第189話、隠れた特性
「おい、どうでも良いが何の為にこの話をしたか忘れてないだろうな」
思わずそんな事を口にすると、即座に返答が返ってこなかった。
しかも一瞬目を泳がせ、本気で記憶を探る様子が見える。
「・・・解ってる解ってる。ちゃんと覚えてるって」
「どうだか」
そして思い出したのだろうが、声が上ずっていて解り易すぎる。
腕の良い職人にはなれても、商売人の駆け引きは出来なさそうだ。
いやまあ、仕事になったらまた違うのかもしれないが。
「んじゃ、嬢ちゃんの体質があったから、こいつはこうなった訳か」
「そうだな」
「んじゃこっちは魔力を通せないのか? こっちも魔獣の素材が使われてるって話だが」
店主は手甲と脚甲を持ち上げてみせ、コンコンと軽く叩く。
「そっちは魔力を通してみない事には解らんな。服の方は魔力を流す前から行ける自信があったから試したが、そっちは服の様な感覚が無かった。なので止めておいた」
「ふむ・・・嬢ちゃん、それの余り素材残してるから、ちょっと待っててくれ」
「わかった」
恐らくは余った素材に魔力を通し、壊れないか確かめたいのだろう。
ただあの素材を持った時に思ったのは、ただ重いという事だけだった。
魔力や魔獣の力を感じた覚えがなく、となると結果は見えている気もする。
だがもし魔力で強化できるのであれば、それは有用と言えるだろう。
「おいよ嬢ちゃん。小さいけど試すには良いだろ」
「解った、試してみる」
店主は予想通り試しの素材を持って来て、俺に手渡した。
俺の手の小ささでも包み込める程度の欠片だ。
それでも多少重みを感じる辺り、これがどれだけ重いかよくわかる。
「では、いくぞ」
宣言してから魔力を流し込み、小さな欠片に魔力を循環させる。
すると少々の抵抗はあったが、魔力を通す事は出来た。
だが防寒具に流している時の様な感覚は――――――。
「あづっ!?」
「嬢ちゃん!?」
「ミクちゃん大丈夫!?」
「ミクちゃん!?」
手の中にあった石が突然高熱を発し、思わず落としてしまった。
石はバスッと土の上に落ち、熱を発していますと言わんばかりに赤く光っている。
店主も娘もメラネアも、落ちた石よりも俺の心配をしていて気が付いていない。
「――――っ、なんだ、これは。店主、何か知っているか」
「え、何の事・・・なんだこりゃあ」
手を押さえながら店主に問うも、どうやら店主も知らないらしい。
流石は製法が隠されている物質だ。特性も不明という訳だな。
勿論作った連中は知っているんだろうとは思うが。
とはいえ今まで魔力を流した奴は居なかったのだろうか。
居ないか。これは高価なものだが、値段以上に貴重な物だったな。
となれば貴重品を壊す可能性は、避けたいと思う人間が殆どだろう。
それでも知っていて黙っている、という人間が居る可能性も大きいが。
「店主が知らないのでは、俺の魔力のせいか、それとも単純に魔力を流したせいか解らんな」
「そうだな・・・あつっ!」
「それはそうだろう。明らかに熱気はなってるんだから触るなよ」
「どの程度の熱さかと思ってな。おー、あちち」
店主は手を振りながら空気で冷やそうとするが、多分それ火傷になるぞ。
そう思い自分に循環をかけつつ、店主にも循環をかけておく。
「お、お、なんだこれ、すげぇ・・・!」
「治癒術は初めてか?」
「これ本当に同じ治癒術か!? 全然違うぞ!?」
「そんなにか・・・」
そういえばブッズも気持ち良いと言っていたし、やはり普通ではないのか。
とはいえ効能の違いが『気持ち良い』では、特に意味がない気がするが。
按摩店でも開くつもりなら、それで儲けられるかもしれんがな。
「しかし、こうなると迂闊に魔力は流せんな」
「そうなるなぁ・・・うーん。いや待て、ちょっと考えがある。数日休むってんなら、おれに手甲と脚甲だけでも預けねえか。悪い様にはしねえ」
「別に構わんが・・・」
「おし、そうと決まれば嬢ちゃん、ちょっとやって欲しい事がある。ここじゃあぶねえから奥に行くぞ!」
「お、おい・・・」
店主に手を取られ、店の奥の作業場へと連れ込まれる。
娘はそれを苦笑で見送り、メラネアはオロオロするだけだった。




