第66話、戦果
吹雪が収まった事で俺も吹雪を消し、改めてゆっくりと周囲を見回す。
すると精霊達が積もった雪の中から這い出て来て、ぷりぷり怒った様子を見せる。
『もー! ぷんぷん』『痛かったよ!』『びっくりした!』『兄は怒っています!』
そして俺の傍まで近づいて来ると、それぞれ俺に不満をぶちまけて来た。
だがそもそも俺は吹雪しか起こしておらず、攻撃をした覚えはない。
雪玉をぶち当てたなら兎も角、そこまで『痛い』理由は無いはずなんだがな。
やはり魔力の質か量の問題で、精霊達の体に干渉しやすいと言った所か。
「・・・そういえばアイツはどこだ」
不満を口にする精霊を無視して、俺を尾行してきた男はどこかと見まわす。
だが男の姿はどこにも見えず、有るのはただ積もった雪ばかりだ。
「死んだか」
男は防寒具を着てはいたが、吹雪に耐えられる物なのか俺には解らない。
例え吹雪を耐えられたとしても、あの男では雪玉は耐えられないだろう。
俺や精霊と違い、一発まともに受けただけで死ぬはずだ。
今回の戦闘は余裕がなかったし、方向感覚も狂わせられていた。
だから男がどうなったのかは解らないが、無事ではない事は確かだろう。
『よいせ! うんせ!』『どっこいしょ!』『ひきぬけー!』『雪が重いぞー!』
「うん?」
俺に文句を言っている精霊達以外に、何かを引き抜こうとしている精霊が居た。
何をしているのかと目を向けると、雪の中から男の姿が現れる。
俺を尾行していた男だ。意識はない様子だが、見たところ外傷は無いな。
「生きていたのか・・・いや、生きているのか?」
目を瞑って動く様子が無いので、疑問に思いながら近づく。
すると男は物凄く冷たくなっていたが、まだ息はある様子だった。
だがこのまま放置してしまえば、雪の冷たさに冷えて死ぬだろうな。
魔獣がこの男を攻撃しなかったのは、攻撃する必要が無かったからかもしれん。
吹雪にやられて死ぬのであれば、態々無駄に労力を使う必要も無いしな。
『これどうするー?』『まだ生きてるよー?』『妹の事心配してたよー?』
確かに精霊達の言う通り、この男は俺の事を心配していた。
どう考えても自分の身の方が危ないだろうに、何故か俺の事を気にかけていた。
何の気紛れかと思ったが、まさかその理由で助けたのか。助けたいという事か。
「・・・引きずって持って帰るか」
『助けてくれるってー』『良かったねー』『妹は優しいから』『生きて帰れるよー』
俺の答えを聞いた精霊達は、ペチペチと男の頬を叩く。
別にこのまま放置しても良いんだが、今回は精霊達に借りがある。
こいつらのおかげで問題無く魔獣を倒せた事実は、俺の中で軽くはない。
ならその借りを返す意味でも、男を助けたいと言うなら助けてやろう。
とりあえず街までもっていけば、誰かが救護してくれるだろからな。
流石にその後は知らん。そこまで面倒は見れん。
「街まで保つ様にはしておくか」
男に手を触れ、魔力を流し込んで循環させる。
身体機能を上げる事で、冷えた体をこれ以上冷えない様に。
むしろ熱を持って回復する様にと、治癒術で応急処置をしておく。
これで完全に暖まる訳ではないが、街まで保たせる事は出来るだろう。
というか、完全回復するまで治癒をかけてやる気がない、というだけだが。
「さて、魔獣を回収しに行くか」
『おー! 回収!』『ツラ拝んでやる!』『僕達の勝ちだー!』『ざまーみろー!』
男の状態が多少良くなった所で治癒術を止め、魔獣を倒したであろう地点に移動する。
周囲は当然ながら雪が積もっており、だがその中に赤い色が広がっていた。
俺の雪玉を食らった魔獣は、その衝撃で全身ボロボロで内臓も飛び出している。
「これは・・・何の魔獣か解らんな」
『何だろねこれ』『狐?』『犬かもしれない』『猫じゃないかなー』
残骸と言って良い状態なので、何の獣なのか少々判別しづらい。
特に頭がぐちゃぐちゃで粉砕されているので、一番の特徴を見る事が出来ない。
ただ四足の獣型な事だけは解った。精霊の言う通り犬や狐や猫系の足をしている。
とはいえ一本だけ無事な足で判別したので、違う可能性も十分にあるが。
「魔核は大丈夫だろうか・・・」
少々心配になりつつも、魔核を取り出そうと手を突っ込む。
すると肉体は散々な状態だったが、魔核はしっかりと形を保っていた。
「よかった。これが壊れていたら、何の為に戦ったのか解らんからな・・・今度からはその辺りも気を付けるとするか・・・いや、無理か。今回は余裕がなかった。同じような事態になれば、また同じように余裕なく倒すしかなくなる。出来れば気を付ける、程度に考えておくべきか」
『妹頑張った!』『強敵だったね!』『だが僕達の勝利だ!』『兄妹は最強なのだー!』
安堵とこれからの事を呟き、精霊の言葉は聞き流す。
確かに今回は精霊のおかげだったが、結局決定打が俺の力なのは変わらない。
あのまま放置しても、精霊はずっと雪玉を投げつけるだけだったろうしな。
しかも素直に雪を丸めて投げるだけだから、絶対に損傷は与えられない。
「はぁ・・・さて」
とりあえず魔核を懐に入れ、肉体はさてどうしたものかと悩む。
内臓は飛び散ってぐちゃぐちゃなので、回収するのは面倒くさいな。
ただ一応無事な部位もあるので、そこだけでも持って帰れば売れるだろうか。
「どうせアレを引きずって行くのだし、これも持っていくか」
無事だった足を掴み、ずるずると雪の上を引きずって戻る。
男の元まで戻ったら、今度は男の足を握ってずるずると引きずる。
『かーえろー! かーえろー! おーうちーにかーえろー!』
精霊は途中で飽きたのか、いつの間にか一体に戻っていた。
気の抜ける音のずれた歌を聞き、生きてるのだと実感してしまったのが少し悔しい。




