第188話、話した理由
「嬢ちゃんがそんな事情を抱えてるたあなぁ。ちいせえのに雰囲気が子供らしくねえと思っちゃ居たが、納得できる話だったぜ。そんな経験してりゃ、子供らしくもなくなるわな」
店主がそんな事を言い出したが、それはまた別の話なんだが。
俺は生前の様々な経験と記憶から、こんな喋りと性格な訳だし。
とはいえ前世の事は話していないので、そこまで言うつもりはないが。
「まあ、そんな所だ」
「しっかし、良かったのか、そんな事俺達なんかに話しちまって」
「良くは無いのだろうな。特に俺の方は。人間じゃない化け物だと公言する様な物だ」
「・・・人間だよ、嬢ちゃんは。少なくとも俺から見ればな」
優しい、けれど何処か泣きそうな眼を向けながら、俺の頭を撫でる店主。
その手がやけに暖かく、余りに優しい手つきで店主らしくない。
まるで我が子に向ける様な態度に、少々むず痒い物を覚える。
「そうだよ、こんな可愛い子に化け物なんて、そんな事言う方が酷いよ!」
娘の方は俺の言葉が気に食わなかったのか、激昂する様にそう言った。
どうやら泣き止みはしたが、まだ落ち着いては居ないらしい。
メラネアの事も抱きかかえたままだし、落ち着くにはもう少し時間が要るか。
抱きかかえられている彼女はと言えば、相変わらず苦笑しながら背中を撫でている。
本当に、どちらが慰められているのか解らない様子は、流石に店主も苦笑を見せた。
因みにさっきから狐が静かなのは、どうでも良さそうな様子で丸まって寝ているからだ。
「まあ別に、俺は自分が化け物だという自覚は有るし、悲観もしていない。だが人間というものは他と違う存在を排除したがる。その事実がある以上、下手に口に出来ないというだけだ」
何時の時代、どの世界でも、人間はそんな物だ。
貴方は私と違う。そんな当然のことが人間は受け入れられない。
勿論全員が全員そうではないが、大多数の人間はそんな反応を見せる。
ならば俺が化け物だと言う公言は、敵を増やす事に等しい。
何より魔獣だからな。何時理性を失って暴れるか、などとも言われかねん。
「それは・・・否定は出来ねえけどよ」
店主はそんな俺の言葉に対し、綺麗事は吐かなかった。
主観の話であれば、店主は俺を化け物として見ていないのだろう。
だが客観的な事実を否定しない彼に、俺は少し好感を覚える。
彼も様々な人間を見て来たのだろう。客商売だから尚の事だ。
ならば否定できるはずもなく、むしろ肯定するしかないだろう。
「お父さん!?」
「いや、気に食わなくても、それは事実だろ。そういう奴は現実に居る。嬢ちゃんは化け物じゃねえって否定した所で無駄なんだよ、そういう手合いには。なら言わない方が良い」
「それは・・・そう、かも、だけど・・・」
娘の方も落ち着いて来たのか、一瞬激昂したものの渋々納得する様子を見せた。
落ち着いているようで何よりだ。これなら俺の事を話し回る事も無いだろう。
「けど、何で話しれくれたんだ。今言った様に、あんまり話せる事じゃねえだろ」
「客の秘密は守るのだろう?」
「いや、まあ、そりゃ俺は守るが・・・もしそうじゃなかったらどうするんだって事だよ」
「その場合は俺に敵対するという事だろう。後は知った事では無い」
「そりゃ随分とおっかない事で」
もしこの事を言いふらすのであれば、それは店主が俺に敵対する意志が有るという事だ。
俺を排除する為に、周囲に情報を漏らしたという事だ。
ならその時は俺の判断が間違いだったと認め、敵対者には報いを与えるだけの事。
ただ、それだけの事だ。話して良いかと思ったのは、それだけの事に過ぎない。
「・・・解った。誰にも言わねえ。約束だ。客商売だって事も抜きでな」
だがそんな俺の言葉に対し、店主は恐れも気負いもなく、優しく俺の頭を撫でていた。
まるで『解っている』と言いたげな様な優しい目で。
いや、照れ隠しとかじゃなくて本気で言ってるんだが。本当に解ってんのかコイツ。




