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第75話、詰問

「げっ」

「ん?」

『あー』


 魔核の効果を実感した翌日、流石に今日こそ武具店に向かおうとしていた。

 ただその道中で露骨に嫌そうな声が聞こえ、思わずそちらを振り向く。

 するとそこには先日の衛兵が、若い方の衛兵が俺を事を見ていた。


 だからと言ってどうという事もないので、すぐ視線を戻して足を進める。


「あっ、オイコラ、無視すんじゃねえよ!」

「・・・何だ、俺に何か用か」

『用事かいー?』


 だが何故か呼び止められたので、面倒な気分を隠しもせずに聞き返した。

 すると衛兵は明らかに不愉快そうな顔を見せ、舌打ちまでして来る。

 そこまで気に食わないのであれば、俺などに声をかけなければ良いだろうに。


「・・・本当に太々しいガキだなお前」

「言いたい事がそれで終わりなら、もう行っても良いか?」

「っ・・・っとにムカつくガキだなテメエ」

『妹はちょっと生意気だからね! そこが可愛いと兄は思う!』


 ならそんなムカつく子供に関わらなければ良いだろうに。

 態々自分で不快になる行動をするとは、中々に頭が悪いと思うぞ。

 だが男はそれでも去って行かず、むしろ俺に近づいて来た。


「てめえは何を隠してやがる。どんな企みに加担してんだ」

「・・・企み? 俺の企み事など、何故貴様に話す必要が有る」

『妹って考えているようで、大体何も考えてないと思う』


 煩い。お前に言われたくない。一番何も考えてないくせに。

 だがそんな俺の返答を聞いた男は、怒りで震える様子を見せた。


「っ、やっぱりてめぇ、何か隠してやがんのか・・・!」

「隠し事の無い人間など居るのか?」

『兄は精霊だから無いよ!』

「このっ・・・!」


 衛兵は今にも殴りかかって来そうな程に、歯を見せて怒りの顔を向ける。

 その表情は最早、俺は何かを企んでいると、そう断定している様子だ。

 因みに俺の返答はわざとだ。勘違いさせる様に喋っている。


 企みは在るが、当然それはこの男が考えている様なものじゃない。

 ただ辺境で強くなる為、国を敵にしても良い強さを手に入れる為の企みだ。

 昨日衛兵が俺に対して疑っていた様な、犯罪的な企みは一つもない。


 いや、国を敵に回す可能性を考えているのだから、それは犯罪ではあるのか。

 だからと言って、悪党として生きる俺が目標を変える事等ありえんがな。

 むしろ悪党としては望む処だろう。自由の為に悪を貫くのは。悪を企むのは。


 大した隠し事ではないつもりだったが、そう考えると大仰な隠し事だな。


「くくっ」

「なっ、何嗤ってやがる!」

「ああいや、貴様には関係のない事だ。ただ愉快になっただけでな」

「このっ、ふざけやがって・・・!」


 衛兵は馬鹿にされたと思ったのか、最早湯気が出そうな表情だ。

 警備の為の槍を持つ手がぎしっと鳴り、どれだけ力を入れているのかが伺える。


「それで、貴様はその疑わしい俺をどうしたいんだ。問題を起こす前に殺したいのか?」

「っ、馬鹿にすんな。事件を起こしてない子供を殺す訳ねえだろ。けどな、てめえが何か隠してるって言うなら拘束させて貰う。でなきゃ、てめえが死ぬかもしれねえだろうが」

「・・・突然不思議な事を言い出したな。何故俺が死ぬ必要が有る」

『妹は兄が守るから死なないぞ!』


 むしろ現状を見れば、俺に槍を突きつけて貴様が死ぬだけだろう。

 一応領主との約束があるから、殺すつもりは無かったが。

 何故俺が死ぬ、等という訳の解らない結論になるのか全く解らん。


 後精霊、吹雪の時は助かったとは思ったが、実質的には何もしてなかっただろうが。

 俺にはお前の『守る』の基準がさっぱり解らん。何なんだこいつらは。


「ガキが怪しげな事に口を噤む時は、下らねえ連中が黙らせてる時だ。てめえが何をどう言われて騙されてるのか知らねえがな、連中はガキ一人の命なんて何とも思っちゃいねえ。てめえは態度が悪いし生意気だしムカつくガキだが、それでもガキはガキだ。守るべきなんだよ」

「・・・貴様、良く勘違いされないか」

「ああ? 何の話だよ」


 これ以上は面倒なので、挑発して手を出したら殴って黙らせるつもりだった。

 だが発言から察するに、どうもこの男、俺の事を心配している様だ。

 解るかそんなもの。人の態度がどうこう言う前に、貴様こそ態度を改めろ。


 その態度で本気で俺を心配しているなど、どうやっても伝わる訳がないだろう。

 もう一人の衛兵が頭を下げたのは、馬鹿でも衛兵としては真面目な馬鹿だったせいか。

 絶対に部下には持ちたくない手合いだな。真面目だが使い難過ぎる。


 何故この街は騎士団といい衛兵と言い、苦労人の上司しか居ないんだ。

 昨日迷惑をかけた俺が言える事では無いが、大丈夫かアイツ等。


「お前は昨日の上司にもっと頭を下げるべきだと思うぞ」

「ああ!? んなもん昨日散々下げたに決まってんだろうが! てめえ送って詰所に帰ってきた後で平謝りしたっつうの! あの人怒らねえから気まずさが半端なかったじゃねえか!」

『ふはははは! 僕は妹の守護者だー!』


 ・・・ああ、つまり、叱られる前に謝り、許されても謝った訳かコイツ。

 何だこいつ。絶対生き方を間違えているだろう。

 まさか昨日謝ったのも怯えた訳ではなく、尊敬する上司に叱られてへこんだだけか。


 あと精霊が煩い。物凄く煩い。頭の上で叫ぶな。ああもう色々面倒臭い。


「・・・何だこの状況」


 俺はただ、今日こそ武具店に向かいたかっただけなのに。凄く脱力して来た。


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