第129話、選択結果
「それでうちに来た、と」
「そうだな」
翌日、結局得物が決まらなかったので、とりあえず武具店にやって来た。
今日も何時もの様に店には娘が居り、こちらの事情を軽く説明した。
店主は奥で作業をしているのだろう。作っているのは俺達の防寒具だろうが。
別段今回は店主を呼ぶ程の事でもないので、娘に対応して貰っている。
「ご、ごめんなさい、優柔不断で・・・」
「別に謝らなくて良いと思うよ。ちゃんと使える武器を選ぶのは大事だと思うし。むしろちゃんと悩んでるのが偉い。これかっこいー! で使えない武器選ぶ人だって居るからね」
「そ、そう、ですか・・・」
ホッと息を吐くメラネアに対し、優しい笑顔を向ける娘。
確かに使えない武器を適当に選ぶ輩は居る。
訓練所でも、明らかに身の丈に合わない武器を振ってる奴が居るからな。
アレは武器を振っているというよりも、武器に振り回されていた。
「うーん、本来は素手が得意なら・・・こういう刃が付いた手甲とかあるけど、どうかな」
「・・・そう、ですね、使えない事は、なさそう、ですね」
娘はとりあえず店頭に在る武具を色々と手渡し始め、何がどこまで使えるかを確かめさせる。
ただ当然と言うべきか、本人の宣言通りどれも使えないという様子は無い。
むしろ上手い。素人目にみても、適当に振るっている感じがない。
「本当に凄いね。疑ってた訳じゃ無いけど、本当に何でも使えるんだね、メラネアちゃん」
「え、えへへ・・・」
ちょっと照れ臭そうに笑うメラネアだが、これは本気で凄い事だと思う。
今日も一緒について来ているどこぞの大男は、自分の大剣すらままならないのに。
というか、あの小柄な体でも、体重移動であそこまで大剣が使えるんだな。
回転を使うというか、地面の反動を使うというか、アレは俺には真似できそうにない。
勿論振り回すだけなら出来るが、それで戦闘が出来るかと言われると否だろう。
「おい、大剣で打ち合っても負けるんじゃないか、お前」
「言うなよ・・・俺も今思ってたんだから・・・」
ブッズは自分でも思っていた事を言われ、部屋の隅で落ち込んでしまった。
だが事実なので仕方ない。明らかに技量が遥か上をいっている。
膂力の差とは技量差を覆す事があるが、覆せるだけの膂力差が無い。
いや、膂力差を覆せる程に技量差が開いている、と言うのが本来は正しいのか。
「うーん・・・どれか得意な物、って感じがあるかなと思ったけど・・・本当に何使っても問題無さそうだね、メラネアちゃん」
「あ、や、やっぱり、そうです、よね」
そうして出た結論は、最早どの武器でも良いんじゃないか、という事だった。
どれか一つが秀でているという事も無く、どれかが得意という事も無い。
万遍無く全てが高い技量であり、武器を選ぶ必要が無いと。本気で凄すぎるな。
「ならもう、敵に合わせて使えばどうだ」
「敵に?」
「そもそも武器の必要性を感じたのは、素手では魔獣への決定打が無いと思ったからだ。ならば魔獣に致命傷を与えられる武器、という観点で選べば良いだろう」
「あー・・・そっか」
得意な得物、という思考で凝り固まっていたのだろう。
メラネアは成程という顔をして、改めて武器を眺める。
それを邪魔しない様に黙っていると、彼女はおもむろに槍へ手を伸ばした。
「これが一番、楽、かな?」
「槍か」
「うん、長さが有るから、防御にも使いやすいし、押し込んだ際に奥まで届くだろうし」
「内臓まで、か」
「ううん、頭の奥まで。目を狙えば、大抵の魔獣は貫通出来ると、思うし」
戦闘の最中に目を一点で狙う。そんな真似が普通出来るだろうか。
速度が違い過ぎるのであれば解るが、だとしても大半の獣は顔を守る。
その反射防御を越える一撃が出来ると、当たり前の様に言ってのけるのか。
色々と確かめる為に外に出るつもりだったが、これなら確認の必要は無かったか?
いや、だとしても生活費の問題も有るし、魔獣を倒す事に損はないな。
「あとは・・・この辺りも、数本欲しい、かな」
「短剣か」
「うん、投げても使えるし、近距離は短い方が・・・使い易いと思うかな」
一瞬、余りいい気分ではない、という表情をしたのを見逃さなかった。
恐らくこの短剣を選んだ理由は、魔獣と戦う為では無いのだろう。
俺が言った通り『敵』と戦う為に、人間と戦う事を想定した武器選択だ。
「そっか、じゃあとりあえず、それらを使う前提で・・・うーん、この辺りが良いかなぁ」
だが武具店の娘はその選択理由に気が付かず、奥から武器を出し始めた。
表に出している安めの武器ではなく、しっかりとした作りの武具を。
それを待つメラネアの表情には、確かな決意が宿っていた。




