第68話、持ち込み先
「所で・・・そちらの方は、ミク殿のお仲間ですかな?」
戦果報告が終わった所で、騎士の視線が俺の後ろへと向く。
そこには倒れた人物が居り、当然ながら俺を尾行していた男だ。
一応軽く治癒術はかけておいたが、まだ意識は戻っていない。
「生きていたから持って帰っただけだ。後は治療院でもどこでも良いが任せたい」
『まかせるー!』
同じ戦場に居れば仲間、という人間も世の中には居るらしい。
だが俺にそんな感覚は無いし、精霊が助けなければ放置しただろう。
殆ど気まぐれに近い理由で助けただけで、仲間等と言うつもりは無い。
「そうですか、そういう事であればこちらで引き受けましょう」
「そうしてくれるなら助かる」
何処に持っていくべきか、と少し悩んではいた。
なので騎士達が引き受けてくれるなら、俺にとっては助かる話だ。
まあ騎士達が来なければ、門番に押し付けるつもりだったんだが。
・・・そう言えばあの男、この門を通ったんだよな。
その時はどういう対応をしたのだろうか。
ここの門番であれば、素直に通す事はなさそうなものだが。
まあ、どうでも良いか。もう二度と関わる事も無いだろう。
そんな事よりも、この魔獣の素材が金になるか、という方が重要だ。
「そういえば組合では、素材は領主館に持って行った方が良いと言われたが、実際はどうすれば良いのだろうか。この通り碌な状態じゃないし、持って行っても邪魔になるか?」
せめて穴だらけの素材、程度であればまだ良かったんだがな。
頭は当然無いし、胴体も大部分が千切れて吹き飛んでいる。
内臓なんてほぼほぼ残っていないし、無事な足は一つだけだ。
こんなズタボロを持ってこられても、領主だって困るんじゃないか?
「そちらの魔獣を売却したいと言う事でしたら、ぜひお持ち下さい。ミク殿が訊ねて下されば、領主様はきっとお喜びになるでしょう」
「・・・喜ぶか?」
『お菓子食べに行こう!』
あの領主は話が通じる人間ではあるが、俺に対し特別な感情を持っている訳ではない。
ただ役に立つ存在だと認識して、有用な契約を持ちかけた相手に過ぎない。
ならこの結果自体には喜ぶかもしれないが、俺自身の訪問はどうでも良いだろう。
ああ、だが領主の使用人は、精霊が来たという事で喜びそうだな。
精霊の言う通り、菓子を用意して待っていそうだ。
とはいえ金になるならそれに越した事はない。ダメもとで持っていくか。
「解った。じゃあ持って行くとするか」
「畏まりました」
俺がそう答えると、騎士は立ち上がって部下に指示を出し、3部隊に別れた。
とはいえ殆どは1つの部隊に固まり、残り2つは少人数だったが。
「気を付けてな」
「はっ」
一番多い部隊を任された騎士が、背を伸ばして応えた後で門をくぐっていく。
それに他の騎士や魔術師も追従し、殆どの者が門の向こうへと消えて行った。
あの騎士達は一体何をしに向かうのだろうか。
「まさか、他にも危険な魔獣が出たのか?」
「いえ、念の為の確認作業です。現れた魔獣が一体だけとは限りませんから」
「・・・そうか、失念していた。言われてみればその通りだな」
勝手に一体だけだと思い込んでいたが、獣なのだから群れの可能性もある。
俺が仕留めた個体は群れからはぐれただけか、それとも単独なのかは解らない。
となれば近くにまだ居ないか、安全確認はしておくべきなのだろう。
「もう一度俺が出るか?」
もしまだあの魔獣が居るのであれば、次はもう少し上手くやれるだろう。
それに魔核も手に入る。むしろそっちが重要だが。
「いえ、それには及びません。その魔獣は過去にも出現した記録があり、いずれも単独での出現でした。勿論今回は例外の可能性もありますが、あくまで念の為の確認に過ぎませんよ」
つまりは過去騎士達で件の魔獣を退治した事がある、という事だな。
一体あの吹雪をどう攻略するのか、少々気になる所がある。
ああいや、だからこその魔術師との混成部隊な訳か。
騎士達だけでは、あの吹雪に対応するのは難しいだろうからな。
「では、参りましょう。貴女には不要とは思いますが、領主館まで警護を務めさせて頂きます。魔獣もこちらでお持ち致しましょう」
「解った」
手を差し出す騎士に魔獣を預け、案内される様に彼らの後ろを歩く。
ただ少女の歩幅に合わせる事に慣れていないのか、若干動きがぎこちない。
俺の速度には合わせているのだが、足並みがそろっていない様に見える。
いや、別に移動だけなのだし、別にしっかりと合わせる必要もないのか。
因みに最後の1部隊は、俺が頼んだ男を何処かへ連れて行く人員だ。
二人で男を抱えて別方向へ去って行った。向こうに治療院の類でも有るんだろう。




