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第166話、保護色

「くっ、のっ・・・!」

『ふはははー! よじ登るのは兄の勝ちだー!』


 雪に埋まってしまったが、よじ登って雪の上に立つ。

 先の登って勝ち誇っている精霊に文句を言う気も起きない。


「はぁ・・・何をやっているんだ俺は」

『どんまい妹、明日があるさ』

「・・・」


 投げ捨てる気力も無い。大分疲れ切っているな。

 とはいえ目的の場所には降りられたので、良しと思うとしよう。

 むしろそう思わないとやってられない。全くもって盛大に無様を晒した。


「装備は、問題無さそうだな・・・」

『モコモコのままだねー。でもちょっと雪ついてるよ?』


 落ちる際に大分無理をしたが、手袋が破れた様子は無い。

 むしろ傷らしき様子も無い。あれだけの勢いだったのに削れすらない。

 落ちる前に魔力を纏っておいて良かった、と思いながら雪を払う。


「さて、これだけ派手に落ちた訳だが・・・魔獣の気配は薄いな」

『皆寝てるのかなー』


 この辺りも雪が深く、一面真っ白な景色が広がっている。

 精霊の言う通り冬眠でもしているのか、生き物の気配自体が薄い。

 だが薄いだけだ。山の上の方と違って、息を潜めている獣の気配を感じた。


「・・・良い傾向だ。ちゃんと魔獣が居るじゃないか」

『でも少ないよー?』

「少なくとも、居ないよりはマシだ」


 暫く探し回る覚悟だったが、早速見つかったのは僥倖だ。

 更に言えば、俺を襲うつもりの様子なのも良い。

 おかげで気配を簡単に感じられたし、逃げられる心配も無い。


 それと少しほっとしている。熊カモシカは現れるまで解らなかったからな。

 まさか感覚が鈍ったのかと思ったが、別にそういう訳では無いらしい。


「何が違うのか・・・これはしっかり理由を見つけておかねば、不意打ちも受けかねんか」


 今潜んでいる獣は、明らかに俺を狩る気だと感じられる。

 そのせいか『潜む』気配を逆に感じる事が出来ている気がした。

 むしろ自然体でそこに在る獣は、どこに居るのか解らないのかもしれない。


「・・・少し乱暴な理論か?」


 今までこちらを狩る気ではない、ないし警戒しているだけの獣の気配も探れた。

 となればあの熊カモシカも条件は同じはずで、ならばやはりこの理由は弱いか。


「だがそういえば、メラネアと会ったの時も、最初は気配を感じられなかったか・・・」


 メラネアの存在に気が付くのが遅れ、不意打ちを打たれかねない状況だったと思う。

 だがその気配に気がついてみれば、俺へ向ける殺意を抑え込んでいる事を感じ取れた。

 となるとやはり、俺へ向ける意識を感じ取れるかどうか、が大きいのだろうか。


 俺に興味が無い上で動きが無かった熊カモシカは、俺の感知能力外の所に居たと。

 間違っているかもしれないが、この想定が一番大きいと考え気を付けてみるか。

 とはいえ、この魔獣が俺を舐め切っているから簡単に解った、という可能性もあるが。


『妹は時々一人の世界に入るの、兄はとても寂しいと思います。もっと兄と会話しよう!』

「・・・会話にならんだろうが。殆ど適当な事しか言わんくせに」

『そんな事無いよ! 兄の言葉はそれはもうとても核心を突くよ!』

「・・・はいはい」

『ハイは一回!』

「うるさい」

『ごめんなさい!』


 謝るのか・・・とりあえず喚く精霊の事は無視して、再度魔獣へを意識を向ける。

 恐らく魔獣は潜んで近づいて不意打ち、というつもりなのだろう。

 だがその潜み方は実に雑であり、俺は既に相手を見つけている。


「真っ白な・・・狐・・・犬? いや、何だか、どちらでもない、ような・・・」


 雪原で身を隠すには最適な、真っ白な毛皮の四足動物が群れを成している。

 だがその『群れ』という点が、簡単に見つけられた要因だ。

 いくら保護色であろうとも、群れで動けば見つけられない訳がない。


 図体はかなり大きく、白熊かと一瞬思った程度はある。

 ただ顔つきは熊っぽくはなく、犬系統っぽいが・・・何かに似ている様な。

 狐かとも思ったが、何だか違う気がする。一体何に似ていると思ったのか。


『アレ狸じゃない?』

「狸? ああ・・・柄は無いが、確かに狸が一番近いな、あれは」


 でかい白狸の群れだ。鼻先まで白いのは、若干不気味に感じるな。

 だがこちらを見つめる目が黒々としているので、鼻の保護色に意味は無さそうだが。

 いや、自分より強い相手を誤魔化すならば、目を瞑って伏せていれば良いのか。


「・・・おつむの方は少々残念そうだな」


 もう見つけていてしっかり見ているんだが、それでも潜めているつもりらしい。

 走ればあっという間の距離でも、じりじりと伏せる様にしながら歩いて来ている。

 そんな様子を見ていれば、少々残念な獣達、という印象はどうしても否めない。


 だがこの山奥に住む魔獣だ。それもこの雪の中で生きている魔獣。

 となれば単なる雑魚では無いだろう。油断せずに、先に仕掛けるか。


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