第175話、向かう目的
「くあぁああ・・・」
最早作り慣れたかまくらの中、夜明け前に目を覚ました。
そして欠伸をしながら半分以上埋まった入り口に向かい、雪を軽く掘り返す。
中からは昨日入れておいた肉が出て来て、これを朝食にするつもりだ。
雪から出したばかりの肉は凍っているので、熱波の魔術を当てて溶かす。
そのまま肉の中まで熱を通し、火を使わずにしっかりと焼く。
使い慣れるとかなりの高熱も出せる様になったので、かなり便利になったな。
問題は肉だけに熱を当てようとすると、若干構築が難しい事だろうか。
雑に放つ分はかなり簡単だ。それこそ高熱もあっさり出せる。自滅するがな。
指向性を持たせれば良いんだが、逆を言えば持たせない素の状態は無差別だ。
因みにかまくらも吹雪の魔術の応用で、大きな雪玉を作り出して作成できた。
が、二度とやらない。素直に周囲の雪を使った方が楽だったからだ。
中に入れるサイズの雪玉を作る過程で、かなりの魔力を持って行かれた。
更に何故か体力も持って行かれ、出来上がる頃には息が上がる始末だ。
初めての息が上がる体験がアレとは、流石に想像の範囲外だったな。
恐らく攻撃に使えば、かなりの威力だったろう。
まあ作るのに時間がかかったので、実戦で使える可能性は余りに小さいが。
「もぐもぐ・・・うーん・・・微妙だ」
昨日のトカゲ鳥の残りな訳だが、余り好みの味ではない。
不味いとまでは言わないが、美味いとも思わないただの肉だ。
ここまでに何回か美味しい肉があっただけに、もそもそと食べてしまう。
精霊は歯ごたえが良いと、昨日は最後までご機嫌だったがな。
「きのう・・・ああ、そうだ、古代種に、会いに行く、か」
まだ少しぼーっとした頭で、今日の予定を組み立てる。
昨日の時点で決めていた事だが、当面は古代種の居る方向に進むつもりだ。
とはいえ一日も歩けば到着すると思うので、余程の事が無ければ予定は変えないが。
そんな風にもそもそ食べながら考えていると、精霊がバチッと目を覚ました。
『おはよー妹・・・ふああああ。兄の分のお肉はー?』
「まだ肉が雪に埋まってるからとって来い」
『妹が食べてるのわーけて♡』
俺はむんずと精霊を掴み、雪の中に投げつけた。
静かになったので残りを食べ、暫くすると笑い声が響く。
『あははは! 雪の中すばーって突き進むの楽しかったー!』
全く堪えた様子の無い精霊が、肉を引きずって戻って来た。
そうしてご機嫌に俺の傍に来て、キョロキョロしてから首を傾げる。
『兄の肉を焼く火は?』
「無いぞ」
『えぇ!? じゃあ兄は何で肉を焼けば!?』
「しらん」
『えー、やだー! 凍ったお肉やだー! 兄も焼いたの食べたーい!』
「自分で焼けばいいだろう」
『兄は火が出せません! えっへん!』
胸を張って言う様な事か。というか、火は出せないのか。
精霊なんて存在なら、それぐらい出来るものかと思っていた。
「・・・ほら」
『わーい! 妹優しい!』
仕方ないので火を出してやると、大喜びで肉を焼き始める精霊。
ただこうなると焼き終わるまで移動できず、少し失敗したと思ったが。
そうして暫く肉を焼くだけの機械となり、肉が焼き終わったら外に出た。
「今日も吹雪いているな・・・やはりあの一日が特別だったか」
吹雪いていない日が一日だけあったが、あれ以降は毎日吹雪いている。
おかげで先の景色はほぼ見えず、魔獣の接近も感覚頼りだ。
景色を楽しみたいとは言わないが、流石にずっと吹雪の景色は飽きが来るな。
「さて、行くか」
精霊は肉を食っているが、どうせ食い終われば後から来る。
なので放置して足を踏み出し、精霊を投げ飛ばした方向へと進む。
「古代種、か・・・」
会って何がしたいと言う事も無い。何が出来ると言う訳でも無い。
ただ何となく会ってみたい。それだけの為に向かっている。
「・・・俺も、同じ様になるのだろうか」
いや、きっと気になるのはコレだ。多分これが素直な気持ちだ。
人間の見た目でありながら、人間とはかけ離れた膂力を持つ生物。
魔獣の特性を有し、精霊の性質も持っているらしい、明らかな化け物。
その化け物と似た様な存在が、長い時を生きている。
ならもしかすると、俺も同じ様に長い時を生きるのでは。
別にそれが嫌な訳じゃ無い。むしろ望む所だ。
今まで何度も生を全う出来なかった分、長生きするのも悪くない。
「・・・長生きをしているであろう本人は、一体どんな様子なのか」
きっと出会って話を聞いたからと言って、古代種と俺が同じになるとは限らない。
こんな所で土地の安定に努めている様な存在だ。気が合う気は一切しない。
精霊とは別の理由だが、俺も面倒な事は投げ捨てるからな。
それでも一目見て、少しだけでも話を聞きたい。そう、思っている。




