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第149話、茶の味

 コンコンとノックの音が響き、少し遅れて扉が開かれた。

 現れたのは頭と呼ばれた男で、盆を片手に笑顔で入って来る。


「失礼しまさ。お口に合えば良いんですが」


 そう言って盆をテーブルに置き、カップを人数分置いて行く。

 ブッズが戻っていないので、誰も居ない位置に一つ置かれているが。

 ただ気になる事が有るとすれば、盆に一口サイズのカップが大量にある事か。


「いやぁ、どれを出そうか悩んだんですがね、どうせなら今出せる物全部出しちまえと思って。お嬢のお口に合う物が在れば、それをしっかり入れ直してきますんで」


 俺とブッズは普通の物が一つだが、メラネアの前に在るのは小さなカップ。

 盆に在る小さなカップは、つまり全てメラネア用という事だろう。

 それはきっと持て成しの心なのだろうが、当の本人は困惑気味だ。


「あ、あり、がとう、ござい、ます・・・」

「いえいえ、お口に合う物が一つでもあればいいんですが」


 メラネアは純粋な好意を断れず、若干困った気配をみせつつも礼を口にした。

 男はその返答に気分を良くしたのか、とてもご機嫌に笑って応えている。


 そんな受け答えを無視して茶に口を付けると、成程趣味というだけあると思った。

 俺にはそんなに詳しい知識も繊細な舌も無いが、領主館で飲んだ茶と遜色無いと。


『おいしー!』


 そしてブッズが居ないからだろうが、自分の分だと思った小人が茶を飲んでいる。

 どうやらこいつの口にも合ったらしく、そしてその様子を頭の男は見ていた。

 目を見開いて暫く見つめ、それから視線を俺へと向ける。


「・・・あの、カップが勝手に動いてるんですが、何かご存じで?」

「俺が精霊付きだという事は、知っているんじゃなかったのか」

「精霊って、茶を飲むんですかい!?」


 こいつが飲み食い出来る情報までは知らなかったのか。

 となると領主から情報が洩れている、という線は無さそうだな。

 もし情報源が領主筋なら、精霊の特性も聞いているはずだ。


「メラネアの精霊は飲まないが、こいつは飲むぞ」

『飲むよー!』

『俺は水で良い』

「あ、えっと、ニルスには、お水を貰えると、嬉しい、です」

「っ、こいつぁ気が利かずにすみません! すぐ持ってきます!」


 男はバッと席を立つと、慌ただしく部屋を出て行った。

 それと入れ違いにブッズが戻って来て、怪訝そうな顔を俺に向ける。


「また何かやったのかい、嬢ちゃん」

「おい、何でそこ俺に聞く」

「いやだって、大体何か起きる時は嬢ちゃんが要因じゃねえか」

「・・・否定は出来んが、今回は俺じゃない」


 不満な目を向けるも、ブッズはククッと笑ってから俺の隣に座る。

 そしてからのカップを見て首を傾げ、更に大量の小型カップで更に傾げる。


「マジで何やってたの?」

「メラネアに茶を飲ませようとしていた」

「そ、それは、あ、あってるけど、何か、違う様な・・・」


 俺も少し間違っていると思うが、説明するのが面倒だった。

 それに大体合ってるだろうし、詳しく説明する程でも無い。


「しかしお前、服のサイズが無いのに、良く靴があったな」

「いや、正直この靴もきつい。足が痛ぇ。でも帰るまでの我慢と思ってな。素足のまま帰るよりはマシと思うしかねえさ」

「替えの靴や服は有るのか?」

「宿に帰れば有るぜ。俺はこの通りの図体だからな、予備は用意しておかねえといざという時に困るんだよ。駄目になったからって合う服が古着屋で手に入るとは限らねえしさ」


 予備が有るのであれば、とりあえず帰ってしまえば問題は無いか。

 しかし宿か。こいつは俺達と違う宿で、だからこそ今回の様な事が起こった。

 だが宿その物が危険というよりも、宿への帰り道での危険か。


 とはいえ訓練の無い日は別行動な事を考えると、結局万全の対策は無理だな。


「・・・ブッズ、今回の事をお前がどう思っているかは解っている。だが俺の傍に居れば今後も似た様な事が起きるのは間違いない。それは解ってるよな」

「最初から解ってるよ。だからまあ、死ぬ気は無いが、死んだらその時だと思ってる」

「・・・本当に良いのか、それでお前は」


 万全の対策は無い。それこそ四六時中一緒に居る事ぐらいしか方法は無い。

 だが俺もメラネアもブッズも、常に一緒に居る訳じゃ無い。

 それぞれの都合があり、それぞれの目的で動く時がある。


「良いって言ったろ。前にも、さっきも。嬢ちゃんが迷惑だから二度と関わるな、とでも言わねえ限りはな。その時は残念だが、素直に諦めて嬢ちゃんから離れるさ」

「・・・馬鹿に付ける薬はないな、全く」


 あれだけの目に遭って尚、死ぬ覚悟は出来ていると答えるか。

 いや、こいつは覚悟だけは、最初から出来ていたのかもしれない。

 俺が助ける前から。雪に埋もれるよりも、もっともっと前から。


 だからその覚悟の基準が、少しだけ変わった。ただそれだけなんだろう。


「ならこの後行くところがある。付いて来い」

「お、おう。解った」

『どこいくのー?』


 決まっている。まだ話が付いていない奴の所だ。


「お待たせいたしやした。兄さんの分の茶も持って来やしたぜ。それとこれはお嬢の精霊様用の水です。何に入れるか迷ったんですが、多い方が良いかと大きめの物にしときやした」

「あ、ありがとう、ござい、ます・・・」

『いや、こんなに要らねえ。つーか水も、出すなら水で良いってだけなんだが。まあ良いか』


 ・・・とりあえず茶を飲んでからで良いか。若干気が抜けるなコイツ。

 とりあえずメラネアは半分ほどは飲んで、残りはまた後日にでもという話になった。

 後日来るかどうかも解らんし、むしろ来ない可能性の方が高いと思うがな。


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