表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/370

第52話、撤退

 門を通り森の奥へと向かい、道中襲い掛かって来る魔獣を殴り倒しながら進む。

 当然ながら魔核は一応回収し、死体は置いて行く事にした。

 他の者達からすればふざけるなと言うだろうが、俺の目的は金稼ぎじゃないからな。


 そうしてずんずんと進んで行き――――――――。


「おかえり、嬢ちゃん」

『ただいまー!』


 ニッコリ笑顔で迎える門番の所まで、夕方に戻って来る破目になっていた。

 俺が今日中に帰って来ると予想していたのか、門番はやけに機嫌がいい。

 逆に俺の気分は最悪で、不満だという表情を門番に向ける。


「いやぁ、無事で何よりだ」

「貴様、こうなる事が解って、黙っていたな」

「人聞きの悪い。別にわざと黙っていた訳じゃねえさ。それに帰って来るかどうかは半々ぐらいだと思ってたぜ。そんな軽装で行くんだから、全部承知の上で向かったのかもしれないだろ?」


 門番に半眼で不満をぶつけるも、どこ吹く風と言った様子で返された。

 その発言に疑いのまなざしを向けるが、続けた言葉に何も言えなくなる。


「危ないから止めたのに、砦を乗り越えていく嬢ちゃんだ。忠告を聞くか怪しいと思うのが普通じゃないか。それに色々言われるのも嫌いみたいだし。だからとりあえず見送って、帰って来るならそれで良いかと。帰って来るなら、嬢ちゃんなら怪我しないだろうし」

「・・・そうだな。俺が悪かった」

『妹は反省出来る子。偉い!』


 門番の言う事は正しい。愉快気な様子が気に食わないが、言っている事は間違いなく正しい。

 今回俺は、自分の情報収集と確認の不足から、街に帰って来ざるを得なかった。

 だがこの男は、半ば確信して見送った気がするのは気のせいだろうか。


「一気に寒くなり過ぎだろう。何だ、この急激な気候の変化は」

「ははっ、この辺りは突然寒くなるからな。奥の方はもう雪が降ってたんじゃないか?」

「ああ、積もっていた。これでもかという程にな」

『びゅーびゅーふぶいてたー!』


 この辺りは暖かいと思い、門番の言う通り軽装で森に向かって行った。

 だがやけに寒くなって来たなと感じていたら、途中から吹雪き始めやがった。

 理解不能な事態に驚き、一旦戻ってみると更に気温が下がり始める始末だ。


 どんどん下がる気温に、軽装では不味いと帰って来る事になってしまった。

 正直な所今も結構我慢している。寒いのが辛い。

 多少寒いぐらいなら我慢出来るが、我慢できる寒さを越え始めている。


「もう少ししたら、この辺りも雪が降る。ちゃんと防寒具買っときな。それとこれに懲りたら、今度からはもう少しちゃんと人の話は聞くんだぜ」

「・・・善処しよう」

『気を付けまーす!』


 悔しいが、心の底から悔しいが、今回ばかりは何も反論できない。

 ちゃんと忠告を貰える状況であれば、こんな二度手間は防げたのだから。

 それにしても防寒具か。新しく買わないといけないな。


 荷物の中に上着は一応あるが、軽めのコートの類しかない。

 雪の降る寒さの中に耐えられるような服は、この街で買うしかないだろう。

 というか、ブーツと手袋も欲しい。寒い。とにかく寒い。寒くて痛い。


「うげっ」

『雪降って来たー』

「おー、もう街にまで降って来たか、今年はかなり早いな。でもこれぐらいなら積もりはしないかな。積もると屋根の雪を落とさないと危ないんだよなぁ・・・出勤も滑るし」

「何が突っ立っているだけだ。どう考えても過酷じゃないか」

「ははっ、農家も大変だと思うけどな。この街にも無い訳じゃねーし」


 確かにどちらも過酷だな。ただ過酷さの種類が違う気もするが。


「しかし、防寒具買えって言っておきながらなんだけど、本当にこの寒さの中奥に行くのか?」

「まだ何か忠告された方が良い事が在るのか。あるなら教えて欲しいものだな」

「そんなに拗ねるなよ」

「拗ねてない」

『拗ねてる?』


 別に拗ねてない。拗ねている様に聞こえたなら、ただ寒さを我慢してるせいだ。


「いや、辺境ってこの調子だから、冬場は森に出ない人間の方が圧倒的に多いんだよ。森の獣達も大半は冬眠するから、あんまり危険も無いしな。勿論全くって訳じゃ無いが。それでも頻繁に狩る必要が無いのもあるし、雪も降るしで、冬場は皆外に出なくなるんだよ」


 まさかと思ったが、あの吹雪を見た後だと反論も出て来ない。

 実際寒さに負けて逃げて来た訳で、その事を思い出すと凄く情けない気分になる。


「冬場を乗り越えるまで稼げなかった奴とかは、雪でも吹雪でも関係無く出て行くけどな。あとは何かやらかして金が要る奴とか。そうでない限り、大体は冬場は休んでる奴が多いぞ」

「・・・つまり、それぐらい、冬場は外がきついという事か」

「うん。門番の俺が言うんだから、説得力あると思うぞ」

「これ以上ない程に説得力が有るな」

『寒そうだもんねー』


 雪が降ろうと吹雪こうと、関係無く門の警備をしなければいけない門番達。

 本当なら彼らも休みたいだろうが、そういう訳にもいかないだろう。

 冬眠している獣が多いとはいえ、万が一という事は起こりえる。


 それに空飛ぶ魔獣の類が襲ってきた場合、発見速度が一番重要だろうしな。

 彼らが毎年どんな思いをしているか、想像するだけで寒くなる。


「・・・セムラ達がこのタイミングで出て行ったのも、これが理由臭いな」


 ゲオルド、ヒャール、セムラの三人は、また護衛依頼を受けて街を出て行った。

 ただセムラはもう少し休みたそうで、けれど反対はしなかった。

 この状況から鑑みるに、雪の中を移動する羽目になるのを避けたのでは。


 もしくは雪で身動きが取れなくなって、街から出れなくなるのを嫌がったか。

 知っていたなら忠告の一つでも欲しかったが、それは流石に贅沢か。


「事情は分かった。色々と忠告感謝する。とりあえず防寒具の類を手に入れてから、奥に行けるかどうかは様子見するつもりだ。流石に寒すぎて、あの吹雪の中は辛かった」

「ははっ、そうしてくれ。その方が俺も心配しなくて済む。店は・・・いや、俺が知ってる所よりも、組合で聞いた方が良いかもな。狩りに行く人間用の装備の方が良いだろうし」

「兵士の装備は違うのか?」

「俺達の装備は支給だからな。寒かったらその中に自前で着込んでるだけだ。派遣組合の人間みたいに、雪の中の森や山を突っ切る様な装備じゃないだろ?」

「そうか、その辺りも考えないとか。忠告感謝する」

「おうよ、気を付けてな」


 門番に礼を告げてその場を去り、とりあえず急いで宿へと向かう。

 宿に入ると女将と目が合い、ニマッとした笑みを向けて来た。


「お帰り。やっぱり帰ってきたかい」

「・・・女将もそう思っていたのか」

「おや、誰かに同じ事を?」

「門番にも言われた」

「ははっ、そうかい。まあ無事に帰ってきて良かったよ。ほら、鍵」


 愉快気に差し出された鍵を受け取り、無言で部屋へと戻って鞄を開ける。

 そしてとりあえず重ね着できそうな服を着て、何とかひとごこち付いた。

 とはいってもすぐ温まる訳でも無く、寒いのは寒いままなんだが。


「・・・いや、良く考えたら、魔術でどうにかなったかもしれないな。試せばよかった」


 今更遅い話ではあるが、寒すぎて思考が回っていなかった。

 まあ、帰ってきた以上仕方ない。あって困る物でも無いし防寒具買おう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ