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第70話、監視理由

「では納得してくれた所で褒賞だが・・・貴殿は防寒具の支払いを控えているらしいな」

「・・・耳が早いな。監視でもしていたか」


 俺が防寒具を作ると決めたのは、つい先日の話だ。

 となれば、自然にこの男に伝わる様な時間は無いはず。

 騎士が組合に来た事が気にかかっていたが、まさかアレはそういう理由か。


「監視を付ける意味が見出せんな。貴殿は行動を起こすなら、裏でコソコソやるよりも正面から襲って来る手合いだろう。そんな人間を監視しても労力の無駄だ。貴殿を利用しようとする馬鹿を見つける為の監視、ならば意味は有るだろうが・・・現状は必要無いだろうしな」

「・・・」


 若干呆れた様子で言われ、領主の理解度の高さに一瞬黙ってしまった。

 だがそう言われたとしても、ならば何故知っているという疑問は残る。


「俺が防寒具を頼んだのは昨日だぞ。監視が居ないのであればどうやって知った」

「グレーブルの奴が聞いてもいないのに喋っただけだ」

「・・・誰だ?」

「組合支部長殿だよ」

「ああ、そういえばそんな名前だったか・・・またアイツか。何時だ」


 気のせいか、俺の事情に関しては大体アイツから広がっている様な気がする。

 いや、勿論アイツだけじゃなく、色んな噂が飛び交っているせいではあるんだが。

 俺もまともに相手する気が無いし、どんな噂だろが放置しているので余計にだろう。


「貴殿が今日組合を出た後だろうな。受付嬢から事情を聞いて、俺の所にやって来た。一体どういう事だと問い詰められてな。面倒事になっても貴殿と事を構えるのは絶対に御免だと、中々な勢いだったので内容を教えてやった。アイツ相手なら特に隠す様な内容でも無いしな」

「そうだな・・・あんなのでも支部長だからな・・・」


 喋っていると時折忘れそうになるが、あの女は立場有る人間だ。

 だからこそ領主館に訪ねる事も出来れば、領主本人に込み入った話も聞けるか。

 その理由が俺と敵対しない為、という辺りが何ともあの女らしい行動だが。


「くくっ、あんなの、か。貴殿の前では女傑も型無しだな」

「女傑、ね。俺の目にはポンコツ女にしか映らんがな」

「それは貴殿が強すぎるだけだろう。一般人からすれば、彼女は荒くれ共を纏める女傑だよ」

「・・・まあ、そうなんだろうな」


 辺境の組合等という、明らかに面倒そうな支部の支部長。

 一癖も二癖も有りそうな連中が集まる様な、そんな場所を纏める女傑。

 そういう風に見る事も出来なくはないが、どうにも俺は初対面の印象が強すぎる。


 特に恐怖と緊張が振り切れて、泣きじゃくって受付嬢に甘えていた姿がな。


「ともあれ、誤解は解けたか?」

「そうだな。疑って悪かった」

「別に悪くはない。貴殿の立場を考えれば当然の話とも言えるしな」

「・・・そうなのか?」


 俺の立場と言われても、俺に立場らしいものなど存在しないのだが。

 むしろ自由気ままに生きるダメ人間共と同じ立場と言える。


「貴殿は精霊付きだからな。私は気にしないが、その事実を知れば監視を付けたいと思う人間は確実に居るぞ。何時どんな暴走をするか解らないと恐れてな」

「暴走、するもの、なのか?」

「実際に見た訳ではないが、貴殿の様に自由を求める精霊付きには起こりえる、と聞いている」


 伝聞で知っている程度か。だがそれでも俺よりは情報が多そうだな。

 精霊に関しては不明な点が多い。情報があるなら聞いておきたい。


「その話、詳しく聞かせて貰って良いか?」

「別に構わんが、余り詳しくは無いぞ。それでも良いならという話になる」

「それで良い。頼む」

「そうだな・・・自由を求める精霊付きは、騒動を引き起こす事があると言われている。精霊の力を制御出来ず、周囲の被害を齎すと。故に精霊付きに接触する人間を排除する為に、監視を付ける事があるそうだ。気に入った人間に害を為したと、精霊に判断されん様にな」


 周囲が害を為した・・・言われてみると、心当たりが一つだけある。

 支部長を攻撃した時だ。精霊はあの時本気で殺す気だった。

 俺がまだ手を出す気のない状況でも、俺が精霊の力を借りる気が無くてもだ。


 つまりは付かれている側の意図しない行動を『暴走』と呼んでいる訳だな。


「だがそれでは、自由を求めない精霊付きは違う、と言っている様に聞こえるが」

「実際そうらしい。組織に属する精霊付きは滅多に暴走しないと言われている」


 これも伝聞の様だが、だとしても事例が在るらしい。気になるな。


「・・・何か理由があるのか?」

「あくまで予想だが、精霊の性質の違いではないかと言われている。組織に属する様な人間は、付いた精霊も同じ性質を持つのではと。規則にある程度の許容が在るのではないかとな」

「・・・反対に自由を求める人間についた精霊は、害を為したと判定する基準が曖昧と?」

「おそらく、だがな。事例が少ないので断言はできない」


 成程。確かに言われてみれば、精霊とて個別の性格が有るだろう。

 今の所コレにしか出会っていないが、真面目な精霊だって居るはずだ。

 となれば規則に従う人間を気に入り、同じ様に従う精霊が居ても不思議ではない。


 ああ、そうか、最初の時点で領主が天を仰いだのは、これも理由だった訳か。

 規則に従わない俺についている精霊が、暴走しなくて本当に良かったと。


「貴殿は自由を求める割に、精霊が暴走し難い様でどれだけ安堵したか」


 これは正直に言うべきか、それとも黙っているべきか。

 別にいう必要は無いか。実際『暴走』し難いのは確かだしな。

 むしろ普段が暴走とも言える。好き勝手に動きすぎだ。


「・・・大分話がそれてしまったな。話を戻すが、そんな訳でグレーブルから話を聞き、貴殿が入用だと言う事を知っている。なので貴殿の防寒具の素材の提供、および支払いでどうだ」

「素材もか? 随分と太っ腹な事だ。流石に損が大きいだろう」

「騎士が一人死んだ方が面倒だ」

「・・・そうかもな」


 生前の記憶を引っ張って来ると、確かになと言いたくなる部分がある。

 俺の上司共は、そんな事情などお構いなしの連中ばかりだったが。


「まあ、領主殿がそれで構わないなら、俺は有難く貰うだけだ」

「ではそうしよう」


 どんな意図が在ろうが、俺はただ貰える物は貰う、という以上の意味を持つ気は無い。

 そう意思表示しての言葉だったが、領主は気にせず頷き返して来た。


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