第135話、命がけの報酬
「さて、これからどうするか・・・訓練をするにも半端な時間だな」
まだ夕方という時間帯ではないが、昼間という程の時間でも無い。
中途半端な時間に帰って来た事で、何をやるにも微妙な気がする。
いや、そもそも今日の外出自体が訓練なのだから、余りにする事でも無いか?
「あ、しまった。魔核を渡し忘れていた」
そこでふと、懐に入れっぱなしだった魔核の事を思い出す。
これも今の俺には不要な物だし、売り払っておけばよかった。
査定に関しては後日になるだろうが、良い値になる事は間違いない。
「あ、あれ、要らないの? てっきり、売らないと思ってたけど」
だがそんな俺の呟きに、メラネアは首を傾げる。
山へ向かう目的を話したせいだろう。
魔核を欲していて、だからこそ山へ行きたいのだと。
「この程度の魔核は要らん。せめて俺が強いと思う程度の物でなければ」
「・・・俺は死ぬかと思ったんだけどな」
「そうか。ならこれはお前にやる」
「うわっ、ちょ、適当に投げるなよ!?」
ポイッと投げつけると、ブッズは慌てて受け止めた。
一発で掴めなかったので、ワタワタと跳ねさせていたが。
そうして安堵の息を吐いた後、手の中に納まる石を見て眉を顰めた。
「解体の親父には師匠の言う事を聞いておけって言われたけどよ、これは流石に貰いすぎだろ」
「俺にとっては大した物じゃない」
「嬢ちゃんにとっちゃそうだろう。けど俺にとっちゃ大した物だ。これは俺じゃ絶対に手に入らない物だろ。それを気軽に受け取るのは、嬢ちゃんの強さを利用してるのと変わんねぇ」
「俺を利用する気なら誰がやるか馬鹿野郎」
「そ、そこまで言う・・・?」
何か勘違いしているなこの馬鹿は。俺がただ施しをする人間に見えるのか。
俺を利用しようと考える奴なら、その行動から察する事が出来る。
勿論だが俺に利点があるのであれば、利用される事もまあ良しとしよう。
だが相互利益の無い寄生に対し、この俺が甘い顔をする訳が無い。
そんな面倒な奴らはぶん殴る。容赦なくぶちのめす。
「お前が言った通り、今日の戦闘は一歩間違えれば死ぬ戦闘だったろう。それを逃げずに踏ん張り成果を出した。勿論俺達が居ない場所では逃げた方が良いだろう。死ねばそれまでだからな。だからこそ、命を懸けさせた報酬はあってしかるべきだ。たとえ訓練だろうとな」
「・・・嬢ちゃん」
確かに今日の一戦は訓練だ。だが訓練だからと、戦った報酬は別の話だ。
俺が居なければ、この男は死んでいただろう。確実に勝てなかっただろう。
だがこの男はその事を理解して居て、俺の指示に一度逆らった。
それは彼我の実力差を理解し、無謀な事をしない選択をしたという事だ。
だが俺がその選択を却下し、この男に無謀な戦闘をさせた。
なら無理をさせた分の報酬程度、有って何が問題ある。
「え、えと、じゃあ、この魔核はどうする?」
「メラネアが仕留めた分を俺達が受け取ると思うのか」
「お、思わない、かな」
「なら好きにしろ。受付に渡して売るでも、いざという時の為にとっておくでもな」
「ん・・・そっか」
俺の言葉に納得したのか、メラネアは少し魔核を見つめてから懐に仕舞った。
つまり今は保留しておく、という事だろう。魔核は何時でも売れるからな。
便利な魔道具の燃料になる魔核は、余程の田舎以外ではどこでも売れる。
それこそ国が変わっても売れる様なので、いざという時に持っておくと困らない。
という事を考えると、ブッズに直接渡したのも結果的には良かったか。
俺も念の為に魔核を確保しておくべきだろうな。手持ちは全部売ってしまっているし。
タイミングが悪かったなアレは。魔獣の情報がもう少し早ければ・・・いや駄目か。
そうなると防寒具が無かったし、厳しい戦いを強いられていたに違いない。
となれば考えても仕方ない事だろう。結果的に金が有る事を良しと思っておこう。
「さて、特に希望が無いなら俺はもう帰ろうと思うが」
「あ、えっと、私は無い、けど」
『俺もねーな。メラネアが良いならそれで良いぜ』
「じゃあもう、今日は解散で良いんじゃねえか。正直疲れた・・・」
『えー、兄はまだ遊び足りないです!!』
という訳で皆異論は無いらしい。小人の意見は最初から聞いていない。
まあメラネアはどうせ自分で訓練するだろうし、ブッズは本気で疲れてるだろうしな。
訓練で俺とメラネアに扱かれるのとは違い、死と隣り合わせの戦闘は疲労が大きいだろう。
「では帰るか」
「う、うん」
『今日も平和な一日だったなぁ』
「宿まで送るぜ」
『妹よ! 兄の意見聞いて!!』
そうして小人を無視して宿に帰り、夕食を取ったらぐっすり寝た。
翌朝は何時も通り一人で起き、走り込みから帰って来たメラネアと挨拶を交わす。
頭もしっかり覚ましたら食堂へ向かい・・・食事を終えてもブッズの奴が現れなかった。




