第191話、火の操作
「店主、これをどうにかする手段は有るのか?」
「・・・どうしよう。火が出るのは予想外だった」
「おい」
お前がワクワクして自信満々に連れて来たのに、その答えはどうなんだ。
思わず半眼で見つめ、少し咎める様な声がでてしまった。
「いやいやいや、流石に火が出るとは思わないだろ!?」
「それは確かにそうだが」
眼の前には未だ火を放ち続ける素材があり、素材が消滅する様子はない。
燃料にしている様子はなく、相変らず赤く光り続けている。
魔力を通して循環しただけで火が出るなら、結構便利だなと思ったんだが。
何せ俺は火系の魔術は殆ど使えない。肉をあぶれる程度の弱火だ。
だがコイツを使えば大火力も出せそうだし、俺に出来ない事の補助になる。
「うーん・・・なあ嬢ちゃん、これには魔力を通しただけなんだよな?」
「一応そのつもりだが」
「ふーむ。いやな、嬢ちゃんの魔力が要因で火が出たなら、嬢ちゃんの意思で操れねーもんかと思ってよ。嬢ちゃん魔術に長けてる訳だし、試しにやってみねーか?」
「ふむ・・・試してみるか」
確かに魔力を流し込んで発生したなら、魔力で操作できてもおかしくはない。
とはいえ魔力を切った今も火が出ている以上、出来るかどうか怪しい所だが。
だが試してみない事には解らないと、魔力をもう一度流しつつ火に干渉してみる。
「・・・ん?」
「どうした嬢ちゃん、何か問題がありそうか?」
「いや、少し、抵抗があるだけだ」
魔力循環にはそこまで抵抗は無かったが、火を操ろうとすると魔力が弾かれる。
無機物類に流し込んだ時の抵抗感に近いな。すっと入って行かない。
とはいえ完全にという訳でも無く、循環の技術で流し込む事は出来るが。
本当にこの技術は基礎の基礎なんだな。早めに知れて良かった。
「・・・こう、か?」
操れている自信が無いまま、魔力を動かして火を追従させようと試みる。
すると狙い通り火は動かせたので、ゆっくりと手を近づけてみた。
「熱いな」
「操ってるからって、熱を感じないって事はねえか」
「そのようだ。それに操れると言っても、そこまで自在には操れない。せいぜい一方向に固定する程度が関の山だ。俺は力押しは得意だが、細かい技術は余り無いんでな」
今も少し試してみているが、やはり自在に操る様な事は出来ない。
魔術で作り上げた場合はもう少し融通が利くが、素材から出ている火だからだろうか。
どうにも魔力を動かす時に抵抗感があり、あまり上手く動かせない。
「一方向に固定は出来る訳だな?」
「そうだな。出来ない事はない、という程度だとは思うが」
「なら魔力を通す時は、外側に火を放つ様にすれば、嬢ちゃんに被害はねえって事か」
「・・・そんな簡単に出来るかどうかは解らんが、そうなるだろうな」
俺の戦闘は高速で踏み込んで全力で殴る。これが基本のスタイルだ。
となれば炎を幾ら外側に放っていても、腕の位置次第では炎に当たりかねない。
まあ循環の魔術を使っているので、少し当たった程度であれば問題はないが。
「・・・そうか、軽く触れる程度なら問題はない、か」
「お、嬢ちゃんの方も解決法を思いついた感じか?」
「そうだな。手甲に魔力を通すという事は、服の方にも魔力を通している。なら少し火にあたった程度であれば、燃える事はないだろう。循環魔力で覆われた毛皮はそう簡単に燃えない」
これに関しては軽く検証しているので、おそらくは間違いない。
そもそも火傷する様な熱波を食らっても、あの毛皮は焼けていないんだ。
勿論直接的な火とは話が違うが、それでも多少防げるだけの性能は有るはず。
「だが流石にずっと火に当たっているのは厳しいだろうし、これが放つ熱にずっと耐えられるかも解らん。あくまで少し当たる程度なら問題はないだけで、やはり熱対策は必要だろう」
「おう、任せとけ。何とかなると思うからよ。見た所熱は発しちゃいるが、融解する様子はないみてえだ。てこたぁ熱があるっても、そこまで無茶苦茶高熱じゃねえはずだ」
「言われてみれば・・・」
これを使って手甲と脚甲を作った訳で、そうなると鋳塊を溶かす必要がある。
つまりこの熱は鋳塊が溶けない程度であり、鍛冶師にしてみれば高熱ではない。
そしてこの店主は鍛冶師というよりも、様々な武具を作る事が出来る職人だ。
ならば融解しない程度の熱など、対処方法は幾らでもありそうだ。
「魔力を通せるなら、その方が嬢ちゃんも良いだろう。強化されるみてえだしな。しっかり改善しとくから、俺に全部任せとけ!」
「素材の劣化が無いか見極めてからにしてくれよ」
「わーってるわーってる。ちゃんとするって」
俺の頭をわしゃわしゃと撫でる店主はやけに楽しそうだ。
もう既に作る気満々なんだろう。大丈夫か全く。
「これで少しは、嬢ちゃんの身の危険を払えると良いな」
「・・・そうだな」
そういう事か。全く、お節介な。だからその優しい手と優しい目をやめろ。




