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第177話、幸せの種類

「しかし君は凄いね。まだ若いだろうに、そんなに強いなんて」

「お前には及ばん様に見えるがな」

「あはは、僕はとても長く生きて来たから。もしかすると君のお兄さんよりも、長生きかもしれないぐらいにはね。それだけ長く生きれば強くもなれるさ」


 精霊よりも長生き・・・いやその前に、こいつは長生きなんだろうか。

 出会ってからの事しか知らないし、昔の事など語られた覚えも無い。


『僕はまだまだ若いよ!』

「おや、そうなのか。精霊の年齢は解り難くてね」

『大丈夫、僕は人間も魔獣も良く解んない!』

「あははっ、精霊らしいなぁ」


 あれ、けどこいつ、男女とか子供大人は判別ついていた様な。

 少なくともメラネアは小さな子供、と解っていたよな。

 それに俺が可愛くされた時も、可愛いと認識していたはずだ。


 いやでも羽増やして対抗してたし、やっぱり良く解ってないのか?

 まあ良いか。こいつの認識が怪しいのは元から解っているし。

 今はこいつの事よりも、牛の話を聞きたい。


「所でお前は一体、何故こんな所でこんな事を?」

「こんな事、か。ふふっ、そうだね、こんな事だね」

「ああいや、別に馬鹿にしたつもりは無く、純粋な興味だったんだが・・・」

「うん、大丈夫だよ。解ってる。でもこんな事って言葉が実にしっくり来てね。ふふっ」


 気分を害したかと思ったが、牛はむしろ楽しげに笑う。

 本当に穏やかな魔獣だ。本当に魔獣なのかと感じるな。


「友達のお墓に居るんだ、僕は」

「・・・墓?」

「そう、お墓。ずーとずーっと昔に、一緒に暮らした友達。その友達が眠るお墓にずっといるだけなんだよ、僕は。そのお墓の傍に居られる様に、守る為にここに居るだけなんだ」

「・・・良く、解らないな。墓を守る為に、土地を安定させるのか?」

「うん、だって、そうしないとお墓が壊れちゃうから。あの子が頑張って作ったお墓が」


 牛の目だと言うのに、優しい笑みが解る表情を見せる魔獣。

 そしてその視線はとある方向を・・・砦のある方向を向いていた。


「・・・まさか、墓とは、あの砦の事なのか」

「うん。あの子が懸命に作ったお墓。その身を埋める場所を決めたあの子の為に、僕はあの場所を守ったんだ。それからもずっと、もう随分と長く、ここであの子の墓を守っているんだ」


 どうやって作ったのか疑問だった。どれだけ人が必要だったのかと思った。

 だがそうか、そういう事か。あの砦の建設には、人ならざる者の力添えがあったのか。

 そうして建設された砦は、果たして建設者の死後も半精霊の魔獣によって守られている。


「だがそれなら、よくあの位置に砦を作れたな。今を保つのにお前が必要なら、明らかに位置が悪いだろう。お前が消えた後はどうするつもりだったんだ」

「昔は僕の力なんて要らなかったんだよ。だから僕はあの子が死んだ後は、お墓の周りでのんびり暮らしてたんだ。でも少しずつ、この辺りの土地の力が不安定になりはじめてね」


 成程、死後の異変でこうなったと。それなら納得は出来る話だな。


「・・・それを感知したお前は、砦から離れてここに居るという事か」

「うん。もう随分前の事だと、思う。いや、もしかするとそんなに前じゃ無いのかも。あはは、ずっとここに居るせいか、段々時間の感覚が無くなって来ててね。多分半分魔獣じゃない存在になってるのも理由だと思うけど」

「コイツが言うには、半分精霊らしいな」

「魔獣が長生きすると、そういう事も在るらしいんだ。ここに居るのも要因かな?」


 あははと、優しく笑う牛。この牛は一体どれだけの時間ここで過ごしているのだろう。

 少なくとも辺境の街では、この牛の話など聞いた覚えはない。

 いや、俺が聞いていないだけで、伝承や昔話は在るのかもしれない。


 だがそんな『昔話』になる程度には、この牛の存在は忘れ去られている。


「お前は良いのか、それで。ここでずっと、死者に縛られていて」

「・・・君は優しい子だね。お嬢さん」

「別に優しさで言っている訳じゃ無い。ただ不満は無いのかと思っただけだ。もう砦の住人はお前の事など覚えていない。お前が守っているなど欠片も思っていない。それなのに、良いのか」


 実質的にあの街を守っているのは、どう考えてもこの魔獣だ。

 だが誰もこいつの存在など知らない。感謝も敬意も無い。

 だと言うのにこの魔獣は、それでも砦を守り続けるのか。


「うん、解るよ、君の言いたい事は。でも良いんだ。僕はここであの子のお墓を守って、のんびり過ごしているだけで幸せなんだ。目を瞑ればあの頃に戻れるし、何も寂しくはないよ」

「・・・そう、か」

「うん、そうなんだ」


 俺には納得できる話では無かった。身を犠牲にして生きている様に見えて。

 だが幸せと告げる牛の目に曇りは無く、ならばもう、俺が口をはさむべきでは無いのだろう。


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