第190話、不思議素材
「まてまてまて、先ずはアレが劣化しないかの確認が必要だろう。俺はこの手甲も脚甲も便利だと思っている。無駄に壊す気はないぞ。店主の考えた事は、これに魔力を通す事だろう。ならばせめて結果を最後まで見届けてからでも良いだろう」
「―――――そりゃそうだ。わりい、ちょっと気が逸った」
もう既に奥まで連れ込まれてしまったが、そこで店主に告げると正気に戻った。
何をやりたいのか何となく察するが、それでも先ずは確認が先だろう。
「おそらくだが、あの熱に対応できる作りにしたいんだろう?」
「ああ、そうだ。もし出来るなら、攻撃手段が一つ増えるだろ」
「それは、まあ」
必要かどうかは別として、魔力を通せるなら有用な事は他にもある。
何度か全力で殴ってはいるが、それでもまだ手甲は壊れていない。
だが凹みや歪みはある。つまり何時かは壊れるという事だ。
それがもし魔力を通せるなら、消耗速度は一気に落ちる。
ただ魔力を流すには熱の対処が必要で、現状では流せない。
もし劣化しない事が確認できたら、手甲は預ける事になるだろう。
という訳でスゴスゴと戻ると、娘がにニマッとした顔を向けて来た。
「あ、お父さん戻って来た。お帰り~」
「おい、解ってたんなら止めろよ」
「あははっ、凄く楽しそうだったねー」
「・・・お前ホント、そういう所アイツにそっくりだぞ」
「だって娘ですから」
アイツとは、文脈からして娘の母親、店主の妻の事だろう。
つまり妻によく揶揄われている、という事を俺達に教えた訳だが。
その事実に気が付いてない様子の店主は、頭をガリガリかきながら赤い石を見る。
本来の色は赤く無いのだが、未だに熱を持っているのだろう。
土が焼ける匂いがする。とはいえ焦げる程度ではあるが。
これがもし更に高熱であれば、このまま観測とはいかなかっただろうな。
「お、お帰りミクちゃん。突然で、慌てちゃった」
「メラネアは基本的に何時も慌ててないか?」
「そ、そんな事無いよ、いざという時は、落ち着いてる、もん」
「いざという時以外は慌ててるだろう。むしろ逆に何でだと言いたくなるぞ」
「う・・・だ、だって、まだ普通に人と話すの、慣れないんだもん・・・」
「その割にはお前は可愛がられてるがな」
「・・・アレは、ミクちゃんが、怖がられてるからだと、思う」
その点は否定しない。メラネアが緩衝材になって会話が成立してるからな。
俺一人なら知った事かと殴り飛ばすだけで大体終わる。
ただメラネアの後ろに隠れる連中は、もう一発殴った方が良いと思うが。
「ところでこれ、何時熱が収まるんだ、嬢ちゃん」
「俺が知る訳ないだろう。初めてやったんだぞ」
「・・・そりゃそうだ」
当たり前の事を聞いたと、微妙な顔をして応える店主。
俺は溜息を吐き、娘はまた苦笑を向けている。
落ち着いた様に見えたが、全く落ち着いて無いらしい。
余程新しい事をしたいのだろう・・・全く、仕方ないな。
「余った素材は、まだ有るのか?」
「装備にする為に色々試したのが、幾つか残ってる程度だな」
「ならそれを使うとしようか。さっきはああ言ったが、確かに何時熱が収まるのか解らん。なら残ってる別の分で試して、そちらで熱の確認をすれば良い。後はこれが劣化しなければ、それ前提の改造をすれば良いだろうよ。駄目な場合はするなよ。魔力は流さんで使うからな」
「お、おう、じゃあ奥に行こうぜ!」
うわぁ、解り易くワクワクしてる。よっぽど新しい事試してみたいんだな。
などと思っているとまた腕を握られてしまい、奥まで連れ去られる。
オイコラ同じ事をするな。引っ張らなくてもついて行く。
そうして奥の作業部屋に辿り着くと、即座に素材を出して来た。
加工用の台の上に置き、さあと手をかざして来る。
「嬢ちゃん、頼んだ!」
「・・・あいよ」
最早何かを突っ込む気も無くなり、魔力を流して循環させる。
すると先程の石と同じ様に赤くなり、更に強い熱も放ち始めた。
それでもまだ流せそうだと思ったので、更に魔力を流し込んで行く。
「うお!?」
「うおおお!?」
すると今度は火柱が上がり、素材が燃えてしまった。
俺も店主も驚きの声を上げて、思わず後ろに仰け反ってしまう。
「も、燃えたぁ!? マジかよ!?」
「・・・いや店主、違う様だぞ。素材は残ってる」
「うっわ、マジだな。てことは何だ、これは燃えてるんじゃなくて・・・」
「この素材が火を放っている、という事だろうな」
「・・・何の素材使ってどう作ったら、こんなもんが出来るんだよ」
「俺に言われても解らん」
しかもこれ、まだ流し込めそうだぞ。流し込んだらどうなるか解らないが。




