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第148話、アジト

 アジトに入ると玄関・・・では無く突然部屋の類だった。

 何かしらの事務所の様な作りだな。チンピラが座っているのも含めて。

 チンピラ共は俺達に気が付き、一人が笑顔で寄って来た。


「頭お帰りなさい。そちらの方はお客さんで?」

「そうだ。俺は茶を用意してくるから、案内を任せる。ああ、そこの兄さんの着替えも、何でも良いから出してくれ。靴もな。失礼をすんじゃねえぞ」

「頭のお客人に下手な事しませんよ」


 頭の男は自ら茶を用意すると言い、奥に二つある扉の片方へ消えて行った。

 茶が趣味と言っていたが、本当に趣味だったのか。

 俺達を誘う為の口実だと思っていたが、本当に美味い茶が出てきそうだな。


「お嬢さん方、お兄さんも、こちらへどうぞ。そこに突っ立ってちゃ寒いでしょう」


 案内を支持されたチンピラは笑顔でもう一つの扉を開け、奥へ入るように促す。

 特に逆らう理由も無いので案内について行き、少し歩いた先の部屋に入る。


「すぐ火を入れますんで、最初は寒いかもしれないですけど、勘弁してくださいねー。あ、好きなとこ座って下さい。そっちの兄さんも気にせずどうぞ」


 部屋に入ると暖炉・・・というよりも、薪ストーブのという方が正しいだろうか。

 蓋が付いており、煙を流す配管が壁に埋まっている。それに男が火を入れ始めた。


「これ暖かいんすけど、暖まるまで時間がかかるのが難点なんすよねー」


 配管が直で壁では無く、部屋が温まるよう配管が上に伸び横にも曲げられている。

 この世界の文明の程度を考えると、かなり金がかかっている暖房な気がするな。

 そもそも料理に使わない火の場、という時点で贅沢な話ではあるんだが。


 暖房の原点は、大体厨房と両立されていて、段々と別になって行く事が多い。

 だがそう言えば、俺が泊まっている宿も厨房と別で暖炉があるな。

 となると特別珍しいものでは無い、と思った方が良いのだろうか。


 勿論富裕層に限った話で、多少金が有る程度じゃ無理だろうが。

 共同の厨房のような処も見かけたし、自宅に厨房の無い住宅街も有るはずだ。


「兄貴ー、着替えってこれで良いっすかねー。大きいの持って来たつもりなんすけど」

「おう、これ以上でかいのは無えんだろ?」

「そうっすね。これが一番大きいっす」

「なら仕方ねえよ。すまねえ兄さん、これ以上でかいのは無えんで、我慢させて申し訳ねえんですが、これを着てくだせぇ」


 下っ端らしき男が持ってきた服を、案内の男が受け取ってブッズに渡す。

 それは確かに大きい服ではあったが、ブッズには少し小さく見えた。


「いや、助かる。流石にこれ着てるぐらいなら、少し小さい服でもそっちのが良い」

「そう言ってくれるとこっちも助かりやす。ええと、着替えは隣でどうぞ。お嬢さんたちの前では不味いでしょうや」

「そうだな、じゃあ―――――」

「俺は別にここで着替えても気にせんぞ」

「わ、私も、大丈夫、です」


 ブッズが腰を上げた所で告げると、一瞬時間が止まった気がした。

 が、すぐにブッズは中腰から動き出し、頭をぼりぼりかきながら俺に目を向ける。


「俺が気になるから向こうで着替えて来るよ」

「そうか、好きにしろ」

「い、いって、らっしゃい」


 溜め息を吐きながら下っ端と一緒に出て行ったが、何を気にする事が有るだろうか。

 子供に見られる程度の事、大した事じゃないと思うが。俺も気にしないしな。

 メラネアとて恥じらう様な様子は・・・いや、どうなんだろうな、解らん。


 中身はいい歳な事を考えると、相応に恥じらいなどもあるんだろうか。

 今はどもり気味の様子に戻っているから、どちらにせよ区別がつかないが。


「んじゃあ、俺もこの辺りで失礼します。すぐに頭が来ると思うんで、ごゆっくりどうぞ」


 案内の男も軽く頭を下げると、部屋を出て行ってしまった。

 残ったのは俺とメラネア、それといつの間にか彼女の膝の上の狐。


『びっくりした! 妹がいつの間にか消えてた!』


 それと今出て来た小人だけだ。いつの間にも何もお前が勝手に遊び始めたんだろうが。

 俺は何時も通り胸元から現れた小人を握り、眼の前のテーブルに置いた。

 そっと優しく置いた俺の行動に、小人は首を傾げて見上げていた。


「・・・今回は、間違いなくお前のおかげで助かった。礼を言う」

『どういたしまして! 兄は妹を助けるものだからね!』


 両手を上げて、それこそ礼すら要らないとばかりに、小人はそう告げた。

 自分が兄で俺が妹だから、だから助けるのは当然なのだと。

 そこに在るのは純粋な好意で、だからこそ困る所もある。


 この好意が今回とても助かったが、日常はとても邪魔だという事が。

 邪魔だと本気で思っているからこそ、今回の事は少々気まずい。


『いいんだよ、気にしなくて。兄は何時だって妹の味方だから。何があってもね!』

「・・・そうか」


 だがそんな俺の心情を読んだかの様に、小人は笑顔でそう続けた。

 本当に馬鹿らしいな全く。無駄に悩んでいた俺が一番馬鹿だ。

 解ったよ。何時も通り、今まで通りにしてやるさ、邪魔なクソ精霊が。


 お前はそれで良いんだろう。それが望みなんだろうよ。クソったれ。


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