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第122話、精霊付きの周知

 ブッズの治癒はこのぐらいで良いだろうと、軽く息を吐いて循環を切る。

 そして立ち上がって狐とじゃれるメラネアを見て、ふと気が付いた事があった。


「メラネア」

「あ、な、何かな、ミクちゃん」

「周囲から怪訝な顔で見られてる事に気が付いているか?」

「え、だ、だってそれは、ブッズさん投げ倒した、し・・・」

「違う、原因はそいつらだ」


 メラネアの言葉を否定し、精霊達を指さす。


「・・・ニルスと、ヴァイド君?」

『俺がどうした?』

『どしたのー?』


 勿論ブッズを投げた事に要因が無いとは言わないが、今向けられている視線は違う。

 何故なら周囲の人間達には精霊が見えず、見えているのは俺達だけだ。

 だというのに楽し気に精霊と遊んでいれば、傍から見れば不思議ちゃんだろう。


 中には何かが居ると気が付いている連中も居るみたいだが、大半は不思議そうな顔だ。

 メラネアだからそれぐらいで済んでるが、ブッズだったらどういう反応になるか。

 大の大人が虚空に向かって笑顔でぶつぶつと・・・うん、ちょっと、怖いな。


「そいつらは俺達にしか見えない。だからそいつらと話している姿は、何も無い虚空に向かってぶつぶつ喋ったり笑ってしてる危ない奴に見えるぞ」

「うえ!?」

『あー・・・まあ、そりゃそうか』

『兄は気にしないよ?』


 やはり自覚していなかったか。余りにも自然に遊んでいたからそんな気はした。

 俺は別にどんな目で見られようと構いはしないが、メラネアは別だろう。

 虚空に話しかける様な行動は、悪い意味で目立ちすぎるしな。


 俺の言葉が真実なのかと、メラネアは驚愕の表情をブッズに向ける。

 するとブッズは気まずそうに眼を逸らし、態度が真実であると告げた。

 頭の悪くないメラネアは事実をしっかりと受け取り、ガクリと項垂れてしまう。


「うう・・・危ない人かぁ・・・それは嫌だなぁ・・・」

『じゃあ街中では、俺はなるべく黙ってりゃ良いか?』

『いいー?』

「・・・ううん、それも嫌だな。気にせず喋って欲しい。折角自由になったんだもん、一緒に楽しんで行こうよ。何時だったか、そう約束したでしょ。ね、ニルス」

『あいよ。んじゃ俺は変わらず、気ままにやらせて貰うとするかね』

『わーい!』


 周囲からの奇異の目よりも、友人との約束を優先する訳か。

 一緒に楽しんで行こう、ね。そういえば、動けない間も会話はしていたんだったな。

 何時か自由を夢見て、もし自由を得られたら、そんな会話だったんだろう。


 なら俺に、横からとやかく言う権利はない。俺も自由を得る為に生きてるからな。


「それなら一つ、いい方法があるぞ。少なくとも組合の中では変な目で見られない手段が」

「え、な、何々ミクちゃん。お、教えて」

『おー、何だ何だ、何すりゃ良いんだ?』

『兄も出来る事なら手伝うよ!』

「やる事は簡単だ。お前を精霊付きと周知させれば良い。幸い組合にはその手段がある。どうせ生活の為には組合に登録する方が現状簡単だし、ついでに済ませられる話だからな」


 この娘には戦う力がある。精霊付きとしての強大な力がある。

 なら組合員として登録して、森の獣を狩って魔核を売れば一番早い。

 暗殺組織での戦闘勘を鈍らせない為にも、戦闘の必要な仕事をしておいた方が良い。


「精霊付きと、周知・・・」

『成程、そうなりゃ確かに虚空に話しかけてても、精霊と話してると思われるわな』

『つまり妹もいっぱい兄と楽しくお喋りしてくれる!』


 彼女は既に戦う意思を決め、領主にもその存在を明かして良いと告げている。

 ならば精霊付きである事を隠す利点は無く、むしろ公開した方が良い。

 メラネア存在が街の周知になれば、それだけ彼女が動き易くなるからな。


 有名な人間という存在は、周囲の視線を集める物だ。

 それは上手くいけば、監視カメラの様な役割を発揮する事になる。

 何時どこに居ても視線を集める人間に、下手に手を出せる奴は居ないだろう。


 暗殺組織対策としても、これは有用な手段だと思う。問答無用で来る可能性もあるがな。

 後何が起ころうとも、俺はお前と楽しくお喋りするつもりは無い。煩い。


「・・・なあ、嬢ちゃん、まさかとは思うが、アレ頼むつもりか」

「そうだが?」


 ブッズが恐る恐る訊ねて来たが、当然ながらその想像通りだ。

 組合に頼むという事は、あの掲示板に張り出して貰うという事。

 つまり俺の似顔絵の横にメラネアが並ぶという事だ。


 これで少なくとも、組合員に周知される事は間違いない。


「・・・一応聞くけど、巻き添えに出来る仲間が欲しいとか、そういう事じゃないよな?」

「・・・違うが?」

『妹は嘘を吐いています!』

「おい何で今即答しなかった。嬢ちゃん、こっち見ろよ」

「ほら、行くぞ。早めに受付に頼みに行く。明日に間に合わせたい」


 ブッズの言葉を無視してメラネアの手を掴み、組合の方へと歩き出す。

 背後から溜め息を吐きながら付いて来る男が居るが、別に来なくても良いんだぞ。


「あら、ミクさん、今日の訓練はもう終わりですか?」


 受付に向かうと、何時もの受付嬢が笑顔で迎え入れてくれた。

 今日は支部長は居ない様だ。むしろ良く居るのか本当はおかしいのか。

 普通お偉いさんは、奥や上の階でふんぞり返っているものだしな。


「支部長にご用でしたら、お呼びいたしますが」

「いや、良い。別にアイツに用はない」


 周囲に視線を向けていた事で、支部長を探していると思われたか。

 だがアイツが来ると、話が長くなる予感がするので却下だ。

 後また何かでイラっとして殴りそうだし。出来れば呼びたくない。


「頼みたい事が二つある。聞いた上で支部長の判断が要る、というならば呼んでくれ」

「解りました。お伺いします」


 受付嬢は笑顔から一転、真剣な表情で聞く態勢に入った。

 とはいっても大した事を頼む訳じゃないんだが。


「この子・・・メラネアの組合登録と、彼女が精霊付きだという事を組合で周知させてほしい」

「よ、宜しく、お、お願い、します・・・!」

「―――――――支部長をお呼びします。少々お待ちください」


 そうなる気はしたが、結局呼びに行かれたか。面倒くさいな。


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