第142話、真相に至る存在か
「助かった、メラネア」
「う、ううん、私も、助けたかったし。気にしないで」
ホッと息を吐いて循環を切ると、彼女も普段通りの雰囲気に戻った。
それが尚の事俺の心を安堵させて・・・少し困った表情の男に目を向ける。
「起き上がれそうか?」
「・・・うごけ、そうだな・・・すげえな、あれだけ大怪我だったのに」
「感謝ならメラネアにしておけ。俺一人ならねじ曲がったままくっついていた」
手を足を動かして確認をするブッズは、自分の体が無事な事に心底驚いている。
だがそれもこれもメラネアの成果だ。俺一人じゃ今頃曲がったままだろうよ。
後は目や耳にそこまで傷が無かったのも幸いか。鼻は折れていたがな。
苦しめる為に後回しにしていた、という線は大きいだろうが、それでも良かった。
「うげっ、それはそれで助かったんだろうけど恐ろしいな・・・ありがとうな、メラネア」
「い、いえ、でも私じゃ、怪我の治療は、間に合いませんし。み、ミクちゃんのおかげですよ」
「んじゃ、二人共のおかげだな・・・ありがとう、本当に助かった」
ブッズは俺とメラネア、二人に向かって頭を下げる。
それを否定する理由も無いし、俺も彼女も苦笑しながら頷いた。
顔を上げたブッズは俺達を見てから笑みを見せ、ただ周囲を見回して眉を寄せる。
「所で、さっきから気にはなってたんだが・・・これってもしかして、嬢ちゃん達が?」
「周辺に転がっている肉塊の事なら俺は知らんぞ」
「わ、私達が、来た時は、もうこの状態、だったよね」
ブッズと同じ様に周囲を改めて見回すと、当然ながら先程確認した肉塊がある。
5,6人分は有ろう肉と臓物、そして飛び散った血の跡。
どんな衝撃を受ければこうなるのか、という疑問を持つ惨状だ。
「むしろお前は覚えていないのか」
「最後の方は意識が朦朧として、苦しいとか痛いのは解っても、周囲を見る余裕とか無くて」
「・・・そうか、そうだな。無茶を言った」
あれだけの拷問を受けていたんだ。打撲痕も多数見られ、切り傷からの出血も多かった。
今でこそ傷は殆ど無いが、あの傷を見ればどれだけの暴行を受けたか解る。
となれば意識が混濁していてもおかしくない。むしろ脳が少し心配だ。
循環で全力の治療をしたから大丈夫だとは思うが・・・それは経過を見るしかないな。
「じゃあ、一体誰がこいつらを殺したのか・・・」
『これやったの僕だよ?』『兄がやったのです!』『プンプンだったからえいって!』『こいつらのせいで妹が泣きそうだったもん』『ブッズの目、ぶすーってされる所だったよー?』
そこで何故か静かだった小人達が突然喋り出し、即座に原因が判明した。
思わず俺もメラネアも小人達を見つめると、全員コテンと不思議そうに首を傾げる。
『どうしたのー?』『妹嬉しくない?』『ブッズ助かったよ?』『待ってた方が良かったー?』『でも兄も腹が立ってたんだもん』『こいつらのせいで妹に怒鳴られた!』
すると精霊達は怒りをぶり返したかの様に、そーだそーだと言って肉を投げる。
怒りの理由は俺に怒鳴られたからで、俺が焦っていたからという事らしい。
泣きそうになった覚えはないが・・・話を聞くに目はギリギリだったか。
「なあ、肉が突然飛び散り始めてすげー怖いんだけど・・・精霊が何かやってる?」
「そうか、お前視点だとそうなるな」
「あ、あはは、ヴァイド君が見えてても、ちょっとどうかとは思うけど、ね」
突然の惨状の追加にブッズは困惑し、俺とメラネアは苦笑するしかない。
本当なら止めるべきかもしれないが、今回ばかりは止めにくい。
「お前を助けてくれたのは今暴れてる精霊だ。ついでに言えば、お前が雪の中に埋もれてるのを助けたのも、元はと言えばアイツだぞ」
「え、そうだったのか。そりゃあ・・・礼を言いたいが、見えないのが困るな・・・」
「ここに一体居るぞ」
『いるぞー!』
胸元に残ったままの一体を握り、ブッズの前に差し出す。
当然ながら彼の目は精霊に、というよりも俺の手に向いている。
「そっか、ええと、ありがとうございます。おかげで生きてます」
『うむ、苦しゅうない! よきにからかえ!』
お前はどこの王侯貴族だ。
「嬢ちゃん、これちゃんと伝わってるか?」
「問題無い。伝わっている」
『ちゃんと聞いてるぞー?』
「そうか、良かった。ほら嬢ちゃんが時々言ってただろ、話が通じねえって」
『ちゃんと通じるよー?』
ああ、それでか。確かに何度も言っていたから、見えないと不安になるだろうな。
とはいえ通じないのは会話であって、言葉そのものは問題無いが。
「さて、何時までもこんな所に居ても仕方ない。立てるか?」
「どれ・・・問題無く立てるな。いや本当にすげえな、足ぐちゃぐちゃだったのに」
足が壊された事は覚えているらしく、歩ける事に感動しているブッズ。
確かにあれだけの損傷であれば、直った事に驚きもするか。
「あ、そういや俺の剣は――――――」
そこでブッズの言葉は途切れ、視線が出入口の方へと向かう。
少々警戒を滲ませている様子だが、俺とメラネアはそうでもない。
元から誰かが近づいてきている事には気がついていたからな。
この肉片共の仲間か。もしそうなら俺の腹いせに付き合って貰うぞ。




