気配を放つファンが居て堪るか」


 俺の体は明らかに、先の感覚を警戒していた。

 なら少なくとも、そうせざるを得ない様な何かが居たはずだ。

 それも街の外では無く、街中にそんな存在が居る。


 さて、何なんだろうな。一体何が俺を挑発して来た。


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