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第32話、宿

 泣きじゃくる女の事は置いておき、部屋を出て廊下を進む。

 そして受付の方に出ると、ざわりとした空気を感じた。

 組合員が俺を注視している様で、ひそひそと話しているのが解った。


 恐らく俺が奥に連れていかれる前の話をしていたのだろう。

 正直な所を言えば、この点に関してもあの女は迂闊というしかない。

 奴は俺が暴れた事を咎め、話がある程度纏まってから俺を奥に連れて行った。


 となれば俺がどれだけ殺意と敵意をばらまこうが、注意をされたと思われかねない。

 どれだけ粋がっていようとも、組合員として規則を守らざるを得ないと。

 そんなつもりはサラサラ無いので、絡まれたら何時も通り対処するが。


 ただ気になる事が有るとすれば・・・俺の後ろに居る三人の事だ。


「ゲオルド、良いのか、一緒に出て来て。俺と同類とみられるぞ」

「なーにを今更。ミクが暴れた理由を忘れたのか。あの時点でもうお仲間と思われてるよ」

『僕は兄だから仲間ー! いや、兄だから兄なのか。妹の兄は・・・僕は一体・・・!?』


 ・・・言われてみればその通りだ。俺は三人の実力を馬鹿にされて暴れたんだったな。

 精霊は何か良く解らん思考に囚われているので放置しておこう。


「悪い、迷惑をかけた」

「気にすんな。むしろ俺は嬉しかったよ。二人も同じだと思うぜ」

「ええ、正直スカッとしました」

「私は楽しんでた」

『何々、僕の知らない所で何が有ったの!?』


 ゲオルドはニカッと笑うと俺の頭を撫で、ヒャールとセムラも笑顔を見せる。

 その事にホッとしている自分を自覚し、我ながら解り易いなと思ってしまった。


「とりあえず組合を出ようぜ。このままだとずっと目立つし」

「そうだな」

『妹よ! 兄は気になるぞー!』


 ここで長々と会話している理由も無いし、精霊を無視してゲオルドの言う通り受付を出る。

 すると組合員達は様々な反応を見せた。

 道を開ける者、怪訝な顔の者、敵意を見せる者と、本当に様々だ。


 だがその中で敵意を見せる者達が前に出て来て、鼻に皺を作りながら口を開いた。


「おう、てめえ良くも好き勝手に暴れてくれたな。けど奥に連れていかれて散々注意された後だろうから、これから可愛がってやるよ。後ろの連中も覚悟しとゲバッ!?」


 案の定とも言うべきか、俺が奥に連れていかれた理由を勘違いした奴だった。

 なのでとりあえず殴り飛ばし、俺のスタンスは変わらない事を見せる。


「次はどいつだ」

『どいつだー!』

「てめえ良くごふっ!?」

「なっ、うべっ!?」


 殴り飛ばした後確認を取ると、他の連中も出て来たのでまた殴り倒す。

 前に出て来た連中は全員確認して、しっかりと一人残らず。

 殺してはいないが、容赦もしていない。皆骨ぐらいは折れているだろう。


「まだ俺に文句が有る奴が居るのか。居るなら出てこい。全員殴り倒してやる」

『いんのかー!?』


 前に出た者が一人も居なくなった所で、改めて確認する様に訊ねた。

 すると組合員達は俺から視線を逸らすか、道を開ける様に引いて行く。


「道が開いた。行くか、ゲオルド」

「あいよ」

『え、もう終わりー?』


 声をかけると苦笑と共に返事をされ、ヒャールも同じ様に苦笑していた。

 セムラだけは満足そうに笑みを浮かべていたが、何がそんなに楽しいのやら。

 そうして俺達が出た所で、組合の中が大きくざわついたのが解った。


「明日の組合は大騒ぎだろうな」

「だろうねぇ」

「私達の名が売れる日が来た。むふー」

「「絶対違うと思う」」


 それは俺もそう思う。多分売れるのは俺の名前だろう。

 売れると言っても、悪名が轟くと言う方が正しいと思うが。

 そう考えると尚の事三人には悪い事をした。


 真面目に、地道に、愚直に義務を果たして仕事をしていたのがゲオルドだ。

 そのゲオルドを支えていた二人は、当然ゲオルドの行動を支持している。

 だというのに俺が暴れた結果、俺の悪名が多少なりとも影響しかねない。


「・・・本当にすまない」

「なーんだよ。まだ気にしてるのかよ。俺達の考えはさっき言ったろうが。気にすんなって」

「そうそう。僕達は護衛依頼が多いから街を移動してる事の方が多いし、この街に定着する気も無いから影響はそんなに無いよ」

「むしろ一目置かれて、楽かもしれない。ふふっ」


 俺の頭を撫でるゲオルドと、相変らず笑顔で答える穏やかなヒャール。

 そして何よりも、あまり細かく考えていなさそうなセムラ。

 いや、セムラの気の使い方を考えると、わざと見せている態度かもしれないが。


 三者それぞれの対応に心が軽くなり、無意識に入っていた拳の力が抜ける。


「それよりも気になる事が有るんだよ」

「気になる事?」

「ミクは泊まる所決めてるのか? そもそも金はあるのか?」

「金はあるが、泊る所は決めてないな」


 そもそもこの街に来たのが初めてなのだから、宿がどこに在るのかすら知らない。

 金に関しては宝石が有るので、足りなければこれを売れば何とかなるだろう。

 そういえば俺が今持っている通貨は、どこまでなら通用するんだろうな。


 国は越えていないから、この辺境では使えるとは思うが。


「やっぱそうだよな。普通なら初めて来た組合の受付とかで宿の場所を聞くんだが・・・」


 ゲオルドが後ろを見てそんな事を言うが、あの空気の中戻るのは面倒だ。

 俺の表情で考えを察したのか、ゲオルドは苦笑しながら続ける。


「一応俺達がこの街に来た時に泊ってる所が有るんだが、一緒に行くか?」

「俺は別にどこでも良いので、宿を教えてくれるなら助かる」

『ふかふかベッドで寝たい!』


 最悪野宿という手もあるが、泊れる場所が有るなら宿で寝たい。

 精霊の言葉じゃないが、ベッドで寝れるに越した事はないだろう。


「んじゃ行くか」

『いくかー!』


 俺の返答を聞いたゲオルドはニッと笑い、案内する様に先頭を歩く。

 ヒャールはその少し後ろを歩き、セムラは俺の手を握って歩き出す。

 三人とも少し移動がのんびりだと思ったが、どうも俺の歩幅に合わせているな。


 全くもって何処までもお人好しな三人組だ。細かい所でこういう所が見えて来るな。

 そうして歩く事暫く、彼らの言う定宿に辿り着いた。

 見た感じ特に高そうにもボロそうにも見えない、普通の建物といった感じだ。


 勿論この世界、この時代の街並みを見ての判断で・・・清潔感があるだけ良い方だろう。

 ゲオルドはそのまま扉を開けて中に入り、受付らしき場所で本を読む女性に声をかけた。


「どうも、また泊まりに来たんで宜しくー」

「おや、まだ生きてたかい」

「ひでえ言い草だな」

「護衛依頼を良く受ける組合員なんて、大体は何時の間にか見なくなるからねぇ。そうでなくてもこの街では良く人が消える。お前さんら組合員が居ないと今の街が成立しないのは解っているけど、そんな生き方を良く続けられるものだと呆れるよ」


 宿の店主なのだろうか、見た目はそこそこ若く見えるが、喋り方には貫禄がある。

 そんな女性の言い分はきっと当然で、むしろ組合員が普通ではないのだろう。

 だがそんな生き方しかできない人間も多く、そのおかげでこの街は上手く回っている。


 勿論組合員が居なかったとなれば、それはそれで国や領主が対策を取りはするだろうが。


「セムラ、お前さん子供を産む程、前に泊まった時から時間が経ってたっけ?」


 女性は俺に視線を向けると、セムラの子供かと問いかけた。

 流石に冗談だろう。話している様子を見るに、そこまで期間は開いていない様に思う。


「可愛いでしょ。むふぅ」


 だがセムラは問いを否定せず、俺を後ろから抱きしめ鼻息荒くそう答えた。

 おい否定しろ。


「・・・まさか本当に産んだなんて言わないよね? 父親はゲオルドかい?」

「無い無い。セムラの冗談を真に受けないでくれ頼むから。ミクはちょっと理由があって、泊る場所を知らないから連れて来ただけだ」

「そうだよねぇ。ああ、びっくりした」


 本気で俺を生んだと思ったらしい。そんな訳ないだろう。

 いや、俺は0歳な事を考えれば、おかしな話でもないかもしれないが。


「まあ、部屋は空いてるよ。二部屋で良いのかい?」

「いや、三部屋で頼む。ミクは別だ。これでも俺より優秀な人間だぜ?」


優秀と言われると、正直首を傾げる所があるが。

仕事人としては間違いなく、ゲオルドの方が優秀だと思う。

俺が秀でているのはただ強さだけだ。


「おや、そうかい。じゃあちょっと待ってな」


 女性はそう言うと棚の鍵を開け、そこから更に鍵を出した。


「ほいよ。鍵に番号が付いてるから、その部屋に行くようにね、お嬢ちゃん」

「解った。支払いはどうすれば良いんだ?」

「先払いにしてくれると助かるねぇ。今手持ちがないって言うなら後でも良いけど」

「・・・後で良いのか?」


 普通は先払いするべきだろう。下手をすれば支払いをせずに逃げかねないぞ。


「ゲオルド達が連れて来たんだ。大丈夫だろ」


 俺の考えを理解した様に、彼女はくくっっと笑って答えた。

 成程。俺ではなく、連れて来た人間を信用しての言葉だったか。

 とりあえず支払いは手持ちで足りたので、食事も込みで支払っておいた。


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