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第194話、桃色思考

 狐と小人の態度に不満を持っていると、鎧男がにこやかに近づいて来た。


「いやー、助かった。てっきり嬢ちゃんで賭けをしてたのを怒られるのかと」

「別に構いはしない。俺の行動に影響はない」

「そう言ってくれると助かるよ。それで・・・俺の事覚えてたんだな」

「お前というよりも、その鎧の方だがな」

「ああ、嬢ちゃん魔術使えるもんな。なら気が付くよな、この鎧」


 ゴンと鎧を叩く男だが、へこむ様子は全く無い。

 むしろ傷がつく様子もなく、とても頑丈そうに見える。

 それこそ甲羅持ちの魔獣が魔力を纏った様に。


「魔術が使えれば全員が解る訳では無いらしいがな」

「あ、そうなのか。うちの魔術師は気が付いて当然、みたいな事言ってたけど」

「それはそいつが優秀なだけだろう。全員がそうではないぞ」


 出来て当然、という類の言動は優秀な人間に多い言葉だ。

 当たり前に出来るからこそ、出来ない事がおかしいと思う。

 だがその手の認識は時として重大なミスを生みかねない。


 世の中というものは、大半が凡人で構成されている。

 ならば物事を決める際は、凡人が動く前提で考えなければいけない。

 勿論一定以上の能力を持った集団を率いる、という事なら別ではあるがな。


「へぇ、アイツ優秀だったのか・・・アイツ何時も『自分は普通』とか言うから、てっきりそれが魔術師の常識なのかと思ってた」

「優秀だが自信がない口か。それはそれで面倒なタイプだな」


 自信が無いが故に自分の実力を認めず、だがそれは周囲を下に見ている事に気が付かない。

 謙遜というものは人付き合いを円滑に進める手段だが、行き過ぎればただの侮辱だ。

 本人に自覚が無いのが余計にたちが悪く、話が拗れやすくなる事が多い。


「仲間はお前が率いているのか?」

「いや、俺はそういうの苦手。真っ先に突っ込んで後ろを守る、ってのが何時もの行動だな。全体を見回す余裕は無いし、眼の前の事に対処するので精いっぱいだよ。指示は任せてる」

「別に司令塔が頭である必要はないと思うがな」


 軍や貴族では無いんだ。荒くれ者の集まりなら、率いる人間に知能は無くても良い。

 むしろ貴族であっても、考える事は部下に任せてる人間も多いだろう。

 人を率いるのに必要なのは、こいつについて行こうと思わせられる能力だ。


 俺には欠片も無い類の能力だな。別に欲しいとも思わんが。


「ちょっと、アンタまた女に声かけてるの? しかも相手は小さな子とか、何考えてんのよ」

「人聞きの悪い事を言うな!」


 そんな会話をしていると、一人の女が鎧男に声をかけて来た。

 荒事が中心の組合員にしては、容姿に気を使った様子の見える女だ。

 鎧男の反論からして仲間なのだろうが・・・気のせいか薄く敵意を感じる気がする。


 女は鎧男と俺の間に入ると、俺に顔を近づけて来た。


「アンタも、こいつには気を付けなさい。女なら誰でも良い奴だから」

「おい馬鹿止めろ。嬢ちゃんに変な印象を植え付けるな」

「何よ、この子はそんなにお気に入りな訳?」

「違うそうじゃない。色々怖いから止めろって言ってんだよ」

「ふぅん、本当にこういう小さい子が良いんだ。見下げ果てるわね」


 ・・・俺は何を見せられているのか。痴話喧嘩なぞ面倒この上ないんだが。

 コイツ等が勝手に喧嘩をする分にはどうでも良いが、それに俺を巻き込むな。


「っていうか、まさか貴女、この変態の事好き何て言うんじゃないでしょうね」

「ぶん殴るぞ脳みそお花畑。今すぐその面倒な口を閉じろ」


 貴様の頭が桃色なのは勝手だが、それに俺を含めるな。

 もしこれで黙らなければ、宣言通り殴って顎を砕く。


「なっ、アンタ、目上の人間に―――――」


 女は激高しかけたが、鎧男が口を塞いで止めに入った。

 その事に一瞬驚いていたが、気に食わなかったのかモガモガと暴れ出す。

 だが鎧男の方が遥かに力が強い様で、暴れても解放される気配はない。


「嬢ちゃんすまない! 俺から言って聞かせるから! 後でまた謝罪に向かうから今日は失礼させて貰うな!」

「もがもがもが!!」

「・・・謝罪は要らん。ただ二度とソイツを俺に近づけるな。次は警告なしで殴る」


 この女が言って聞かせられる手合いには思えず、ただ冷たい目を向けて返す。

 たとえ謝罪をしたとしても、どうせ形だけの軽い言葉だろう。

 そう思い去って行く二人に応えたが、聞こえているかどうかは解らない。


 ・・・殴り損ねた。あと少し割って入るのが遅ければ顎を砕いていたのに。


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