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第164話、戦い方

「グムォ」


 魔獣の鳴き声が、雪崩の収まった雪山に響く。

 眼の前の魔獣以外居ないせいか、やけに声が大きく聞こえた。


「ふむ」


 見た目は何と言えば良いか、顔周りはカモシカの類に見える。

 胴体は良く居る四足動物の類では無く、関節は熊や猿の方が近いか。

 いや、体格は熊が一番近いかもな。足先まで全てが太い。


 ただ毛皮はやはり、熊というよりもカモシカのそれだ。

 もこもこというか、ふわふわというか、とにかく毛量が多い。

 最大の特徴はやはり大きさだろうな。二階建ての家屋並の大きさだ。


 そんな熊カモシカが雪に腰掛け、俺に視線を向けている。


「ブムゥ・・・?」


 一瞬不思議そうに首を傾げ、だがすぐに興味を無くして雪をかき分け始めた。

 というか、鳴き声が独特だなコイツ。


「・・・襲ってこない?」


 今まで出会った魔獣は、軒並み人間を襲って来た。

 なので今回も出会えば戦闘、と思っていたが様子が違う。

 眼の前の魔獣から敵意は感じないし、むしろ俺に興味が無さそうだ。


 何をしているのか解らないが、雪をかき分け災害を引き起こしている。

 雪遊びでもしているのかもしれないが、図体がでかいせいで規模がおかしい。

 ズズズと音を鳴らして雪が大量に滑り続け、今も雪崩を起こし続けている。


 起こしている本人は図体がでかいからか、これぐらい何ともないのだろうが。

 そもそも雪の中に埋もれていた事を考えると、埋もれたとしても問題無いのだろう。


「・・・どうするか」


 魔獣の命を奪うのは、生存競争の類だと思っている。

 だから別に命を奪う事に特に思う所は無い。

 とはいえその相手に敵意が無いとなると、少々やり難い物を感じる。


「・・・ああ、遊んでいた訳ではないのか」


 暫く観察していると、熊カモシカは雪の中にある木を見つけ、バキリと枝を折った。

 その枝をもしゃもしゃと食べつつ、また枝を折って次の分を持つ。

 つまりこの魔獣の食べ物はこの辺りの木であって、肉は興味が無いという事だ。


 頭の見た目通りカモシカの様な草食だったか。

 それでも魔獣になると、結構な割合で狂暴になるはずなんだが・・・。


「やっと見つけた獲物なんだがなぁ」


 俺の目的は魔獣の魔核だ。自分が強くなる為には魔獣を狩らなければいけない。

 それに肉類だって、別に魔獣だけではなく、家畜の肉だって食べている。

 なら相手が草食だろうが何だろうが、狩らないという選択肢は無い。


 ただどうにも、襲って来てくれないと、少しやり難い気持ちはどうしようもないな。


「悪く思うな・・・いや、恨んで構わんと言うべきか」


 せめて苦しませずに終わらせよう。そう思い魔力を循環させ身体強化をする。

 狙いは頭。もしくは首だ。そこを一撃で仕留めれば、苦しむ事は無いだろう。

 そう思い足に力を込めた所で、熊カモシカはギュルッと首を動かして俺を見た。


 纏う魔力を感じ取ったか、それとも殺意を感じ取ったのか。

 ともあれ警戒を見せた様だが、攻撃してくる様子は無い。


「すま―――――」


 一方的に命を奪う事に謝りつつ、全力で踏み込んで終わらせる・・・つもりだった。

 だが実際に起きたのは、俺の踏み込みよりも先に響いた衝撃音だ。

 ドパァンという盛大な音と共に、熊カモシカの体が宙を舞う。


「―――――は?」


 凄まじくでかい図体が、重力など知った事かと言わんばかりの飛びっぷりだ。

 しかもその衝撃で雪が弾けて周囲に飛び散り、追加で上方からの雪崩も起き始めた。


「なっ、くっ!」


 俺を飲み込まんと迫る雪崩に構えるが、熊カモシカには何の問題も無いらしい。

 雪崩を物ともせずに逆らい、上方へ向かってピョンピョンと跳ねている。

 その度に当然衝撃音が鳴り、雪が崩れ、雪崩は更に酷くなる。


「アイツ、もしやわざとか・・・!」


 後ろに雪を掻き出す様に、俺に雪が迫る様に、俺が動けない様に足を動かしてる。

 捕食者として現れた俺から逃げる為、あわよくばここで仕留めてしまおうと。

 そうして迫って来る雪を殴って吹き飛ばすが、当然ながらまだ追加で迫って来る。


「ちっ、面食らって動くのが遅れた・・・もう追いかけるのは無理だな」


 完全な失態に歯噛みするが、そんな事を気にしている場合じゃない。

 今はこの雪崩をどうにかする方が先で、というか自分の足場も流れている。


「くのっ!」


 崩れる足場に無理矢理足を叩きつけ、その勢いで拳も振り抜く。

 後方が大変な事になっているが、そんな事を気にしている余裕がない。

 流石にこの雪崩も街まで届かない、なら気にする必要は無いだろう。


 そうして雪崩と格闘し続け・・・何とか乗り切った頃には当然、周囲に何も無かった。


「やられたな、まったく・・・」


 相手を草食で敵意が無いと甘く見た。全く情けない。

 野生を生きる獣が、この山の魔獣がそんな甘い訳がないのに。

 次からは気を付けよう。たとえ相手に敵意が感じられずとも。


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