第193話、要因
特に用も無いし帰ろう。そう思った俺は間違っていないと思う。
だが「せめてブッズさんに無事だけは見せてあげたら?」と言われてしまった。
別にそんな事をする必要は余り感じられないが、意固地に断る程の理由もない。
そして奴と何処で出会えるかと言えば、組合が一番可能性が高いだろう。
という訳で先ずは組合へと向かう。実際やる事が無くて暇だしな。
まあ仕事中の可能性もあるので、その場合はとっとと帰るが。
『くっみあいー、くっみあいー、きょうっはだっれがとっぶのっかなー♪』
まるでいつも誰かが飛んでるみたいな歌だな。
注意書き以降は、そこまで絡まれてないはずなんだが。
特にメラネアが来て以降は尚の事だ。
などと考える俺の横では、メラネアがクスクスと笑いながら歌を聞いている。
楽しげな様子を見せる彼女に付く狐は、それを穏やかな顔で見つめていた。
「・・・何で俺に付いてる精霊はこうじゃないんだろうな」
『今何か酷い事言われた! 兄は頑張ってるよ!? 妹大好き!』
「じゃあ頼むから少し黙ってくれ」
『解った!』
お、言ってみる物だ。口を真一文字に閉じた。
これで暫く静かなだな・・・おい何してんだお前。
なんで増え始めた。無駄にちょろちょろ走り回るな。
ええい、足元に纏わりつくな歩き難い。
喋らなくても行動が煩いなお前は!
「もう良いかな!?」「少し経ったよね!」「やった喋れる!」「僕は自由だー!」「へいへいへーい!」「らんらんらー!」「よーし、皆で合唱だー!」
もうやだこいつら。喋る許可出す前に『少し』を終わらせやがった。
しかも増えた分全員で歌い始めたからさっきより煩い。
おいメラネア。何そっぽ向いて震えてるんだ。笑うなら笑え。
『くくっ、いやぁ、妹ちゃん本当に可愛いよなぁ』
狐は狐で愉快気にそんな事を言って来るし、溜め息しか出て来ない。
もう全部無視してずんずんと進み、組合に到着した頃には小人が元に戻っていた。
組合の中に入ると周囲の視線が集まり、人の少ない組合内がざわつく。
「お、久々に見た」
「元気そうだな。賭けは俺の勝ちだな」
「マジかよ、山の方に行ったんだろ?」
「まーあの嬢ちゃんなら帰って来るだろうよ」
「いやまあ、俺もそんな気はしてたけど・・・くそっ」
何やら俺で賭けが行われていたらしい。俺に賭けてたらしい奴は見覚えがあるな。
身に着けてる鎧が魔力を纏っている・・・ああ、何時だったか会った鎧男だ。
まだこの街に居たんだなアイツ。あの鎧なら雪でも魔獣と戦えるか。
「おいお前、滅茶苦茶見られてるぞ。何かやったのか。俺は逃げるぞ」
「え、いや、なにもした覚えはないけど・・・つーか逃げるな」
「ばっかお前、あの嬢ちゃんに目を付けられて無事で済む訳ねえだろ巻き込むな!」
「大丈夫大丈夫、俺あの子とは一応顔見知り・・・のはずだから」
「自信無いんじゃねえか! 良いからその手を離せ!!」
賭けの話が聞こえて少し見ていただけなのに、随分な事を言われている。
メラネアが来て以降は、ああいう態度は減ったと思ったんだが。
「ミクちゃん、無言でじっと睨んでるけど、その、あの人、どうか、したの?」
「む? いや、睨んでるつもりはなかった。俺の名が聞こえたから目を向けただけにすぎん。後は見覚えのある顔だなと思い、誰だったか思い出していた」
「そっか・・・だそうです、安心して下さい」
メラネアの問いに答えると、男達はあからさまにホッと息を吐いた。
黙って見ていた事が不安を強くしていたか。
とはいえ話しかける事でも無いし、口に出す様な事でも無かったしな。
メラネアに問われなければ、確実に説明はしなかっただろう。面倒だし。
『妹ちゃんってこういう所あるよな』
『そこが妹の可愛い所です』
狐と小人は良く解らない事を言っている。
一々良く解らない事で胸を張るな。




