第197話、買取要求
受付側に戻ると待っていたのは、鼻息の荒い支部長。
そしてそれを抑える受付嬢と、脱力してしまう光景だ。
なのでスッと指を構えると、支部長は額を抑えて後ずさった。
「落ち着いたか?」
「・・・お、落ち着いたわ」
『ゴンッってされなくて良かったねー』
どうやら前回の痛みはよく覚えている様で、二度目は食らいたくないらしい。
俺としては大人しくなるのであれば、本当に撃つ様な真似はしない。
というか基本的に敵意が無ければ手は出さないんだが、こいつにはつい手が出る。
今はもうそこまで嫌ってはいないんだが、やはり第一印象の悪さが要因か。
「それで、魔核が何だって?」
「そう、魔核よ。あの山の奥地まで行って来たんでしょ。魔核は売って貰えないのかしら」
「奥地で取れた分を売る気はないぞ。以前から売っている分と同じ質の物であれば売っても構わんが、それ以外は俺が自分で使うからな」
「そ、そこを何とか、一個でも良いから」
「無理だな」
『むりだねー。無いもんねー?』
精霊の言う通り手元に残っていないので、物理的に売る事が出来ない。
街に近い辺りの魔獣の魔核であれば、持っているので売れるというだけだ。
「うう・・・そんなに良い魔核一人で抱えてなするつもりなのよぉ」
「お前に教える必要はない。それとも無理やり聞き出すか?」
「出来る訳ないでしょぉ・・・」
「そうだな」
『どんまーい』
もしそんな事をすれば、確実に敵とみなすだけだしな。
一度殺されかけている以上、そんな真似は出来ないだろう。
支部長は項垂れてしまい、だがすぐに顔を上げる。
「じゃあ今じゃなくて良いから、融通が利きそうな時が有れば、一個ぐらい売って貰えない?」
「・・・むしろ何故そこまで奥地の魔獣の魔核が欲しいんだ。辺境の魔核ならば、現状流通している分でも優秀な素材なんだろう?」
「それはそうなんだけど、やっぱり今以上の物を求める層、ってのは居るのよ」
「なら自分達で戦力でも雇って山に行けば良いだろうに」
何時流通するか解らないのを待つより、自ら手に入れる手を講じれば良いだろう。
そんな魔核を欲している時点で、金に糸目は付けないのだろうし。
金持ちならその金で人を雇ってしまえば、それで済む話だと思うんだが。
「前金だけ持ってかれて逃げられるか、死なれるのが関の山ね。死なない様な強い連中は、態々そんな仕事受けるかも怪しいわ。だって気ままに仕事して生活が成り立つもの。貴女みたいに」
「今一言余計だったぞ。売って欲しいのか欲しくないのかどっちだお前」
「ああごめんなさい売って下さいお願いします!」
膝を突いて俺に手を握り、懇願する様に謝って来た。
凄まじい変わり身の早さに、思わず力が抜ける。
「・・・本当に、お前」
この女の行動は本当に、計算なのか素なのか解らなくて疲れる。
怒る気力も無くなってくるのは、こいつの一番の強みだろうな。
だからと言って好感が持てるかと言えば、大半は持てない訳だが。
稀に支部長らしい部分を見せるから、余計に脱力感が強いんだろうな。
「というか、そんな魔核を買い取る資金が有るのか。明らかに物が違うぞ、奥地の魔核は」
「現金ですぐに支払いは勘弁してほしいけど、何とかなるわよ。支払いをケチる様な人間が買える代物じゃない以上、確実に利益になるのが見えているもの」
魔核の買取額をケチる必要が無いぐらい、確実に売れるルートがある訳だ。
ならば確かに、資金の心配は必要ないだろう。赤字には絶対にならない。
それに買い取りの支払い自体は、組合証に貯金される様な物だ。
全額一括現金で支払いは厳しくとも、貯金に入金しておくなら問題はない。
後は必要になった時に、組合で引き落とせばいいだけだろうしな。
この点でも組合は色々と利権を握っている訳だが、まあ今更な話か。
国との関係がズブズブだが、その割に不正が余り無いのは逆に凄いな。
ここまで関係が濃いと、大体何かしらやらかしている物だが。
いや、俺が知らないだけ、という可能性は高いが。
「とはいえ、今は本当に売れんぞ」
「わ、解ったわよぉ・・・でも、その内、ね?」
「女児相手に色気や愛嬌を振りまいて通用すると思うな」
その美貌と胸の脂肪が通用するのは、周囲で鼻を伸ばしてる連中だけだ。
「うぅ・・・何で貴女男の子じゃないのよぉ」
知るか。訳の分からん嘆きをするな。そもそも男でも俺は引っかからんぞ。
何度も色んな生を経験したせいか、そういった欲求は昔から少ないしな。
『愛嬌なら兄の方があるぞ! ほら、ほら!』
踊るな。増えるな。歌い出すな。ええい煩い。




