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第130話、メラネア実戦

「街から出るのは久々だな・・・」


 街の門を出て雪の積もる街道を見つめ、誰に言うでも無く呟く。

 俺が最後に外に出たのは吹雪の魔獣の一件で、それ以降は一度も出ていない。

 そこまで長期間な訳ではないが、長らく出ていなかった様に感じてしまった。


「でだ・・・ブッズ、本気でお前も付いて来るつもりか?」


 背後へと振り向くと、俺と同じく外に出ている男が立っている。

 ついて来る様な理由も無いのに、何故かこの男は付いて来た。


「足手纏いなのは承知してるけど、出来れば見学させて欲しい」

「・・・まあ良いか。下手に前に出るなよ」

「解ってる。二人の邪魔をしたくないしな」


 全くこの男は、自分がこの中で一番貧弱な事が解っているんだろうか。

 いや、解っているからこそ、子供二人の後ろに下がるんだろうが。

 まあ良いか。以前とは違い、こいつにも危機意識は育っているはずだ。


『わーい!』『雪だー!』『雪玉だー!』『雪合戦だー!』


 そして早速小人が増えて雪を丸め始めたので、無視して街道を歩きだす。


「え、あ、あれ、ヴァイド君置いて行って良いの!?」

「どうせその内ついて来る。ほっとけ」

『妹ちゃんは兄貴に厳しいねぇ』

「アレって嬢ちゃんの精霊の仕業なのか・・・」


 その言い方だとまるで俺の指示みたいに聞こえるから止めろ。

 アイツは好き勝手に動くし、俺の指示なんて殆ど聞かないからな。

 そうして暫く三人と一匹で、誰も通る気配の無い街道を歩き続ける。


「だ、誰も居ないね。行商人とか、こないの、かな」

「この雪の中魔獣が出る、となれば余程の人間以外は通らんだろう。この時期の魔獣の動きが鈍いとはいえ、全く居ない訳じゃ無い。いや、むしろ少ないからこそ危険まであるだろう」

「少ないのに、危険、なの?」

「寒い時期は山から食料が無くなる。そうなれば少ない食料を奪い合う事になる。当然奪い合って戦っている者達もその食料の一つだ・・・そんな中、ひ弱な人間が通ったらどうなる?」

「・・・代わりに、襲われ、ちゃう?」

「多分な」


 まだ寒くなり始めて日が経っていないので、そこまで逼迫した状況ではないだろう。

 だがこの寒さが何時まで続くか解らず、冬眠できる動物は食料の確保をはじめる。

 そして寒さを乗り切る為の食事となれば、出来れば消耗せずに確保したいと思うはず。


 勿論この突然の寒波に対応している動物であれば、事前に確保はしているだろう。

 だが自然界の野生にも割と間抜けは居て、確保が間に合わない個体も現れる。

 そういった個体が何をするかと言えば、寒さを堪えながら必死に食料を集めるだろう。


 逆に冬眠をしない獣も当然居り、そいつらも日々の食料を手に入れる必要が有る。

 お互いに食料を欲する生物がかち合えば、後はただ奪い合いになるだけだ。

 だがそこに腹を満たせる『餌』が飛び込めば・・・結果は考えるまでも無い。


「俺達が狙うのは、そういう腹を空かせてる奴だ」

「それは・・・狂暴、そう、だね?」

「間抜けの場合は狂暴かもしれんが、冬眠をしない類は冷静に狙って来る可能性が高いな。なので俺達に接触せずに逃げるかもしれない。俺やお前の気配を感じ取ってな」

「なるほど・・・そっか・・・」


 彼女の中に、獣でも命を奪うのは可哀そう、等という言葉は存在しない。

 生きる為には食らわねばならず、人の生活に獣の犠牲がある事を理解している。

 そして同時に獣を狩らなければ人間に犠牲が出る、という事も理解しているからだろう。


 世間を知らないおこちゃまだと、肉を食う癖に命を奪う事を厭いかねない。

 勿論だが魔獣は『魔核』や『素材』として狩られる事もある。

 だがそれも一つの仕組みだ。その仕組みの結果人間は生きていける。


 当然やり過ぎて問題が起こる事も無くはないが、それは俺達が考える事では無い。

 先の事を考えて生きられる、余裕のある人間だけが考えれば良い事。

 今を生きる俺達に、まだ余裕のない俺達に、そんな余分な思考はただの毒だ。


 社会がその行動を禁止でもしない限り、規則の範囲内で好きにやれば良い。

 とはいえ俺の場合は、禁止されたとしても魔獣を狩るがな。


「・・・アレは慎重な個体かな、それとも、狂暴な方、かな」

「さて、どっちにしろ、こちらを狙ってる間抜けには違いない」

「・・・全然解んねぇ。どこに居るんだ?」

『この兄ちゃん、本当にここまで良く生き残れたな』


 木々の奥からこちらを狙い、ゆっくりと接近してくる気配がある。

 俺がそれに気が付いているのであれば、当然メラネアも気が付く。

 解ってないの周囲をキョロキョロ見て探しているブッズだけだ。


 だがブッズが探す様子を見せたのに、遠ざかって行く気配は無い。

 つまり何が有ろうと狙うつもりなのだろう。食らうつもりなのだろう。

 いや、むしろ見た目だけで、柔らかそうな子供二人を狙っているのか。


 何にせよ俺達はずっと前を向いて歩き、そして――――――。


「ギャンッ!?」


 その鳴き声が、襲ってきた獣の最後の声だった。

 倒れ伏す獣の目には槍が深々と刺さっている。

 恐らく脳にまで達しているそれは、完全なる致命傷だろう。


「うん、問題無い、かな」

「・・・そうだな」

「・・・そっすね、メラネアさん」

「え、な、何二人共、その反応、何で!?」


 いや、だってお前、顔正面に向けたまま片手で目を突き刺すとか、どれだけだよ。

 多分横目で見てたんだろうけど、横から飛び出て来た奴相手にそれは、お前。

 コイツの心配するの無意味な気がして来た。余程の奴以外勝てないだろ。


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