第127話、変わった周囲
「今日も仲良く三人で出勤かい?」
「いやぁ、メラネアちゃんが来てくれて良かったぜ」
「そっちの嬢ちゃんはおっそろしくてなぁ・・・」
「メラネアちゃんが居ると大人しくて助かるよ」
組合に着くと同時に厳つい男共に声をかけられ、言いたい放題されている。
勿論声をかけているのは俺にではなく、俺の隣に居るメラネアにだ。
ここ最近というか、2,3日前からこの調子になっている。
組合に登録した事、精霊付きである事は、既に周知の事実だ。
俺の時と同じ様に掲示板に似顔絵が張られ、着ている防寒着まで描かれている。
だが腫物を扱う様子だった俺と違い、メラネアはやけに気に入られる事になった。
羨ましい気持ちは一切無いが、ここまで露骨に扱いが違うと少しイラっとする。
というか俺は無意味に暴れた覚えは一切無いぞ。絡まれたから殴ってただけだ。
「あ、あはは・・・で、でもミクちゃんは、ほ、本当は優しいん、ですよ?」
「優しい・・・」
「優しいなぁ・・・」
「優しい奴が鼻の骨折るかなぁ・・・」
彼女がコテンと首を傾げながら告げるも、誰一人その言葉に納得はしない。
じろっとこっちを見る男共。何だ。もう一回鼻の骨折ってやろうか。
希望があるなら指も一本ずつ丁寧に折ってやっても良いぞ。
「ひぇ」
「待って怖い」
「殺意が漏れてる漏れてる」
「も、もう、毎回私の後ろに隠れないで下さいよぉ」
男共はでかい図体をメラネアの後ろに隠し・・・隠れるか馬鹿野郎。
全員はみ出る所か一切隠れてねえんだよ。何の茶番だ。
コイツ等メラネアを盾にすれば俺が何も出来ないと思ってるだろ。
「よし、もっかい殴るか」
「うぇ!? み、ミクちゃん落ち着いて!?」
「やべえ逃げろ!」「調子に乗り過ぎた・・・!」「もう鼻の骨折られたくねぇ!」
「うぇ!? みんな逃げた!? 酷い!」
『あっはっは、馬鹿ばっかりかよ』
『馬鹿って楽しいね!』
拳を握るとメラネアに止められ、その間に男共は走って逃げて行った。
というか最後の奴、お前一回折られてるのに良い度胸してるな。
ニルスと小人も笑うな。俺一人だけ楽しくないんだよ。
「ははっ、この暫くで嬢ちゃんも人気者になっちまったな」
「・・・全くだ。あの素直さが要因だろうがな」
ブッズが苦笑いしながら告げる言葉に、俺も苦笑いで返す。
勿論俺も素直に生きているつもりだが、メラネアの素直さは質が違う。
俺の素直さは自分の我を通す信念だ。だが彼女は優しい心根から来る行動だ。
同じ素直さであっても余りに違うその言動は、近くに居るが故に目立ったらしい。
それでも絡む者は居たが・・・当然と言うべきか全員綺麗に投げられた。
ただし大怪我をした者は一人もおらず、むしろ投げ落とした相手を心配する始末だ。
俺と違い心優しい子、という評判が付くのは一瞬だったな。
そこから俺の彼女へ向ける態度の緩さから、親しい仲だと思った様だ。
俺がイラっとした時に諫める姿も見られ、結果として先程の様な状況になっている。
「まあ、良い傾向だろう、アイツが居場所を手に入れている事実は」
俺の様に一人で居る事が平気ならば問題は無い。
我を通し生きていきたいならそれで良い。
だが彼女の態度からは、平穏を愛する気配がある。
周囲の空気を読んで笑顔を見せ、問題を起こさない様に務めている。
無邪気に振舞っているのではなく、未熟ながらの気遣いが好かれているだけだ。
ならきっと、これは悪い傾向じゃない。もはや居場所を手に入れたと言っても良い。
「なーに言ってんだか。俺が言ってるのはもう一人の嬢ちゃんもだよ」
「あん?」
「その可愛くない返事の仕方をする子供も、今は人気者って話をしてんだよ」
「・・・気の迷いだろう。どうせ時間が経てばまた腫れ物に変わる。俺は悪党だからな」
メラネアの存在と、彼女との関係、そしてブッズの俺に対する態度。
更に気が付けば魔獣の件が街中に広まり、無駄に有名人になってしまった。
街の為に率先して魔獣を狩りに出た、心根は優しい娘なのだという噂が。
だが所詮はそれだけだ。ただの噂だ。そんな物は虚構でしかない。
結果的に街が救われただけで、街を救うつもりなど欠片も無かったんだからな。
俺が悪党の生き方を貫く以上、ただ助けを求めるだけの人間など知った事では無い。
「悪党ねぇ・・・悪党が子供を助けるとは思わねえけどな。それも命を狙って来た奴の」
「それはどう生きるかの違いでしかない。それに命を狙って来たのはメラネアじゃない。その後ろに居る連中だ。なら俺が潰すのはそいつらで、メラネアに手を出すのは余分な行動なだけだ」
「・・・ほんと、褒められると言い訳するよな、嬢ちゃん」
ふん、褒めているんじゃないだろう、どいつもこいつも。
ただ真実が見えていないだけだ。俺は誰も彼も助ける様な真似はしない。
何時か眼の前で誰かを見殺しにすれば、確実に評価が変わるだろうよ。




