第146話、真相
「とりあえず話が纏まった以上、ここに居る理由も無い。俺は帰る」
「では道案内を付けやすよ。アンタ様の方向音痴は存じてますんで」
「晴れてれば迷わん」
「今は雪が降っておりやすが?」
『わーい!』『雪丸めるぞー!』『今日も雪投げだー!』『肉よりこっちの方が良いよね!』
言われて外に目を向けると、しっかりと曇って雪が降っていた。
さっきまでそこそこ晴れていたはずだ。本当に天気が変わり易いなここは。
というか途中から小人が静かだと思ったら、外で雪玉丸めてやがった。
「・・・案内を頼む」
「お任せを。おい、掃除を頼んだぞ」
「「「「「へいっ」」」」」
男が指示を出すと、部下連中は元気よく答えて散開して行った。
この肉片を片付ける為の道具でも取りに行ったか。
その場に残ったのは、最初に動じていなかった数人の男達。
「では行きましょうか」
「頭自ら案内をしてくれるのか?」
「いえ、帰り道ですんで、途中まではご一緒にと」
「そうかい」
兎に角何でも良い。とっととスラムから出て宿に帰りたい。
まだ半日も経ってないと言うのに、随分と疲れた気がする。
いや、気のせいじゃないな。若干の脱力感がある。
恐らく循環の影響だろう。少々力を込めてやり過ぎた。
自然に流せる以上の魔力を使う訓練が仇になったか。
だが無意識で使えたという事は、成長はしているという事だろう。
とはいえ無意識に披露しているようでは、使いこなせているとは言い難いが。
「そうだ、自己紹介をさせて下さい。俺の名はレグツァ。以後お見知りおきを、お嬢」
「え、は、はい。レグツァさん、ですね」
「敬称など要りやせんよ。レグツァ、と呼び捨てで結構です」
「え、は、はいぃ・・・」
何だコイツ。ぐいぐい来るな。メラネアが引いてるじゃないか。
俺の背後に隠れ、面積が不安だったのかブッズの背後に隠れ直した。
ブッズは苦笑しつつも、メラネアが隠れやすい様に位置を変える。
ただ狐はそんな様子を見ても、愉快気に笑っているだけだ。
コイツもこいつで、やはり感性が良く解らんな。
メラネアは嫌がってるはずだが、これは別に良いのか?
「これは失礼しました。お嬢は控えめな方の様で。ただもし何か困った事が有れば、気軽に俺の名を出してお尋ね下さい。お嬢が来た時は絶対に通す様に伝えておきますんで」
「は、はい・・・」
「勿論アンタ様も通す様に伝えておきやす。でないと何人死ぬか解りやせんしね」
「そうしておけ」
俺とメラネアで露骨に態度が違うが、別に舐めている訳では無いだろう。
警戒して下手な対処が出来ない相手と、命を救われた相手の差だ。
俺としてはどうでも良い話なので、適当に流しておく。
どうせ通して貰えなかったとしても、ぶん殴って押し通るだけだ。
その際に怪我人が出ようが知った事か。通達してないこいつが悪い。
「所でブッズ、お前は誰に何故攫われたのかは解っているのか?」
「ん? アイツ等だよ。ちょっと前に嬢ちゃんに絡んで殴り飛ばされた連中だ。組合に訴えても衛兵に訴えても動かねえってんで、逆恨みしてたみてえだな。自分から喧嘩売ったくせによ」
「・・・予想通りだったか」
組合では警告がされているというのに、態々俺に絡んできた馬鹿共。
そして支部長が「面倒」と言う程に、物が見えていない連中だった。
人を殴る事は良くても、殴られたら被害者面する連中だからな。
当然組合も衛兵も話を聞く気など無く、誰にも相手にされなかっただろうさ。
「嬢ちゃんに喧嘩売れば二の舞なのは理解してたらしくて、魚の糞みたいについて回ってる俺を襲ったんだと。まあ俺自身も妬まれてたっつか、昨日のが止めだったみたいだな」
「昨日?」
「ほら、分け前貰ったろ。実力が無いのに嬢ちゃんにおんぶにだっこで儲けてる。そんな野郎が気に食わなかったんだとよ。だからって嬢ちゃんに頭下げる気は無かったらしいがな」
「あの時点で付けられていたという事か?」
「いや、何か後で偶々知って、俺を見つけた時も衝動的っぽかった。連中の言ってる事が合ってるならだけどな。少なくとも嬢ちゃんの後を付けてた訳じゃ無いらしい」
じゃあ何か。昨日の換金を偶々知って、そして一人になった所で偶然遭遇。
そのまま怒りに任せてブッズを襲い、スラムまで運んで拷問をしたと。
無茶苦茶だな。だからこそ足取りを掴むのが面倒だったんだが。
「嬢ちゃん達を宿に送り届けた後、のんびり帰ってる途中で頭をガツーンとやられた。油断してた俺が悪いっちゃ悪いんだが・・・気が付いたらもうここに居て縛られてたよ」
「よくその一撃で死なずに済んだな」
「俺もそう思う。んで幸か不幸かわかんねーけど、後はあの通りだ。ただの腹いせだな。子供にこき使われる情けない野郎とか言われたけど、そんな子供に殴られて周囲に助けを求める奴は情けなくねえのか、って煽ったらまー酷い酷い。眼を血走らせて怒鳴りながらボコボコだよ」
その状況で煽るこいつもこいつだが、どちらにせよ結果は変わらなかったか。
あそこまでやる連中だ。煽られなくとも行きつくところまで行きつくだろうよ。
そしてこれはやはり、結局は俺の行動のとばっちりだな。
「・・・そうか。悪かったな、俺のせいで」
「なーに言ってんだよ。悪いのは連中だろうが。嬢ちゃんに何の落ち度があるよ」
すっと出てきた謝罪だった。意識をせずに出た言葉だった。
だがブッズはそんな俺の頭を撫で、気にするなと何時も通り告げる。
「おれも一歩間違えばああなってた。だから、やっぱり感謝しかねえよ」
「・・・馬鹿が。お前は本当に大馬鹿だ」
「ははっ、知ってる」
からからと笑うブッズに対し、それ以上かける言葉は浮かばなかった。




