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第56話、支払い

「素材が無いのは、何故だ」

『何故だー!』

「単純に使い切っちまったからだな。何を作るにしても今から手に入れる必要が有る。となると良い物を探す時間も要るし、見つけてから作る時間も当然要る。お嬢ちゃんの望む物を作る事は出来るが、今すぐに提供って事は出来ねえ」


 それはまあ、流石に当たり前の話だろう。

 素材が無ければ何も作れず、あった所で作る時間は絶対に要る。

 流石にその点で我が儘を言うつもりは無いが、それにしても人気店なんだな。


「随分と繁盛しているんだな。素材が無くなる程の注文とは」

『大人気だね!』

「というよりも、注文を受けてから素材を集めて作ったり修繕しただけだよ。この辺りが一気に冷えるのは有名だからな。辺境に長居するつもりなら、大体は暖かい内に注文する客が多い。寒くなってから防寒具を買いに来る、なんて奴は基本的にその辺の中古をご所望だ」


 成程、だから服も武具と一緒に並べられている訳だ。

 俺と同じ様に下調べが足りず、慌てて買う人間用に。

 そしてそういった人間は、大半がオーダーメイドでは作らないだろう。


 なら店先に並んでいる者で十分で、だが俺はどうしてもそうはいかない。


「だが、お嬢ちゃんはそういう訳にもいかねえだろ?」

「そうだな。サイズが合わない物しか無いしな」

『全部おっきいもんね』


 コートぐらいなら紐で縛れば何とかならない事も無い。

 中に着る服も、不格好にはなるが何とかなるだろう。

 ただ問題は靴と手袋だ。こっちは流石にどうしようもない。


 手袋は最悪我慢するとしても、靴だけはちゃんとした物が欲しい。


「だからまあ、支部長さんが勧めてくれた事は有難いが、待つのが嫌だってんなら別の店も紹介できる。別に防寒具作れる人間はこの街で俺だけじゃないしな」

「態々利益を逃すのか?」

『良いのー?』

「別にお前さん一人の注文を受けなくて首が回らなくなる訳じゃねえしな。客の要望に応えるのが商売人ってもんだろう。とはいえ無茶を言う馬鹿は叩きのめして追い出すが」


 そうか、確かに注文を受けて作る様な店であれば、面倒な客一人逃しても痛くは無いか。

 急ぐ仕事を受けて面倒になるぐらいなら、最初から受けない方が正解だな。

 客商売としての態度と、何よりも馬鹿相手は容赦しないという部分が気に入った。


「流石に雪が溶けて無くなるまでかかる、と言われると困るな」

「それは流石にねえさ。注文の品も全部終わってるしな。お嬢ちゃんがうちに注文するって言うなら、真っ先に嬢ちゃんの分の制作にかかるぜ。素材が手に入り次第だが」

「ならそれで構わない。頼んで良いか」

『妹を可愛くするのだぞ! あ、僕の分もある?』


 お前の分は無い。そもそもお前、あの吹雪の中寒いって言いながら余裕だっただろう。

 雪合戦を始めたから捨てて来たのに、しれっと門の前で戻ってきやがって。


「おうよ任せろ・・・と言いたい所なんだが、今更な話で申し訳ないが、懐は大丈夫か? 割と真面目な話、中古じゃなく専用で作るなら結構高くなっちまうぞ?」


 これは別に俺を侮っている訳ではなく、本当に懐具合を心配されているんだろう。

 とはいえ懐はそれなりに暖かいが・・・いやだが、高級服より高いと言っていたな。

 そうなると幾ら懐が温かいと言っても、足りるかどうかは聞いてみないと解らない。


「とりあえず、作ったとしてどれぐらいになる?」

「そうだな、見た所嬢ちゃん・・・靴すら無えよな?」

「ああ。防寒具の類は何も無い。少なくとも辺境用の物は」

「何も持ってねえ嬢ちゃんの為に、全身装備を作るとなると・・・」


 店主は使うであろう素材を頭に浮かべているのか、難しい顔をして天井を向く。

 そしてそのまま暗算をしているのか、指が何かを数える様に少し動く。

 恐らく指の方は、使う素材の数を数えているんだろう。


 だが途中で暗算が面倒になったのか、紙の切れ端に殴り書き始めた。

 注文を受け付ける時用のペンとインク、それと紙が受付に置いてあるようだ。


「そうだな、大体このぐらいか・・・」


 そうして計算が終わった紙を見て、ちょっと困った事態になった。


「・・・本当に高いな」

「そりゃ、まあな。あの雪の山の中突っ込むんだろ? 半端な物じゃ駄目になりかねぇ。多少の戦闘でダメになる様じゃ話にもならねぇ。素材の時点でそれなりの物が必要だし、そんな素材の加工となると手間も技術も要る。これでも一応安くしてる方なんだぜ」

「そうか・・・」

「それにこれはあくまで、現状最低限必要な物だ。ここから嬢ちゃんの注文、追加の要望だな。それを受ける場合は更に額が上がる。だからこれは一番低い額だと考えてくれ」

「・・・解った」


 提示された金額は、今の俺なら払えない事は無い。

 何せ結構な魔獣を売り払ったからな。

 だがそれだけの金を得ても、吹き飛ぶだけの額を言われてしまった。


 いや、数日の稼ぎで買えると考えれば、普通はおかしいのかもしれないが。

 とはいえ困った。待っている間は外に出たくない。何せ寒い。

 雪も降って来る事が確定している状況で、装備が出来る間の狩りなどしたくない。


 となると問題点になるのが、宿の食事代金という事になりそうだ。

 どれだけ待たされるのか解らないが、流石に一日二日では出来上がらないだろう。


「何悩んでるの、貴女ならそれぐらいの額あっという間じゃないの。それともまさか、この数日の稼ぎを全部使い切ったとでも言うの?」

「いや、宿代と食事代以外に使っていない」

「なら余裕じゃないの」

「俺の食事代は常人の10倍以上かかる。防寒具が出来るまで金が稼げないと食事に困る」

「「「・・・え?」」」


 俺の発言に、女だけではなく店主と娘も呆けた声を漏らす。

 自分の事ではあるが、その気持ちは解らなくない。


「・・・その体のどこにそんなに入るのよ」

「俺だって知らん。だが腹が減るのだから仕方ないだろう」

『妹は成長期だから!』


 いや、成長期でも普通自分の体積を越えては食べないと思うぞ。

 食べてる俺自身、どうやって体に消えてるんだと言いたくなる時が有るし。


「ああ、いや、そうだ。魔核があったな。これを売れば何とかなるか?」

「そういえば貴女、魔核を一つも売ってなかったわね。確かにそれを売ればいい額になるんじゃないかしら。貴女の倒した魔獣を考えれば、魔核の力も相当でしょうし」


 相当、なのだろうか。正直解らん。

 何せ護衛依頼で倒した魔獣も、森の魔獣も俺には大差ない。

 なのでどの魔獣が強い弱いという判断は、俺には付かない事が多い。


 一番の問題点は、今日狩った分の魔核しかない、という事だが。


「・・・とりあえず、有り金は全部渡すとしよう。この女に言ってくれ」

「それだとまるで、私が払うみたいに聞こえるんだけど」

『支部長にツケといてくんなぁ!』

「ははっ、組合に請求書送れば良いんだな」


 その請求書は最終的に俺の所に来るが、金を引き出す為に一旦組合に送られる。

 組合は組合員の銀行の役目も兼ねており、報酬の情報は組合証に入っている。

 俺がこの組合に出入りしている事が確認できれば、その情報から支払いが成される訳だ。


 勿論ただ請求書を送っただけじゃ駄目らしいが、この場合は問題無いだろう。

 何せ組合の支部長殿がここに居るしな。詐欺や間違いの類は起こりえない。

 むしろ詐欺だったら、今度こそこの女を全力で殴るけどな。


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