第192話、動き
「さて、これからどうするか・・・」
「まだ、日は高い、ね?」
結局あの後少し待っても、まだ石は赤く光るままだった。
面白い事に火は割と早めに消えたが、やはり熱は消えない。
なので何時消えるのか、劣化するのかも込みで、店主に任せて来た。
ただ任せたとはいえ、もし日が暮れるまで熱が消えない、とかだったら面倒だな。
そうなると結局は、いざという時以外魔力を流し込めない事になりそうだし。
ともあれ唯一の予定が終わった俺は、特に用もないのでぼーっと歩いている。
「そういえば、ミクちゃん。魔核は、全部、食べちゃったの?」
「いいや、全部じゃない。多少残ってる」
基本的に山奥で出会った魔獣は強かったが、稀に弱い魔獣も居た。
その手の魔獣は食った所でたかが知れているので、食わずに残している。
魔核はいざという時に売れるので、宝石代わりに持っておくと良いだろうしな。
「支部長さんが、魔核楽しみに、してたけど・・・どうするの?」
「何でアイツはそんな事をお前に話してるんだ。というか、アイツの事情なぞ知った事か」
「あ、あはは。そ、そう言う、よねぇ」
俺は自分の都合で山に入ったし、アイツが欲しがるような魔核は売らない。
強い魔核は全部食う予定なので、売るとしても俺にとっては要らない物だ。
ついでに言えばアイツの望み通りに動くのが嫌だ。
「あいつの事はどうでも良い。それよりも、お前は変わりないのか」
「私? うん、私は、相変らず、かな。まだ何も、起きてない、感じ、だし」
「そうか。随分と動きが遅い気もするが、そんなものなのか?」
「もしかすると、何か準備してる、のかも。私達を殺すには、正面からは、無理だと、思うし」
「それは、そうか」
メラネアが決戦兵器的な存在だとして、俺はそのメラネアを下した。
そんな化け物が二人も居る以上、殺すにはしっかりとした準備が要るだろう。
取り返すにしても同じ事だ。半端な戦力と道具じゃ無意味に死ぬだけで終わる。
『おはよう! おはよう! 兄は寝過ごしましたが今日も元気です!』
「うるさい。お前は何時も唐突に出て来るな」
「あはは、おはよう、ヴァイド君」
『今日も元気だなー、お前は』
そこで小人が目を覚ましたらしく、胸元から何時も通り唐突に現れた。
やかましく朝の挨拶をすると、ぴょんと地面に飛び降りる。
それにここまで黙っていた狐が反応を見せた。小人が居ると結構喋るんだよな。
勿論話しかければ応えるが、自主的に喋る事は少ない印象がある。
『あれ、妹、腕に付けてたやつはー? 無くしたの? 泣いちゃう前に探してこよっか?』
「無くしてない。預けて来たんだ。後何で泣くと思った」
『だって妹って、割と泣き虫さんだもん』
「俺はお前の前で泣いた覚えなど無い」
『えー、うっそだー。兄は何回も見てるもんね!』
ああもう、うるさい。折角静かに過ごしていたのに。
コイツが現れると一気に煩くなってしまう。
思わずため息を吐くと、隣からクスクスと言う笑い声が聞こえて来た。
「何を笑っている」
「ふふっ、だってミクちゃん、ヴァイド君と話してる時、楽しそう、だし」
「お前の目は節穴だ。一回火であぶって消毒して水で洗い直せ」
「何も見えなくなっちゃうよ!?」
『照れ隠しにしても相変らず過激な事言うなー、妹ちゃんは』
『妹ですから。どやぁ』
照れ隠ししてない。後なんで小人は胸を張っている。どやぁって口で言うな。
何でコイツが現れると、途端に全員突っ込み所の有る事しか言わなくなるんだ。
全く面倒くさい。どうしたらこんな気持ちの俺が楽しそうに見える。
「ああそうだ、面倒と言えば、スラムの連中とはどうしてる。何か接触とかはしたのか」
「あー・・・なんか、使いの人に一回、お茶に来てほしいって、言われた、かな」
「行ったのか?」
「まあ、その、うん・・・一回、だけ」
『茶で腹が茶ぷちゃぷになるぐらい飲まされてたぞ。菓子も出されたが食えてねえな』
どれだけ飲まされてるんだお前は。というか律義に飲まなきゃ良いだろうに。
多分その行動のせいで、余計にあの男に気に入られていそうだな。
「怪しい動きが、無いって話しも、聞いてるから・・・やっぱり動きは無い、と思う」
「そうか。まあ俺相手なら兎も角、お前に嘘はつかんだろうよ」
恐らく、という言葉は付くが、これは態々言う必要も無いだろう。
俺はあの男を信用はしていない。場合によっては裏切ると思っている。
だがそれでも、今は使える人間である事に変わりはない。
向こうも俺がそう思っている、と考えている間は下手に動かんはずだ。
アイツは馬鹿じゃなさそうだったからな。部下の為にも下手は打つまい。




