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第77話、夢と目標

「周囲がお前に遠慮してるのは、お前の後ろにやべーのが居るからかと思ってた」

「馬鹿か、だったら貴様の上司が俺を見逃すものか」


 この街の領主は無能ではなく、騎士や魔術師、そして大半の兵も無能には見えない。

 もし俺が本当に問題を抱えていれば、そのまま放置する訳がないだろうに。


「・・・そうだよ、俺は馬鹿だから・・・だから、知らされてない事があると思ってた」


 呆れを含んだ俺の言葉に、衛兵は肩を落として呟く。

 その姿には最早、俺を呼び止めて咎めた時の元気は無い。

 怒って反論するかと思ったのに、予想が外れて調子が狂うな。


「有るだろうな。今回は一歩間違えれば、貴様は俺に殴られて治療が必要になっていた。短絡的な行動をする事が見える手合いに、大事な情報など話しはせんだろうよ」

「・・・そうだろうな」


 衛兵は粉砕した木片を拾い、ぎゅっと握ると苦し気に呟いた。

 余りに素直過ぎて気持ち悪い。本当に、さっきまでの元気はどこへ行った。

 煩いのはそれで迷惑だが、変に落ち込まれても迷惑極まりないんだが。


 いや、何故俺がこいつの気を使う必要が有るのか。何もないだろう。

 むしろこの方が良い。変に絡まれる事も無い訳だからな。

 そう思い声をかける事を止め、武具店の娘へ顔を向ける。


「では、俺は帰る」

「え、帰るの?」

「もう用事は終わった。店主からの連絡も貰っていないし、俺に出来る事はないだろう?」

「それは、まあ・・・あ、そうだ、その服どうかな。数日使ってみても問題無い?」

「ああ、全く問題無い。むしろ大助かりだ」

「そっか、良かった。もし何か問題あったら持って来てね。簡単に直せる所なら私が手直しするからさ。多分ミクちゃん私がただの店番だと思ってるだろうけど、一応跡継ぎなんだよ?」

「・・・そうだったのか」


 それは驚いた。いや本当に。本人の言った通り、ただの店番だと思っていた。

 それこそ食堂の娘の様に、客引きの可愛い看板娘としての存在だと。


「ふふっ、職人って言うと大体男の人だし、お父さんみたいな厳つい人が多いからね。意外と思うのが普通だと思うよ。まあ、私はまだ職人未満で、後継ぎ候補だけど」

「候補か。他に弟子は居るのか?」

「ううん、弟子は取ってないよ。お父さん、私以外に教える気は無いみたいだし」

「なら後を継ぐ事を期待されているんだな」

「職人未満の腕のままなら絶対に店は任せねぇ、って言われてるから解んないけどね」


 苦笑しながら応える娘だが、若干嬉しそうなのは見間違いではないだろう。

 実際跡継ぎにする気が無いのであれば、そもそも教える事すらしないだろうし。

 娘もそれが解っているからこそ、嬉しいが不安も有るという所か。


 職人の技術なんて、一日二日学んで身に付く様なものではない。

 店主は組合の支部長が勧める様な職人、となれば求める技術も高いはずだ。

 その娘に向ける職人としての水準は、当然低いものでは無いだろう。


「得意分野は一応あるから、そっちだけ伸ばすのもアリって言われたんだけど・・・でも出来るなら全部出来たいって、お父さんのお店継げたらなって、そう思ってるの」


 女の職人。それだけで軽く見る者は居そうな気がする。

 文明の低い世界であれば、尚の事性別の差は軽視の理由に繋がる。


 勿論魔法がある世界な事を考えると、性別など些細なことかもしれない。

 そもそも組合にも、大剣を担いだ女を何人か見た。

 中には魔道具もあり、つまりは補助道具もある訳だ。戦える訳だ。


 それでも女を軽視する発言は聞こえ、だが実力で黙らせている女が居た。

 その代表のような存在が、この街の組合支部長なんだろう。

 だがそれは、黙らせるだけの実力が必要、という事だ。


「努力すれば夢が叶う、などという甘い事は言わん。だが努力しなければ絶対に叶いはしない。目指すのであれば迷わずに努力し続けろ。結果は出ないかもしれないが、そんな物は考えるだけ無駄だ。周囲を黙らせるだけの力が無ければ、女の身というだけで面倒な事になる」

「・・・体験談?」

「かもな。俺の場合はそこに『子供』という項目が追加されるが」

「ふふっ、そうだね。ミクちゃん見た目はすっごく可愛いもんね」


 娘はこんなガキの告げた言葉に対し、馬鹿にも呆れもせず真摯に受け止めた。

 だからこそ店主も娘に教え、諦めない限りは後継ぎ候補として扱うのだろう。

 まあ単純に、この見た目で苦労している、と思われたのかもしれないが。


 実際の所はそこまで苦労はしてないけどな。黙らせる努力は今しているが。

 お互いまだ遠い道のりではあるが、俺の方が若干叶う可能性は高いだろう。

 何せ辺境の魔獣は、俺を確実に強化できると確信できているからな。


「さて、じゃあ今度こそ本当に帰る」

「あ、ごめんね引き留めちゃって。気を付けて帰ってね」

「ま、まて、俺が送る!」


 そこまで静かだった衛兵は、俺が店を去ろうとすると追って来た。

 流石にもう迷わないとは思ったが、念の為もう一度案内はさせる事に。

 あくまで念の為だ。大丈夫だとは思うが、念の為だ。


『すぴー・・・すぴー・・・』


 なお精霊は会話に飽きたのか、途中で眠っていたので武具店に捨てて来た。


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