第125話、危険度
「所で、あの似顔絵を描ける職員はまだ在籍しているか」
「居るわよ。それがどうかしたの」
「そうか、ならメラネアの分も頼んだ。掲示板にでも張り出しておいてくれ」
「あの子の場合は貴方と違って、そこまでの警告の必要は無さそうだけどね。どこぞの危険な子と違って、頼まなくても加減してくれそうだし・・・」
茶を飲みながら半眼を向けて来る支部長だが、こいつは一つ大きな勘違いをしている。
メラネア本人を見れば確かに危険は少ないが、危険なのは本人の存在じゃない。
「むしろ俺より危険だぞ、アイツの場合は」
「・・・どういう事かしら」
「精霊付きの機嫌を損ねる可能性が高いという事だ。俺の場合は理不尽に対しての抵抗でしかないが、あの娘に付いている精霊が、何をどう思って暴れるかは解らん」
確かにメラネア本人は、素直な良い子、という印象が強い。
少々気弱な言動があるので、それが尚の事印象を強めているのだろう。
だが逆を言えば、その普通の良い子の思考回路が問題になる可能性が有る。
ここに関してはメラネアがというよりも、ニルスの判断になるのだろうが。
あの狐が何を不快と思い、そしてメラネアを守る為に何をするか。そこが解らない。
「それにやはり精霊と言うべきか、アイツに付いている精霊は話が通じている様で、どこか通じていない時がある。領主館でそう思う様な一件があった」
アレは俺が頼んだ事ではあるが、明らかにやり過ぎだった。
頼んだ範囲を超えていた事を考えれば、やはり話が通じていない。
こういった認識の差異を考えれば、何が起きてもおかしくないと思える。
「下手をすれば、突然吹き飛ばされて肉塊になる奴が出るぞ」
「・・・やっぱりあの子、組合員にするの断って良いかしら」
「断っても良いが、その場合領主に話を通すだけだ」
領主の要請を断れると良いな、支部長殿。
「権力使って来るとか、貴女自分がやられるのは嫌う癖に、それは酷くない!?」
「本来拒否出来る事柄でも無いのに、権力で登録を断っている支部長への対抗策としては正しい対処だろう。それとも俺に殴られて意見を変える方が良いか? 俺はそれでもいいぞ」
「ただの脅しじゃないの・・・!」
「なら誰でも登録出来る様にしない事だな」
基本的に組合の登録は、やろうと思えば誰にだって出来る、らしい。
子供にも出来ると後々聞いた。子供が出来る様な雑用が余ってる街ならな。
小さな村なんかは、皆働いて手伝って、協力しての生活になるだろう。
手が余ってる子供なんて居らず、組合の仕事なんてやってる暇もないだろう。
だが組合がある様な街であれば、基本的に雑用が欲しい人間は沢山いる。
とはいえ、問題は当然起こる。雇い主と雇われの立場の問題が。
雇う側は当然だが、なるべく安く使える人間が欲しい。何時だってそうだ。
そこに来て雑用だけを任せる子供、となれば支払う給金はどうなるか。
子供の手伝いで真面な金額を払う必要は無い、と考える人間も少なくない。
勿論それが本当に『子供の手伝い』の範囲なら、誰も文句は言わないだろう。
だがその範囲を超えていたら。子供を使い潰していたら。理不尽な雇用であれば。
「理不尽に働かされる子供を防ぐのも、組合の・・・貴様の仕事だろうが」
「ぐぅ・・・!」
組合という組織は、結局の所は国の都合で存在している組織だ。
一応は国の機関ではないが、その内情はほぼ繋がっていると見て間違いない。
となれば国としては健全に税金を吸い上げられる様に、生活を確立して貰う方が良い。
子供が潰され、今は良くとも先の未来で立ち行かなくなる、等という事態は避けたい訳だ。
組合の存在だけを見れば、不幸な人間が現れない様に、という実に立派な話だろう。
実情は金をしっかりと吸い上げる為の機構なので、別に褒める程の事でもない。
お互い自分の生活の為に利用しあっている。その程度の認識で十分だ。
「何で貴女がそんな事をちゃんと知ってるのよぅ・・・!」
「この間受付嬢に少し聞いた話なだけだ。雑用の仕事は有るのに、組合に登録をする子供が何故少ないのかと。あの程度であれば、子供の方がむしろ喜んで引き受けるだろうと思ってな」
俺は周りに居るのが図体のでかい連中で、絡んで来るのもでかい連中だ。
だから余り子供との関りはないが、組合にも子供の出入りが無い訳ではない。
なら手の空いている子供の中で、金が欲しい子供はきっといるはずだ。
と思って聞いてみたら、先程の答えが返って来た。
どうも子供の場合、商家などの雑用での長期契約が多いらしい。
そして役に立つのならばそのまま正式な職員に、という形だそうだ。
要は雑用だとしても、その雑用から目が出れば安定した職に就けると。
しかもこの場合は組合が絡んでいるので、理不尽な雇用契約は起こりえない。
正式に雇った後ならバレないかと言えば、当然すぐにバレて罰則を被る事になる。
大体その行動は、組合に喧嘩を売ったのと同じだ。ただで済ませる訳がない。
そんな訳で、頻繁に組合に出入りしている子供、というのは少なくなるそうだ。
そしてそんな事情が有るという事は、組合に俺達を拒否する理由も存在しない。
何せ俺達は子供だからな。組合に助けを求めるなら、受け入れるだけだろう。
先程話した暗殺組織の話も、本来は無い前提の話だからな。
むしろ精霊付きの強者となれば、この辺境では断る理由にはならない。
後は絡む奴が悪いだけだ。その後の面倒は組合が頑張れ。その為の組合だ。
「よろしく頼むぞ、支部長殿」
「・・・お願い今日はもう帰って」
頭を抱える支部長殿は、その内騎士隊長と仲良く胃に穴が開くかもな。




