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第124話、一番危険なのは

「はぁ・・・とりあえず話は解ったわ」


 茶を喉に流し込み、力なく告げる支部長。恐らく解りたくは無いのだろう。

 だが現実逃避はそろそろ止めて、真面目に話す気になったらしい。


「要はその子の安全の為にも、その子が自由に振舞う為にも、存在を周知させたいって事よね」

「真面目に話せば一瞬で終わるのに、何で最初からそう出来ない」

「私はこれでも聞き分けが良い方だと思うけど?」

「前に会った支部長はもっと柔軟だったし、話が早かったぞ」

「そいつが特殊なのよ! 私は大分柔軟な方なの!」


 そう言われると、そうなのかとしか言いようがない所は有るな。

 何せ出会った支部長は、この女で二人目だし。

 となると他の支部に行った場合、これより面倒な手合いが居るのか。


 それは面倒くさいな。出来れば余り関わりたくはない。


「それで、さっきから本人が喋ってないけど、貴女はそれで良いの?」

「え、あ、は、はい。良い、です。宜しく、お願いします」


 念の為という様子で本人に確認を取り、慌ててぺこりと頭を下げるメラネア。

 そんな彼女の態度に何を思ったのか、支部長は少し悲しげな顔を見せた。

 ただメラネアが顔を上げるまでには表情を戻し、優雅な動きで茶を口にする。


「じゃあ、この子の組合証作ってあげてくれるかしら」

「はい、支部長。ではメラネア様、こちらへ」

「は、はい」


 支部長に頼まれた保護者・・・ではなく、受付嬢に連れられて出て行くメラネア。

 俺の時と同じ様に、多少質問をされつつ作る事になるんだろう。

 一人にさせるのは少し心配だが、ニルスがついて行ったから大丈夫か。


「・・・あんな子供を暗殺者にね。今も昔も下らない世界だわ」

「同感だ」


 子供というものは、幼い頃からの教育で大半がどうとでも染まる。

 教育という名の洗脳でもって、捻じれた常識を幾らでも受け付けられるんだ。

 上手く育てれば暗殺組織にとっては良い道具だろう。使い潰せる便利な道具だ。


 勿論忠義を持って技術を磨く集団も、存在しないとは言わない。

 主の為に陰に潜む一族、という物は俺も見て来た事がある。

 だが今回の連中はそれとは違う。金で殺しを請け負うだけの連中だ。


 そういった連中は往々にして、上の人間はクソ下らない事が多い。

 特に子供を洗脳して道具に仕上げる場合、自分の身の危険は晒さない事がな。

 下の者に命を懸けさせておきながら、自らは何をしてでも生き延びようとする様な連中が。


 勿論メラネアは完全に特殊な例だが、それでも子供を使っている事に変わりは無い。

 むしろ自由意志の無い便利な道具として使っている、という事は確認済みだ。

 そんな連中が真面な訳がない。どいつもこいつも下らない連中だろうよ。


「それで、貴女はあの子と組むのかしら?」

「暫くは面倒を見る気はある。だがずっと一緒という事は無いだろう。少なくとも、暗殺組織を壊滅させた後は、アイツは完全に自由の身だろうからな」

「壊滅させる気なのね」

「・・・奴らは俺に喧嘩を売った。ならば俺は全力で買うだけだ」


 連中がまだメラネアの様な『道具』を持っているのかどうかは解らない。

 だが肝心な仕事に彼女を使うという事は、かなり上位の『道具』だったという事だ。

 つまりメラネア以上の力を持った人間は、居ても数が少ないと判断できる。


 なら壊滅はそこまで難しい話じゃない。そいつらの所在さえ解ればな。

 居場所さえ判明すれば、俺は自ら乗り込むつもりだ。

 むしろ今は、山へ向かうのを後回しにするつもりでさえいる。


 万が一メラネアと同じだけの化け物が出て来たとしても、俺に引く気は一切無い。


「その時は俺も手伝うぜ」

「その時は本気で邪魔だから、お前は絶対について来るな」

「・・・うっす」


 ブッズが身の程を知らない事を言って来たので、少し強めに言っておく。

 お前はメラネアに投げ飛ばされまくっていただろうが。

 つまりその組織には、あれだけ仕込める奴が居るという事だぞ。


 お前が来ても足手纏いだし、間違いなく何も出来ずに死ぬだけだ。


「そもそもお前、今の時点でも自分の身が危ないの解っているのか」

「え、何で俺が」

「暗殺の対象にされた俺と個人的な関りが有って、特に何処かの組織に属している訳でも無く、更には裏切者の暗殺者とも関係があるんだぞ。俺達を殺す為の人質にされる可能性もある」

「・・・あ」


 コイツ、本気で解ってなかったな。お前も大分危ない所に足突っ込んでんだぞ。

 そもそも俺について回っている時点で、実力が無いと色々危険だ。

 何せ俺は自分の好きな様に振舞っているからな。敵は確実に居る。


 となればその仕返しに俺ではなく、俺の傍に居る人間に降りかかっておかしくない。


「解ったら、訓練以外で俺に関わるのは、いい加減止めておけ」

「・・・それは、嫌かな」

「おい、人の話聞いてるのかお前。下手したら死ぬぞ」

「ちゃんと聞いてたし解ったけど、だからって嬢ちゃんと関わらなくなる気はねえよ。それに腹が立つじゃねえか。そんな連中のせいで、恩人と話せなくなるとかよ」

「・・・馬鹿が」


 本当にこいつは馬鹿だ。拾った命をすぐに無くすぞ・・・大馬鹿が。


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