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第169話、熱波

「キュイキュイ!」

「・・・気の抜ける鳴き声だな」

『可愛い鳴き声ー。兄も負けないぞ! がおー!』


 多分興奮してるん、だと思うが、何と言うか図体の割に可愛い鳴き声だ。

 纏う魔力は全く可愛く無くて、吹雪の魔獣の時を思い出す。

 ただアレより上位なのか、纏う魔力の量が桁違いに見える。


「こう、か?」


 そしてこの熱は当然魔術の類らしく、観察すると何となく構成が見えて来た。

 吹雪の時と同じく真似できる気がしたので、見よう見まねで魔力を練って構築してみる。

 すると上手く行って周囲に熱が発生し、だが即座にその魔術を切った。


「あつい・・・」

『あっつい!』


 熱波が無差別だった。術者だろうが関係なく熱に晒される魔術だ。

 薄着の時であれば兎も角、これだけ着こんだ防寒具の中では暑すぎる。

 上手く弄れば指向性を持たせられそうだが、その練習はまた後にしよう。


 ただでさえネズミが発する熱で暑いのに、更に熱を増やしても意味は無いしな。

 とりあえずは覚えた、という事で今は終わらせておこう。


「キュイキュイ・・・コカカカカカ」

「うん? なんだ?」

『警戒してるー?』


 歯を鳴らしている・・・喉を乗らしている? 良く解らないが警戒しているのか?

 思い当たる可能性が有るとすれば、眼の前で同じ魔術を使ったからだろうが。


「さて、どうするか」

『ねーねー妹、兄流されてるー。たーすけてー』


 俺の出来る事は知れている。突っ込んで殴る。ただそれだけだ。

 だが問題点として、足場がゆるゆると溶けており、踏み込むには心もとない。

 更には雪が解けるという事は、周囲が水浸しになるという事でもある。


 雪が解けて地面が露出しても、出て来るのはぬかるんだ地面と来た。

 というか、これは少し不味い、様な。このままだとこの辺りが池になりそうだ。

 目の前のネズミには水たまり程度だろうから、俺だけが一方的に動き難くなるな。


「足場が緩いなどと言ってられんか」

『わぷっ』


 踏み込みの緩さを考えて、むしろ衝撃を地面まで届かせるつもりで足を振り抜く。

 その衝撃で体を動かし、ただし真っ直ぐにネズミには向かわない。

 ネズミの熱で雪が解けた事で、完全に露わになった山壁へと突っ込む。


 そして壁に着地して体を沈ませて、しっかりと地面を感じながらネズミへと飛ぶ。


 そんな俺の動きをネズミは冷静に見ており、視線がしっかりと俺へ向いていた。

 動きを加減したつもりは一切無い。となれば油断せず全力の一撃を叩き込まねば不味い。

 そう思い反撃も想定しながら拳を握り、だがその拳は振り抜けなかった。


「キュイー!」

「ちっ!」


 ネズミの周りの魔力がうねり出し、熱風が迫って来るのを感じた。

 目元を覆う様に腕で防ぎ、次の瞬間に熱と衝撃を全身に受ける。

 熱を纏えるのだから、それを操作出来て当たり前か。


 しかもこの熱は、素肌で受ければ全身火傷の可能性すらある。

 目は瞑って防いでいるが、この防寒具が無ければどうなっていたか。


「ぐっ・・・!」


 前進をしている所に前からの衝撃は、威力を殺せない所か増している始末だ。

 ただ突進の勢いは死に切らず、ネズミの上へと放物線を描いて飛ばされてしまった。

 熱が少し引いた事で目を開くと、眼下に居るネズミは俺を静かに見つめている。


「油断も無しか、ネズミなのだから、突然動きでも止めれば良い物を」


 さてどうするか。最早奴の周りは水浸しだ。懐に潜って攻撃、というのは難しい。

 というか段々川になって無いかあれ。尚の事面倒この上ないぞ。

 ネズミの図体は小山の様な物なので、溝に流れる水程度の影響だろうし。


「あんな馬鹿でかい砦を作る訳だと、改めて思うな」


 空中に放り出されている状態で、思わずそんなのんきな事を口走る。

 勿論現実逃避の類では無く、ある程度の余裕と対策が有るからではあるが。


「寒波と熱波の勝負と行こうか・・・!」


 魔力を練り上げて吹雪を作り出し、そしてこの吹雪は寒波も作り出す。

 その風も使って上手く足場に着地してから、ネズミに向けて吹雪を放った。


「キュイ!」


 寒波に脅威を見出したのか、ネズミは熱波をぶつけて来る。

 お互いの操る魔術の中央で、水蒸気が登って真っ白になっているな。

 ただどうも打ち負けている気がする。込めている魔力量は俺の方が上だと言うのに。


 魔術の構成の問題なのか、魔術の性質の問題なのか、どちらが原因かは解らない、が。


「力押しならば、負けん!」


 この状況で負けているというのであれば、更に魔力を注いで放つだけだ。

 強引に魔力量で熱波を押しこみ、寒波で上書きしていく。

 更には別で魔力を練り上げ、熱波を貫通する雪玉をぶち込んだ。


「キュイ! キュー! キュイー!」


 機関銃の様に打ち出される雪玉に対して、声を上げて慌てる様子を見せる。

 熱波で軌道を逸らしてはいるが、全てを防ぐ事は出来ていない。

 足元の水が蒸発する程の熱の様だが、それすらも貫通する雪玉が突き刺さる。


 ただし威力自体は減衰しているのか、致命打になる程の威力は無いか。


「ならば、更に魔力を込めるまで・・・!」


 致命に届く一撃を、熱波で防げぬ一撃を、渾身の雪玉を作り上げて放つ。

 その一撃は頭部へと突き刺さり、プイっと最後まで可愛い鳴き声を上げて倒れた。


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