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第147話、二人の違い

「ここがウチ等のアジトですんで、何かあればお訊ねを」


 暫く歩いた先で、まとめ役の男が手をかざしてそう言った。

 スラム街に在るにしては中々立派な建物だな。

 3階建てでコンクリートの類も使っている様に見える。


 そのせいか、ボロ屋が多いスラム街の中では随分と目立つ。

 それだけ目立っても問題無い、力のある組織という事か。


「よくあの領主が、貴様らを放置してるな」

「そりゃあ、なるべくお目こぼしして貰える様にしてますんでね。俺達が消えれば、ただでさえ問題ある人間の集まりが完全な無法地帯になるか、別組織が食い込むかと」


 確かにならず者はならず者で、独自の規則で纏まっている事が多い。

 無法地帯な事には変わりないが、独自の法がある無法地帯という訳だ。

 外の規則と違う所は、守れない事がその場で死に繋がるという辺りだろう。


「ふん、貴様らを排除した後の混乱が面倒だから、か」

「そういう事ですな」


 街が大きければ大きい程、当然住人の数も増えるのが自然だ。

 だが人が増えるという事は、禄でもない人間も同時に増える事になる。


 派遣組合という組織があったとしても、それでも規則があるからな。

 力も無いのに組合の規則すら守れない連中というのは、どう足掻いても出てきてしまう。

 そういう連中はそれこそ今回の様に、禄でも無い問題を平気で引き起こす。


 分散したそれらを全て取り締まる事は難しい。なら一か所に固めてしまった方が楽だ。

 一般人の中に混ざられるぐらいであれば、ならず者で集まってくれた方が管理しやすいとな。

 万が一規模が大きくなり過ぎたり、街に大損害を成す存在になった時は叩き潰せば良い。


 恐らく領主はそれぐらいの感覚で、この男はそう思い続けて貰えるように気を付けている。

 騎士や兵士を動員して排除に乗り出し損害が出るよりは、今の方が利が有ると思う様に。


「これで商売に協力して頂ければ、言う事無しなんですがねぇ」

「あの領主が貴様らと組むとは思えんな」

「同意見でさ」


 ちらりと、壁を見る。この街を覆う大きな壁、砦の壁を。

 俺の視線の意味を理解しているのか、男も頷きながら答えた。


 恐らくこの街のスラム街は、出来て『しまった』スラム街ではないんだろうな。

 本来はスラム街など無い方が良い。治安の面でも経済面でもだ。

 だが意図的にスラム街を作る事により、問題を一か所にわざと集めている。


 何せスラム街も結局は、砦の壁の中の街だ。あの壁は中に通路が存在する。

 本当に管理出来ていないなら、スラムは砦まで食い込むだろう。

 それが無いという事は監視の目があり、こいつらもそれを理解してここに居る。


 当然何も解ってない馬鹿共も集まる以上、制御役として存在を許されているだけだ。

 もし馬鹿共が調子に乗って砦制圧に動けば・・・その時は容赦なく潰されるだろうな。


「だがその考え方なら、今回は失敗だったろう。下手をすれば騎士が乗り込んでいたぞ」

「どうでしょうかねぇ。そちらの兄さんがこの街の住民として定着している人間では無く、組合証をお持ちのよそ者という事は存じてやすんで」

「・・・街に定着していない組合員が突然消えても、碌な捜査などしないという事か」

「そういう事ですな。特に辺境では、きりがありやせんで。明確に犯罪が目の当たりにされない限りは、衛兵もそうそう動きはしません。これがもし街の子供だったら、どうなってたか解りやせんがね。ま、流石にその場合は連中を抑えて、衛兵に突き出しておりやしたが」


 コイツの事が騒ぎになってなかったという事は、目撃者はいなかったか。

 居たとしても周辺で聞き込みでもして、一般人の被害は無い確認が取れたら。

 ならそこで捜査は打ち切られ、よそ者が一人街から消えて終わる訳だ。


 非道にも見えるかもしれんが、致し方ない話ではあるだろう。

 何故なら組合員は、税金を街に納めている存在ではない。

 税金を納めているのはあくまで組合だ。組合員はその部品の様な存在だ。


 組合としては部品の紛失は困るが、領主にとっては何の痛手も無い。

 勿論先ほど言った通り、大損害レベルの異常事態ならば動くだろう。

 だが組合員が一人二人消える事は、良くある話で済ませられてしまう。


 魔獣に殺されて死ぬか、喧嘩で死ぬか、何らかの理由で街から逃げ出すかとな。


「帰り道を途中までご一緒にと先程は言いやしたが、どうです、お茶でも」

「貴様の所で茶が楽しめるとは思えんがな」

「ですがそちらのお兄さん、その恰好では目立つでしょう。服が血まみれですぜ?」


 その言葉で俺もメラネアもブッズを見て、本人も自分の姿を改めて見る。

 当然ながら服は血まみれで、その前にズタズタだ。

 明らかに何かありました、という風体で街を歩く事になる。


 そもそも靴も無いし、このままでは寒いだろうな。


「・・・ちっ、解った、邪魔をする」

「はいどうぞ。因みに茶は俺の趣味でしてね、良い茶葉がありやすよ。お嬢の口に合うと良いんですけど・・・ああ、お嬢の好みの味など有れば、お教えいただけませんか?」

「え、あ、わ、わたしは、あんまり、良く、しらなくて・・・」

「おや、ではお嬢の為に、幾つか小分けにして入れましょう」

「あ、ありがとう、ございます・・・」


 これは計算か、それとも本当に恩義からの行動か、今はまだ分からんな。

 現状この三人の中では、メラネアが制御役になっている事は理解してそうだが。

 とはいえ残念ながら彼女は人が良いだけで、意外と根っこの判断は俺より冷徹だぞ。


 何せあの惨状に特に動じていないし、殺した事に忌避感も見せてないしな。


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