表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
158/370

第158話、出発の連絡

「お、お疲れ様、ブッズさん」

「おう、あんがとな、メラネア」


 訓練が終わったと判断したメラネアが、自分の訓練も終わりにしてタオルを差し出す。

 それをブッズが笑顔で受け取ると、離れて見ていた狐がメラネアの足元へ。

 すると何故か負けじと小人が走り出し、ブッズをよじ登って頭の上に陣取った。


『登頂!』


 無駄に楽し気だな。相変わらずこいつは訳が解らん。

 小人は何時も通りなので無視して、ブッズに治癒術をかける。

 今日は最後だからと、結構何度も強めに殴ったからな。


 大きな骨折はしていないだろうが、ヒビぐらいは入ってるだろう。

 そもそも全身打撲だらけだ。放置したら明日は紫色になる。


「これも今日で最後かぁ。名残惜しいな。本当に気持ち良いんだよなぁ、これ」

「按摩か何かと勘違いしてないかお前」

「施術の結果体が良くなるなら似た様なもんじゃないか?」


 按摩で骨折が直るか馬鹿野郎。むしろ悪化するのが常識だ。

 骨折していると解らず、だるい個所を揉んで肉を巻き込む事態もある。

 知らない人間は骨折と聞くと痛そうに思うが、痛みの無い骨折も有るからな。


「このぐらいで良いな。今思えば、俺も良い練習台を手に入れて有意義だった」

「何か怖い事言い出したこの子。え、なに、俺治癒じゃない何かされてたの?」

「いいや。ただ治癒術の中で色々実験しただけだ。安心しろ」

「何も安心できないんだが?」


 そうは言われても、治癒術として使ってる分には本当に問題無い。

 それに何度かお前にかけていたからこそ、ボロボロだった時に上手く行ったと思う。

 幾ら俺でもぶっつけ本番では、色々と不安な気持ちになっていただろう。


「嬢ちゃんってほんと、そういう所あるよな・・・」

「あ、あはは、ミクちゃん、喋る時は、良く喋るんだけど、ね」

『妹は結構お喋り。でも面倒くさがりなのが良くないと兄は思います』

『わかる』


 解るな狐。むしろ俺は、稀に話が通じなくなるお前の方が良くないと思うぞ。

 普段が通じるだけに性質が悪い。どの時点で通じなくなるのか解り難い。

 そう考えると、基本話が通じない小人の方が気が楽かもしれん。


 ・・・いや、悪い所を見て比べるな。どっちも良くはない。


「はぁ、良いから帰るぞ。俺は腹が減った」

『兄は肉を所望します! 野菜でも良いよ!』


 それは何でも良いと言うんだ。むしろ両方食いたいんだろうがお前は。

 大体コイツ食えない物は有るのか。以前毒キノコ食ってたし。

 狐の言う事を信じるなら、普通精霊はそんなに食わないらしいが。


「あはは、うん、帰ろうか」

「そうだな、帰るか」

『帰ろ帰ろー!』

『あいよ』


 小人を見てクスクスと笑うメラネアに、そんな彼女を見て苦笑するブッズ。

 ただ小人は特に気にしておらず、狐はメラネアについて行けさえすれば良いのだろう。

 俺はそんな二人と二匹に何時もの様に溜め息を吐き、何時もの様に訓練所を去る。


 そして何時も通りブッズに送られて宿に帰り、そして何時もとは違う雰囲気で見送る。


「気を付けてな、ブッズ」

「・・・嬢ちゃんもな。死ぬなよ」

「死ぬ気は無い。俺はな。むしろそれはお前が言われるべきだろう」

「ははっ、違いねぇ・・・じゃあな」

「ああ、じゃあな」

『ばいばーい! またねー!』


 そうして背を向け去って行くブッズを見送り、だが見えなくなる前に宿に入る。

 何時までも背中を見送る様な情緒は流石に無い。後外は顔が寒い。

 幾ら防寒具を着ていると言っても、表面の出てる所は寒いんだ。


 今は新しい防寒具だが、それでも目元周りはどうしても隠せない。


「おや、二人共お帰り。今日はちょっと遅かったね」


 俺が入るとメラネアも入り、何時も通り女将がカウンターに居る。


「女将、伝えておく事がある」

「ん、何だい?」

「俺は明日山へ向かう。暫く戻らない。もし暖かくなるまでに戻って来なければ、その時は死んだと思ってくれて良い」

『いってきまーす!』

「あいよ、了解」

「え、そ、そんな、あっさり、頷くんですか!?」


 俺の言葉に女将は当然驚かず、むしろメラネアが驚いた様子を見せた。

 女将はそんな彼女に苦笑を向け、仕方ないなぁと言いたげな態度で口を開く。


「いやだって、この話二回目だしねぇ」

「そうだな」

「え、な、何で!?」

「俺が雪山から逃げ帰った話を忘れたのかお前は」

「え、あ、ああぁー・・・いや、だとしても、寂しく、ない、かな・・・」


 寂しい。それはきっと真面な感性なのだろう。メラネアが一番正しいのだろう。

 だが俺はそもそも死ぬ気は無いし、女将も慣れてしまった事だ。

 宿から突然人が消える。辺境には良くある話なのだから。


「ミクちゃんなら帰って来るだろ。メラネアちゃんもそう思わないかい?」

「え、あ、まあ、その・・・そうですね」

「何故納得したのか解らんが、そうだな、帰って来る気はあるぞ」


 何故二人に苦笑いを向けられているのか。少々納得がいかない。


『兄が付いているから大丈夫だしね!』


 ・・・肯定したくないが否定し難いのが心の底から嫌だな。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ