第150話、話しを付ける相手
「代り映えしないな」
『つまんなーい』
「そりゃ予備なんだから、出来るだけ似た様な物を用意するだろうよ」
「あ、あはは・・・」
スラムを出てブッズの宿に一度向かい、着替えるのを待っていた。
出てきた姿は特に変わり映えが無く、それで当然だろうと返された。
まあ確かに当然と言えば当然か。しかし予備か。俺も用意しておくべきかな。
「むしろ嬢ちゃん達は着替えなくて良いのか。二人が狩りに出る人間って事は知られてるが、血が付いた服のままよりは着替えた方が良いと思うが」
『着替えるー?』
「ふむ」
言われて自分の服を見ると、べったりではないが少々血が付いている。
ブッズの治療の際に付いたのだろう。とはいえ袖口だけだが。
循環の際に直接手を触れた方がやり易いと思い、手袋は外していたので。
「メラネアも結構ついているな」
「あ、あはは、色々やったから、ね」
むしろ俺よりも、メラネアの方が赤黒い斑点が沢山付いている。
手足をねじって戻してとやっていたから、飛び散り方が違うだろう。
とはいえまあ、このぐらいなら柄だと言い張る事も、出来なくはないか?
いや無理か。まあ俺とメラネアの立場なら、これぐらいの汚れ問題無いか。
魔獣を狩る事がある以上、血なんてついて当然だし、今まで偶然つかなかっただけだ。
等と確認している俺達の様子を宿屋の親父がボケーッと見ており、おもむろに口を開いた。
「しっかし、服を駄目にして帰って来るとか、一体どこで何やってたんだかね。まさか不倫でもして刺されて素っ裸のまま追い出されたかぁ?」
「なんて事言いやがるこの親父は!?」
「いやぁ、小さな子にもモテてっけど、手を出すのは不味いと思うぜ?」
「更に畳みかけて来んな! 出さねえよ馬鹿野郎!!」
何かあったのだと察しつつも、確信は突かずに茶化す親父。
俺は何も聞きはしない、という意思表示なのだろう。
「まあ、ブッズが子供趣味な事は置いておいてだ」
『何だと・・・! 妹に手は出させんぞー!』
「置くな! 止めて! 俺そんな趣味ないから! 本当に違うからな!」
「ブ、ブッズさん、大丈夫、です。信じてます、から」
『あっはっは、余計な言葉過ぎる』
「この状況で態々言われると不安しかねぇ! それ本当に信じてる!?」
ああもう騒がしいな。手を出さん事など知っている。
子供には甘くて優しい奴が、子供を泣かす真似する訳がないだろう。
「ほら、良いから行くぞ」
「ホントだからな? 俺そういう趣味ないからな? 俺の趣味はもっとこうお姉さんが」
「解った解った。と言うか子供相手に何を言っているんだお前は」
「・・・そうっすね」
正気に戻ったブッズは静かになり、悲しげな顔をしながら俺の後ろをついて来る。
メラネアは苦笑いしながら彼の背をポンポンと叩き、それは慰めでは無く止めだと思った。
更に悲し気になったブッズの頭に小人が乗り、狐が愉快気にゲラゲラ笑っている。
「あ、あれ、ブッズさん、その、気を、おとさずに、と思って、ね?」
「・・・うん」
もう止めてやれメラネア。慰めれば慰める程惨めだから。
その後はオロオロするメラネアと、意気消沈のブッズを連れて暫く。
流石に長々と歩けば二人も気を取り直し、目的地手前では何時も通りだった。
「・・・用って、あそこにか、嬢ちゃん」
「えと、領主館、だよね、あそこって」
「そうだ。領主館に用が有る。正確には領主に用が、だな」
今回の騒動で騎士と相対したが、結局完全な敵対とはいかなかった。
正直に言ってしまえばあの時の俺は余裕が無く、話を聞く気など欠片も無かった。
なので余計に敵意をむき出しにしていたが、その報告を聞いた領主はどう思っているか。
「騎士と揉めた件を、さっくり終わらせておきたい。今後の為にもな」
「え、嬢ちゃんまた騎士と揉めたのか?」
「あ、あはは、その、ブッズさん探す時に、ちょっと、ね」
「そういう事だ。ほら行くぞ」
「お、おう・・・」
領主との約束や、あの男への敬意が無ければ、来るつもりは無かった。
それにメラネアの件もある以上・・・やはり放置は出来ないだろう。
「こ、これは、ミク殿。何用でしょうか」
「領主に用が有る。繋げるか」
「しょ、少々お待ち下さい!」
門番の一人が慌てて走って行き、すぐに屋敷から使用人が現れた。
何時もの使用人ではないが、恐らく俺達の事は解っているのだろう。
門の中に招き入れ、屋敷に通してそのまま客間まで通された。
「領主様には既に連絡を入れておりますので、少々お待ち下さい」
茶と菓子を手早く用意され、頭を下げて部屋の端へ下がる使用人。
言われた通り茶を飲みつつ暫く待つと、ほどなくしてノックの音が響いた。
使用人が扉を開き、現れたのはこの館の主人。砦の主人と言う方が正しいか?
等とどうでも良い事を考えている間に、領主は俺達の正面に座った。
「ようこそミク殿。話は本人達から直接聞き取りをした。故に事情は理解して居るつもりだ」
「そうか、ならば単刀直入に聞こうか。俺を処分するつもりは有るのか」
長々と話して拗れるのも面倒だ。とりあえず結論を先に聞いておこう。




