第67話、戦果報告
「おう、おかえり嬢ちゃん。無事でよかった」
『ただいまー!』
「そうだな、俺もそう思う」
街の門をくぐる俺に声をかけた門番に対し、小さくため息を吐きながら応える。
今回ばかりは無事に帰れたかどうか、そう思う自分が確実に居る。
結果的に外傷はなく、防寒具には一切傷がついていない。
一見何も問題無く勝てた様に見えるが、実際は問題だらけだ。
何かが違えば俺は吹雪に晒され続け、最終的には寒さでやられていたかもしれない。
この防寒具は確かに暖かいが、それは着ている人間に発熱する体力があればの話だ。
消耗戦をさせられる事になっていれば、その体力を削られてしまう。
ただ相手が魔獣である以上生き物で、どこまで持久戦が出来るかは不明だ。
やってみなければ解らないが、解らないという時点で死の可能性はあった。
「嬢ちゃんがそこまで言う程の魔獣か。んなもんが街の傍まで来たかと思うとぞっとするな」
『雪でいっぱいになったと思う!』
「アレがこの近隣まで来たら、間違いなく大惨事だろうな。少なくとも砦の上の人間はただではすむまいな。目くらましの上に遠距離攻撃だ。いい的と言うしかない」
「あー・・・何が起きたのか確認しようとして、そのままやられる感じか」
『雪玉バーンされちゃうね!』
「そうだな。兵士としての仕事を全うしようとして、それが悪手になる形だ」
皮肉な話ではあるが、真面目であればある程命の危険が有るだろう。
逆に危険を感じて伏せたり逃げる方が、助かる可能性がかなり高い。
本当に皮肉だな。職務に忠実な人間の方が死に易いなんて。
こういう点も、悪党が生き延びる大きな要因なのだろう。
「なら嬢ちゃんには感謝しねえとな。俺達の命を救ってくれてよ」
『どういたしまして!』
お前じゃない。俺だ。いや今回に限っては否定しにくいな。
「どの道俺が動かずとも、騎士団が動いていただろう」
「そりゃそうかもしれねえけど、間に合わなかった可能性もあるだろ。俺はこの位置だから解らなかったが、上の連中はかなり警戒してたぜ。吹雪の距離が近すぎたからな」
「そうか・・・確かにそうだな。街に近かった」
門を出てからすぐに出会った訳ではなく、それでも長々と歩いた訳でも無い。
昼前に出たにもかかわらず、日が暮れてもいないのが良い証拠だ。
なら獣の足であれば、あっという間に街まで迫って来るだろう。
「その報告は上げているのか?」
「おうさ。結構前に走らせてるぜ。もう領主様も知ってるだろうし、騎士団も・・・来たな」
『なんかいっぱいきたー!』
門番が視線を動かしたので、俺も釣られて同じ方向を向く。
すると武装した騎士と魔術師の集団が、整列してこちらに向かっていた。
その視線はかなり険しく、だが俺を見て少しだけ雰囲気が和らいだ気がした。
部隊の中には見覚えのある者達が居り、俺がしごいた奴も居るせいだろうか。
その中で部隊を率いている責任者なのか、騎士と魔術師が一人ずつ前に出た。
どちらも見覚えのない者達だが、向こうは俺の事は知っている様子がある。
そんな風に観察していると、騎士が膝をついて目線を合わせた。
「ミク殿、ご無事でしたか」
「見ての通りだ」
『とおりだー!』
「流石ですな」
「そうでもない。今回は危なかった。この惨状を見れば伝わるだろう?」
『ずたぼろー』
地面に置いていた魔獣の足を掴み、騎士と魔術師に見せつける様に掲げる。
とはいえ俺の身長が低いので、後ろの連中は見難いだろうが。
それでも正面に居る責任者に見えていれば良いと、二人に魔獣を差し出す。
「これは・・・成程」
「・・・こうせざるを得なかった、という事なのでしょうね」
素材になるのかどうか怪しい魔獣の残骸を見て、二人は俺の言いたい事を理解した。
綺麗に仕留められるなら当然そうするが、そんな余裕は一切無かったのだと。
すると騎士は相変わらず膝をついたまま、目を伏せて軽く頭を下げた。
「ならば尚の事、流石という言葉と、感謝をお伝えしたい」
「前者は兎も角、後者は言われる理由がない」
「いいえ、むしろ後者こそが重要でしょう。貴女がこの魔獣を狩りに出てくれたからこそ、我々には一切の損耗が無かった。魔獣を狩れば確かに利益になりますが、このレベルの魔獣が相手では損害の方が大きい可能性があります。何事も無いに越した事は無いのです」
「・・・そうか、まあ好きに思えば良い」
どれだけ否定した所で、この騎士は自分の意見を曲げないだろう。
そんな気配を感じた以上、どうこうと訂正する方が面倒だ。
そう思い好きにしろと伝え、溜め息を吐きながら魔術師の方を見る。
「私もおおむね一緒ですよ。ありがとう、ミク殿」
「そうか」
まあ、別にどうでもいいか。俺は俺のやりたい事をやっただけに過ぎない。
次の情報も受け取る為に、今回の魔獣は絶対に倒す必要が有っただけの事。
それに目的の魔核は手に入れたし、俺にとって利益の有る事でしかない。
結果だけを考えれば、新しい魔術も覚えた事だしな。




