第63話、関り
サクサクと雪を踏み鳴らす・・・音は聞こえず、凍った道を踏み砕く様に歩く。
パキリと音がする地面は、普通の靴では真面に歩けなかった予感がひしひしとする。
そうしてパキパキと音を鳴らしながら歩き続け、途中でその足を止めた。
「何か用か」
『ずっとついて来たよねー?』
後ろに振り向き問いかけると、もう一つ地面を踏み鳴らす音が止まる。
組合を出た所からずっとついて来た足音を、最初は気のせいかと思っていた。
だがどれだけ歩こうとも、その足音は俺を一定間隔で付けて来る。
なので声をかけた訳だが、どうやら本当について来たみたいだな。
そう思って足を止めた男を見ると、見覚えがある男だった。
「俺に用が有る、とは思えないんだがな」
『用件があるなら聞こうじゃないか!』
俺がそう訊ねると、その人物は気まずそうな表情を見せる。
ゲオルドに絡み、仲間から見放され、支部長に追い出された男が。
いや、そう考えれば絡む要素は一点だけあったか。
「ゲオルドと関りがあった俺に、腹いせに絡みにでも来たか?」
『そんな風には見えないよ?』
「そっ、そんな事するかよ! 俺は子供に絡む様なクソ野郎じゃねえ!」
子供に絡むクソ野郎。確かに言われてみると、クソみたいな野郎だな。
だが俺はそんなクソ野郎に何度か絡まれているので、疑うのは致し方ない。
というか、それ以外で俺について来る理由が解らないというのもある。
ゲオルドの事以外では、この男と俺に接点は無い。
あえて無理に上げるとすれば、同じ護衛依頼を受けた者という程度か。
それでも絡んで来た訳ではないと言うのなら、付いて来る理由は何も解らんが。
「なら一体何の用だ」
「それは・・・」
だが問い詰めると男は視線を逸らし、また気まずそうな顔になった。
何か用が有るのは間違いない様子だが、どうやら言い難い内容の様だ。
「用が無いならついて来るな」
『じゃあねー』
だがその内容を優しく聞いてやる理由も義理も無い。
俺はこの男に良い感情は無いし、だからと言って悪い感情も無い。
端的に言って興味のない相手だ。なら進まない話を続ける価値が無いだろう。
男に背を向け歩き出すと、背後で「ちょっ」と慌てる声が聞こえた。
だがそれ以上の言葉は無く、付いて来る気配も無いのでそのまま足を進める。
その後は男の事など忘れて歩を進め、山手の方の門までやって来た。
「おう、嬢ちゃん、しっかり防寒具着てるな。偉い偉い」
「世話焼きな門番に随分と忠告を受けたからな」
『妹は忠告を聞き届けられる子だから!』
開口一番揶揄う様子に、ふんっと鼻を鳴らしながら応える。
だが門番は気にした様子無く、笑顔で俺の頭を帽子越しに撫でた。
「まーだ拗ねてんのかよ。お、なんだこれ、すげえ手わざりが良いな。高かったろ」
「貰い物だ」
「マジか。こんな良い子供服、売りもせずにあげちまう奴が居るのか。どんな金持ちだよ」
『妹が寒そうだったからくれたんだよねー』
「武具店の娘だ。俺が商品を買うからと、その間はこれを着ておけと言われた」
「なーる。良い店を見つけたなぁ。組合で教えて貰ったのか?」
『変な女に案内されたよ!』
「・・・支部長が勧めた店だ」
「あー、そりゃ確実に良い店だろうなぁ。下手な店には連れて行かねえだろ。代わりにクッソ高そうだけど。俺みたいなしがない門番には手が届かねえだろうなぁ」
『今手が届いてるよ?』
今更だが精霊の合いの手がいちいち邪魔だな。会話のタイミングがずれる。
話し相手からすれば、謎の間を開けて喋る人間に見えている気がする。
ともあれ確かに少し驚く程高かったが、門番の給金がどの程度なのかは知らない、
とはいえ、いざという時に命を懸ける人間が、安い給金というのは可哀そうな気がするが。
いや、それを考えれば、狩り出る様な組合員は何時も命を懸けているのか。
常に死と隣り合わせで居るからこその報酬と、いざという時に命を懸ける給金の差。
その点を考え始めると、俺は相当なズルをしている気にはなるが。
今の所一度も命を懸けた事が無いからな。勝てる戦いしかしていない。
いや、もしかすると今日初めて、命を懸ける事になるかもしれないが。
「てことは、まだ注文した防寒具は出来てないんだよな。それなのに出るのか?」
「出る用が出来た」
「・・・騎士団じゃなくて、お嬢ちゃんがやるのか?」
成程、門番なのだから当然と言うべきか、魔獣の情報は共有されているのか。
そこで俺が出て行くという話をすれば、直結させてもおかしくはない。
「そういう契約なんでな」
「嬢ちゃんが危険な魔獣を倒すのがか。その為に山の奥に行こうとしたのか?」
「いや、それはまた別の話だ」
「・・・そうかい」
門番は何かを言いたそうに見えたし、問い詰めたい雰囲気も見えた。
だがそれ以上の事は何も言わず、門を開ける準備を始める。
「嬢ちゃん、俺に嬢ちゃんを止める権利は無いし、止めた所で止まらないとは思ってるが・・・気を付けてな。ちゃんと帰って来てくれよ」
「解った。元より死ぬつもりは無い」
砦の上に居る同僚と合図を出し合いながら、門番は俺を心配する言葉を投げる。
それは元々のお人好しさ故か、もしくはまた娘と重ねているのか。
どちらにせよ死ぬ気で向かう気は無く、むしろ絶対に生きて戻るつもりだ。
「いいぞ、行ってくれ嬢ちゃん」
「ああ」
門番の心配そうな表情に見送られ、雪の降る山へと向かう道に踏み出した。




