第184話、休みの朝?
「あ、おはよう、ミクちゃん」
「・・・おはよう」
朝起きるとニコニコ笑顔のメラネアが居り、ぼーっとした頭で挨拶を返した。
小人は隣で気持ちよさそうに眠り、狐は興味が無さそうに大あくびをしている。
「・・・今日は、走りに行かなかったのか?」
「え、と、もうお昼、だよ?」
「・・・昼」
疲れている自覚はあったが、寝過ごす程に疲れていたか。
とはいえ何か予定がある訳でも無し、特に問題は無いのだが。
有るとすれば、やけに腹が減っている事ぐらいだろう。
何せ昨日はろくに食わずに走って帰り、そのまま寝てしまってるからな。
「・・・とりあえず、何か、食いたい」
「ふふっ、じゃあ食堂にいこっか」
欲望がそのまま口から出ると、メラネアはクスクスと笑いながら俺の手を引く。
昨日は防寒具のまま寝てしまったので、寒さを感じる事無く食堂へ。
すると何時も通り、看板娘が笑顔で出迎えてくれた。
「ミクさん、おはようございます」
「・・・おはよう」
「・・・何だか様子がおかしくない、ですか?」
「・・・大丈夫、起きてる。何か、食べさせてくれ」
「は、はい」
ぼーっとしながら何時もの席に座ろうとして、人が居る事に気が付く。
ただそれは認識できるのだが、だからと言って移動する気が起きない。
いや別に、この席に拘りがある訳では無いのだが。
「え、えっと、お嬢ちゃん、俺に何か用かい?」
「・・・いや、別にない。ええと」
「み、ミクちゃん、あっちが空いてるから、そっちに座ろう? ね?」
「・・・ん」
メラネアに手を引かれて移動し、空いている席へと座る。
暫く待つ内に段々空腹が強くなり、気持ち悪くなって来た。
そのおかげか頭が覚めて来て、数回の瞬きの後で周囲に目を向ける。
「おはよう、ミクちゃん」
「・・・別にさっきも寝ていた訳じゃない」
「でも、寝ぼけてた、よね?」
「・・・そうだな」
昨日の眠気といい、今日の寝起きといい、やはり疲れてたと言わざるを得ないな。
とはいえもう目はしっかりと覚めたし、何時も通りの調子に戻っている。
問題は空腹感であり、食事が出て来るまでの時間が辛い。
だが流石はこの店の店主というべきか、そこまで待たずに料理が出て来た。
看板娘が俺の前に食事を置き、メラネアは茶だけをのんびり飲んでいる。
「別に付いてる必要はないぞ。もう本当に起きている」
「あ、うん、解ってるけど・・・居たら、じゃま、かな?」
「別に邪魔とは思わん。好きにしろ」
「うん、じゃあ、好きにする、ね」
何が楽しいのか解らないが、メラネアはニコニコ笑顔で隣に居座る。
結局俺が食べ終わるまで一緒で、俺が食堂から出ても付いて来る。
「おや、おはようミクちゃん。目が覚めたかい?」
「・・・女将まで言うのか」
「あははっ、そりゃねぇ。何時も鋭い目のアンタが、トローンとした目で歩いてんだからさ」
「・・・そんな目をしてるのか、俺は」
「ああ、今にも立って寝そうな程だったよ?」
そこまでボケッとしていたつもりはないが、多分事実なんだろうな。
セムラにも弱点と言われた覚えが有るし、それ程に無防備に見えるのだろう。
とはいえ殺意の類を感じさえすれば、即座に目は覚めるが。
「それだけ山が過酷だって事なんだろうけどね」
「そうだな、大分過酷だった。アレは人間が住める環境に出来ていない」
「おや、お嬢ちゃんがそこまで言う程かい。でも無事帰って来れたんだろう?」
「俺だから帰って来られただけだ。それに特別製の防寒具もあった。これが無ければ確実に、とまではいわないが、死んでいた可能性も高いだろうな。こんな物を万人が用意できるか?」
「そう言われると、難しいと言うしかないねぇ」
当然だろう。この防寒具はかなりの特別製で、金額はかなりの物のはずだ。
そんな防寒具を誰もが持てるかと言えば、当然ながら不可能だ。
防寒具代わりに家屋や砦を建てられるかと言えば、それも多分難しいだろう。
あの山奥は常に吹雪いている。あの吹雪の中での建設は現実的じゃない。
例え建設できたとしても、生半可なものでは魔獣が破壊してしまう。
そもそも魔獣の脅威に対応できず、そのまま殺されるのが落ちだ。
「さて、俺は出て来る」
「え、ど、どこいくの?」
「防寒具を見て貰いに行く。手甲と脚甲もな」
「あ、じゃ、じゃあ、私も行くよ」
「・・・まあ、別に構いはしないが」
・・・寂しかったのだろうか。やけにくっついて回って来るな。




