第136話、ブッズの行方
「どう思う?」
「ど、どう、かな・・・まだ、解らない、かな」
食事を終えた段階で、何時もなら食事中に現れる男が居ない。
同じ様な日々を過ごしていただけに、違う状況を異変に感じる。
となればその異変は異常事態かと思った訳だが、確かに現状は何も解らない。
だが彼女の顔にはありありと、不安と心配の表情が浮かんでいる。
「ブ、ブッズさんの宿に、行ってみる? 寝てるだけかも、しれないし」
「その可能性も無くない、が・・・奴の宿を知っているか?」
「・・・し、しらない、ね」
「俺も知らん」
そこそこの付き合いになったが、俺もメラネアも奴の宿には行ってない。
用が無いのだから仕方ない訳だが、それでも確認しておくべきだったな。
アイツの身が危ない事は解っていたのだし、脇が甘かったと言うしかない。
先ずこれが誰の行動かも解らんが・・・人質なら恐らく生きているだろう。
だが人質に取られたのであれば、俺達に何の接触も無いのが不可解だ。
『とりあえず組合に確認しに行っちゃどうだい。無い気はするが、先に行ってる可能性もある。もし居ないならいないで、受付にアイツの泊まってる宿を知らないか聞いて見たらどうだ』
「・・・そうだな」
人間二人よりも、精霊の方が冷静で的確な意見を口にした。
その事に少し悔しい想いを感じつつも、異論も無いので宿を出る。
移動の間はどちらも口を開かず、無言がやけに重苦しい。
そうして組合に辿り着き、先ずは訓練所へと向かう。
「・・・居ないな」
「いないね」
『いねぇなぁ』
相変らずそこそこ人の居る訓練所だが、そこにブッズの姿は無い。
やはり先に組合に来た、という事は無さそうだ。
そもそもアイツの性格上、別行動の場合先に断りを入れに来るはずだしな。
「受付に行くか」
「う、うん」
『すっげえ並んでたけど、待つのか?』
確かに先程チラッと見た限り、朝なので中々人が並んでいた。
寒い時期は仕事をする人間が減ると言っても、それは減るだけだ。
どれだけ寒くても仕事をする人間は要るし、そもそも街中の仕事はある。
となれば朝はどう足掻いたって、受付に並ぶ必要が出て来るだろう。
「待たん」
「え、み、ミクちゃん?」
『何する気かね』
だが俺は悠長に並ぶ気は無い。
組合の正面入り口側に戻り、人の山を飛び越えた。
「うを!?」
「な、なんだ!?」
「ありゃ、あの嬢ちゃんか」
「今日は一体何するんだ」
組合員が騒ぐ中受付の中に降り、そのまま奥の扉に手をかける。
そこで何時もの受付嬢が慌てて立ち上がり、俺の元へと走って来た。
「ミクさん!? ちょ、ちょっと待って下さい、何してるんですか!?」
「支部長は奥だろう。受付は忙しい様だから勝手に入る」
「た、確かに忙しいですけど、勝手に行かれるのは困ります!」
「別に組合の何かしらに触れるつもりは無い。用が有るのは支部長だけだ」
「それでもです!」
「なら、あの列はどうする。待たせるのか。それとも俺を待たせるのか。言っておくが俺は待つ気が一切無いぞ」
「う・・・!」
受付には列が当然あり、俺に構っている事で今も消化出来ていない。
そしてここで俺を優先するという事は、並んでいた連中を蔑ろにする事になる。
受付嬢は少しだけ悩むように視線を往復させ、けれどすぐに諦めの溜め息を吐いた。
「はぁ・・・支部長は上に行って一番奥に居ます。くれぐれも、くれぐれも、そこ以外には入らないで下さいね。お願いしますよ、ミクさん」
「解った」
受付嬢の諦めの許可により奥の扉を開け、言われた通りの部屋へと向かう。
実際そこ以外に用はなく、一番奥の扉をノックもせずに開けた。
「だれ、ノックもせず――――――何で貴女が一人でここに来てるのよ」
「用が有るからだ」
支部長は良い椅子に座りながら、書類を手に嫌そうな顔を俺へ向ける。
だが彼女の感情など無視して歩を進め、机を挟んだ所で足を止めた。
何時もなら多少は無駄口に付き合うが、今日は一切付き合う気が無い。
「ブッズが居ない。奴の宿が解れば教えて欲しい」
「何であれだけの付き合いがあって知らないのよ・・・組合としては知っていても組合員の個人情報は教えられないわ、と本来なら言う所だけど、貴女の場合は事情が事情だからそうも言ってられないわね。ちょっと待ってなさい、調べて来るわ」
支部長が部屋から出て行き、言われた通り大人しく待つ。
するとあまり待つ事無く彼女は戻って来て、一つの紙を手にしていた。
「はい、軽く地図を書いておいたわ。解るわよね?」
「・・・ああ、これなら解る」
ブッズが利用しているのであろう宿。そこまでの道行きが書いていある。
これなら迷う事無く辿り着けるだろう。ただ場所を教えて貰うよりもずいぶん助かる。
「助かった。感謝する、支部長殿」
支部長に深々と頭を下げ、顔を上げるとやけに呆けた顔を見せた。
「え、ええ・・・随分と殊勝な態度ね、貴女にしては珍しい」
「礼儀も無く押し入って迷惑をかけた自覚はある。それにしっかりと対応してくれたんだ。礼は当然の行動だろう。今は急ぐから何も出来んが、これは借りだと思っておく」
「ふふっ、それは良い事を聞いたわ。大事に抱えておかないとね」
「ではな」
「ええ、気を付けてね」
支部長の言葉に背を向け、下に降りて組合の受付へと戻る。
そこには当然受付嬢が居り、俺が戻って来た事に気が付いた。
「すまない、迷惑をかけた」
「え、は、はい」
受付嬢にも謝ってから、また人の山を飛び越えてメラネアの元へ戻る。
「お、お帰り、ミクちゃん、びっくりする事、するね・・・」
『嬢ちゃんにかかっちゃ人の規則なんて意味ねえなぁ。はっは』
「俺は規則に縛られない為に悪党をやっている。なら当然の行動だろう。ブッズの宿が解った。とりあえずはそこに向かう。奴が居なくなったのが何時なのかも解るだろう」
そんな会話をしている間も足は動いており、既に組合からは出ていた。
ただ寝過ごしている、だけらならそれで良いが・・・




