表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
67/370

第67話、戦果報告

「おう、おかえり嬢ちゃん。無事でよかった」

『ただいまー!』

「そうだな、俺もそう思う」


 街の門をくぐる俺に声をかけた門番に対し、小さくため息を吐きながら応える。


 今回ばかりは無事に帰れたかどうか、そう思う自分が確実に居る。

 結果的に外傷はなく、防寒具には一切傷がついていない。

 一見何も問題無く勝てた様に見えるが、実際は問題だらけだ。


 何かが違えば俺は吹雪に晒され続け、最終的には寒さでやられていたかもしれない。

 この防寒具は確かに暖かいが、それは着ている人間に発熱する体力があればの話だ。

 消耗戦をさせられる事になっていれば、その体力を削られてしまう。


 ただ相手が魔獣である以上生き物で、どこまで持久戦が出来るかは不明だ。

 やってみなければ解らないが、解らないという時点で死の可能性はあった。


「嬢ちゃんがそこまで言う程の魔獣か。んなもんが街の傍まで来たかと思うとぞっとするな」

『雪でいっぱいになったと思う!』

「アレがこの近隣まで来たら、間違いなく大惨事だろうな。少なくとも砦の上の人間はただではすむまいな。目くらましの上に遠距離攻撃だ。いい的と言うしかない」

「あー・・・何が起きたのか確認しようとして、そのままやられる感じか」

『雪玉バーンされちゃうね!』

「そうだな。兵士としての仕事を全うしようとして、それが悪手になる形だ」


 皮肉な話ではあるが、真面目であればある程命の危険が有るだろう。

 逆に危険を感じて伏せたり逃げる方が、助かる可能性がかなり高い。

 本当に皮肉だな。職務に忠実な人間の方が死に易いなんて。


 こういう点も、悪党が生き延びる大きな要因なのだろう。


「なら嬢ちゃんには感謝しねえとな。俺達の命を救ってくれてよ」

『どういたしまして!』


 お前じゃない。俺だ。いや今回に限っては否定しにくいな。


「どの道俺が動かずとも、騎士団が動いていただろう」

「そりゃそうかもしれねえけど、間に合わなかった可能性もあるだろ。俺はこの位置だから解らなかったが、上の連中はかなり警戒してたぜ。吹雪の距離が近すぎたからな」

「そうか・・・確かにそうだな。街に近かった」


 門を出てからすぐに出会った訳ではなく、それでも長々と歩いた訳でも無い。

 昼前に出たにもかかわらず、日が暮れてもいないのが良い証拠だ。

 なら獣の足であれば、あっという間に街まで迫って来るだろう。


「その報告は上げているのか?」

「おうさ。結構前に走らせてるぜ。もう領主様も知ってるだろうし、騎士団も・・・来たな」

『なんかいっぱいきたー!』


 門番が視線を動かしたので、俺も釣られて同じ方向を向く。

 すると武装した騎士と魔術師の集団が、整列してこちらに向かっていた。

 その視線はかなり険しく、だが俺を見て少しだけ雰囲気が和らいだ気がした。


 部隊の中には見覚えのある者達が居り、俺がしごいた奴も居るせいだろうか。

 その中で部隊を率いている責任者なのか、騎士と魔術師が一人ずつ前に出た。

 どちらも見覚えのない者達だが、向こうは俺の事は知っている様子がある。


 そんな風に観察していると、騎士が膝をついて目線を合わせた。


「ミク殿、ご無事でしたか」

「見ての通りだ」

『とおりだー!』

「流石ですな」

「そうでもない。今回は危なかった。この惨状を見れば伝わるだろう?」

『ずたぼろー』


 地面に置いていた魔獣の足を掴み、騎士と魔術師に見せつける様に掲げる。

 とはいえ俺の身長が低いので、後ろの連中は見難いだろうが。

 それでも正面に居る責任者に見えていれば良いと、二人に魔獣を差し出す。


「これは・・・成程」

「・・・こうせざるを得なかった、という事なのでしょうね」


 素材になるのかどうか怪しい魔獣の残骸を見て、二人は俺の言いたい事を理解した。

 綺麗に仕留められるなら当然そうするが、そんな余裕は一切無かったのだと。

 すると騎士は相変わらず膝をついたまま、目を伏せて軽く頭を下げた。


「ならば尚の事、流石という言葉と、感謝をお伝えしたい」

「前者は兎も角、後者は言われる理由がない」

「いいえ、むしろ後者こそが重要でしょう。貴女がこの魔獣を狩りに出てくれたからこそ、我々には一切の損耗が無かった。魔獣を狩れば確かに利益になりますが、このレベルの魔獣が相手では損害の方が大きい可能性があります。何事も無いに越した事は無いのです」

「・・・そうか、まあ好きに思えば良い」


 どれだけ否定した所で、この騎士は自分の意見を曲げないだろう。

 そんな気配を感じた以上、どうこうと訂正する方が面倒だ。

 そう思い好きにしろと伝え、溜め息を吐きながら魔術師の方を見る。


「私もおおむね一緒ですよ。ありがとう、ミク殿」

「そうか」


 まあ、別にどうでもいいか。俺は俺のやりたい事をやっただけに過ぎない。

 次の情報も受け取る為に、今回の魔獣は絶対に倒す必要が有っただけの事。

 それに目的の魔核は手に入れたし、俺にとって利益の有る事でしかない。


 結果だけを考えれば、新しい魔術も覚えた事だしな。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ