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第80話、恥

「ここが訓練場か」


 男に案内されて組合をぐるっと裏に回った先に、広く空間を取った建物があった。

 中に入ると外観通りの広さであり、ただ結構な人数が詰めているのが解る。

 利用人数は中々に多く、広い空間を広々使えるとはいかなそうだ。


「思ったよりも、勤勉な連中が多いらしいな」

「同じく訓練に来ている嬢ちゃんには、そんな意外そうな顔はされたくないと思うがな」

「確かに、それはそうだ」


 人の事を勤勉と言いながら、俺も同じ様に訓練に来たんだからな。

 むしろ俺の方が、意外そうな顔をされてもおかしくない。

 今まで訓練場の存在すら知らなかったしな。


「これは、どこを使っても良いのか?」

「空いてる所で、他人の邪魔にならねえならどこでも良いんじゃねえか。何なら組合に入ってねえ連中も使ってる事があるらしいしな。わざわざ誰がそうかなんて確認はしてねえけど」


 ふむ、無料公開している自由広場といった所か。

 勿論負傷は自己責任で、馬鹿は叩き出されるだろうな。


「・・・注目を浴びているな。気にしていない者も多いが」

「そりゃまあ、嬢ちゃんの辺境に来てからの戦績知ってりゃ、そうもなるだろ。組合に来て早々に数人叩きのめして、支部長にも喧嘩を売って、かと思えば数日間怒涛の様に魔獣を狩って、さらに数日前の危険魔獣の討伐だろ? 目立たない方がおかしいだろ」


 言われてみればそうだな。我ながら随分と勤勉な事だ。

 とはいえ欲望の為に働いていたので、勤勉とは言い切れないが。


「まあ、未だに嬢ちゃんの実力を信じてない奴も居るみたいだけどな」

「居るだろうな。衛兵にも居たぐらいだしな」


 俺の情報を受け取っている兵士ですら、俺の実力を疑っていた。

 騎士や魔術師は、その眼で俺の力を見ているから別だが、見ていなければそんな物だ。

 とはいえ別にこちらから構うつもりも無いし、俺は俺で適当に鍛錬をするとしよう。


「あー、それでだな、嬢ちゃん・・・一つお願いをして良いか? ああ勿論断ってくれて良い。嬢ちゃんに何の利点も無い願いだから、むしろ断られて当然だと思ってるし」

「・・・どちらにせよ、まず願いの内容を言え」

「ああ、わ、わるい」


 やけに親切だと思ったが、もしや打算があっての行動か。

 とはいえ断られる前提という事は、あわよくばという程度の考えか。

 男は何時かの様に言い難そうにしながら、けれどしっかりとした表情を俺に向けた。


「俺を、鍛えてくれねえか。頼む。出来る限りの金は積む。つっても今の俺には大した金はねえんだが・・・それでも、出せるだけは出す。何なら借金しても良い」


 ただ男の口から出た内容は、打算は含んではいるが真摯な願いだった。

 知り合った機会を逃さない様に、というのは打算ではあるのだろう。

 だが案内の報酬だとか、知り合った甘えだとか、そんな物は含んでいない。


 金を払うと言った。金が欲しいと、金が要ると、世に抗う為に金を求めた男が。

 先の金を手に入れる為にも、今の金を使ってでも教えを乞うと。

 ただ無償で助けてくれ、等という甘えをこの男はしなかった。


「・・・頼まれても、俺には大した事は教えられんぞ?」

「それでも構わねえ。嬢ちゃんぐらい強い相手に、打ち合いをさせて貰えるだけでも十分だ。むしろ贅沢すぎるぐらいだと思う。どうか、お願いします」


 男は深く頭を下げた。そこに恥や外聞などといった事に構う様子は無い。

 俺が子供だからと侮る事も、甘く見る事も無く、むしろ尊敬の念すら見える様子で。


「・・・先に言っておくが、俺は防寒具が出来たら山へ向かう予定だ。付き合えるのはそれまでだぞ。それに俺の訓練もしたいから、常に付き合うつもりもない。それで構わないならだ」

「っ、か、構わねえ! ありがとう嬢ちゃん!」


 俺の返答を聞いた男は、跳ね上がる様に顔を上げ、俺の手を握る。

 両手で包む様に握り込みながら、再度祈るように頭を下げた。

 まるで師匠に弟子にして貰えたと喜ぶ様に。


「何だアイツ、何であんな子供に頭下げてんだ?」

「突然やかましいな」

「おい、アレに関わるな。掲示板見てねえのか」

「ああ、あの子供かアレ。遠目だから顔が解んねーけど、確かに服は一緒だな」

「なっさけねえの。ガキにどんな弱み握られてやがんだか」


 周囲の反応は様々で、当然ながら俺を侮り、つまりは男を侮る声も聞こえる。

 だが男は一切を気にせず顔を上げ、むしろ笑顔を俺に向けて来た。


「それで、嬢ちゃんは今から何をするつもりなんだ。先ずは嬢ちゃんの都合が先だからな、終わるまで待ってるつもりだが・・・ああいや、その間に報告して金降ろして来るか?」

「金の類は後で良い。とりあえず空きの有る所に移動するぞ。先に付き合ってやる」

「い、良いのか?」

「お前の体力が先に尽きる。その後でのんびりやるだけだ・・・だが早々にくたばるなよ?」

「が、頑張ろう」


 俺の言葉にごくりとつばを呑む男を連れ、空いている場所へと移動した。


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