第370話、自分の事を再確認
「ふぅ・・・とりあえず、帰るか」
『ん、、帰るのー?』
「ああ、来るだけで疲れたし、牛の話を聞いて今日は暴れる気も失せた」
『そっか。じゃあかえろかえろー』
精霊が牛の鼻からぴょんと飛び降り、俺の胸元へとよじ登る。
完全に自分の定位置だと思っているな。別にどうでも良いが。
投げ捨てても戻って来るので、苛ついている時以外は諦めた。
「よっ」
魔力循環をかけて跳躍し、ただし帰りは制御できる範囲で済ませる。
行きで無茶をしたおかげなのか、何だか随分と体が動かしやすい。
やはり無理をする度に慣れているな。これが牛の言っていた『慣れ』なのだろうか。
「・・・子供、か」
もしかして俺の不器用さは、俺自身の不器用さ以上に体の未熟も理由だったのか。
そう考えると幾つか合点がいく所もある。何せこの体は最初から器用だった。
見ただけで魔術を真似できるし、難しい魔術でもそれは余り変わらない。
勿論実際に使うとなると、色々と問題になる事も多かったが、それはそれとして。
ただ使う、という一点において困った事は無い。出来ないのは道具による魔術ぐらいか。
それだけの器用さを持ちながら、一定量の魔力を越える制御は出来なかった。
そこで思い返すのは、精霊の『赤ちゃん』という言葉だ。
赤ん坊の動きとは、たとえ生まれてすぐ立てる生物でも、どこか危うい動きをする。
勿論生まれてすぐに動きの良い生物も居るが、大体において生まれたてとは弱いものだ。
ならばヨチヨチ歩きの赤ん坊が、持っている身体のポテンシャルを発揮できるか。
無理だ。人間の赤子ならまず立つ事どころか、寝転がる事すら危うい。
うつ伏せに寝ていた結果窒息死、何て事がありえる程の貧弱さだしな。
もし俺がそれに該当するなら、今の俺は腕を振るう事すら満足に出来ていないという事だ。
元々の俺の記憶に、ここまで動ける体は無かった。異形の時ですらだ。
だから勝手に、生まれつき一人前の体なのだと思い込んでいた。
しかし真実は違った。この体は本当に産まれたてて、これから強くなっていくんだ。
「・・・そう考えれば、逆に化け物さが増したな。今が最下限か」
その辺の魔獣よりは確かに強かったが、精霊には遥かに届かない体。
産まれてすぐの俺の体では、呪いの道具にも対抗できない。
それどころか、人海戦術を使われたら死んでいたかもしれんな。その程度の強さだ。
だが成長すれば、たとえ魔核を食い漁らなくとも、更に強くなっていた可能性が有る。
そう考えれば余りにも化け物で、俺を作った連中は狂人だが天才だったんだろうな。
『妹は妹だよー?』
「そうかよ」
精霊が何の答えにもならない事を言い出したので、適当に答えて流しておく。
しかしそうなると、一番の解決策は成長を待つ事になる。
勿論これは牛の言う通りだったらだが、その言葉の説得力は大きい。
更には精霊の『赤ちゃん』呼びも考えれば、尚の事待つ事が一番の正解なんだろう。
だがそんな時間は無い。この過酷な世界で、呪いの道具などがある世界では。
少なくとももう一度あれと戦う事になった時、打ち勝てるだけの力が必要だ。
「精霊の力・・・俺の精霊の力、か・・・」
薄々解っている事ではあるが、俺の精霊の力はこの小人の物だろう。
コイツの力を埋めこまれて生まれたのが、きっと俺だ。
なら俺の力はコイツと同じ様に、分裂して増える事が出来るのか?
本気で試した事は無い。無いが、出来る気はしない。
アレは実体のない精霊だから出来る事だと思う。
ならどうすれば良い。やはり少し無理をする鍛錬を続けるしかないのか。
そうして色々と悩むも、答えが出ないまま辺境の砦が視界に入る。
体が軽くなるのも考えものか。思考が纏まる前に帰り着いてしまった。




