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第118話、転売

 メラネアへの認識を改めていた所で、店主と娘が店の奥から現れた。


「おう、待たせたな嬢ちゃん。遅かったから何があったのかと心配したぜ。追加注文があるって聞いたんだが・・・まさか後ろの嬢ちゃんのか?」

「話が早くて助かる」

「え、マジなのかよ。冗談で言ったつもりだったんだが」


 ぼりぼりと頭を掻きながら、背後のメラネアへ目を向ける店主。

 だがその表情に不快は無く、疑いの目を向ける様子も無い。


「そっちの嬢ちゃんも、お前さんみたいに強い、って事か?」

「話が早くて本当に助かる」

「マジかぁ・・・最近の子供は怖えな・・・」


 俺という前例が居た事、その俺が連れて来た事で、素早い結論に至ったらしい。

 頭を抱えて天を仰ぐ店主ではあるが、若干楽しそうに見えるのは気のせいでは無いだろう。


「もしかして後ろに騎士様が居るのは、それが理由か?」

「先日少しあってな。詳しい話は省くが、それで領主から報酬を貰う事になった。俺の時と同じ様に、彼女の防寒具の素材と支払いをして貰う事にした」


 俺がそう説明をした所で、騎士がスッと前に出て丸めた紙を渡した。

 車を用意している間に領主が書いた手紙だろう。

 店主はそれを受け取って開くと、すぐに丸めて閉じた。


「状況は解った。ならそうだな、そっちの嬢ちゃんは・・・名は何て言うんだ?」

「メ、メラネア、です」

「んじゃ、メラネアは娘に注文を詳しく伝えてくれるか?」

「は、はい、わかり、ました」


 コクコクと頷くメラネアに対し、店主は厳つい顔で優しく笑って頭を撫でた。

 その手つきがやけに優しいせいなのか、メラネアは口元が緩んでいる。

 父性や母性に甘えたい年頃を無くした娘と考えれば、アレは嬉しいのかもしれないな。


 頭を撫でられるか。俺は特に嬉しくはないな。中身は殆ど老人みたいなものだし。


「んじゃ、ミクは奥に来てくれ」

「入って良いのか?」

『いいのー?』

「俺が良いって言ってんだから別に良いだろ」

「それもそうか」

『わーい!』


 職人の仕事場という事を考え、本当に良いのかと一瞬思ってしまった。

 だが本人の言う通り、店主が良いと言うのだから気にする必要は無い。

 スタスタと店主の後ろをついて行き、作業場らしき部屋へと入る。


 何やら色んな工具類が散らばっており、鍛冶場らしき空間にも見える。

 だが裁縫道具やら、見た事も無い道具も有る辺り、純粋な鍛冶師とはやはり違うな。

 自分の店で何でも作る武具店として、鍛冶もその一つといった所か。


 この店を継ぐのは本当に厳しそうだな。少なくとも俺は絶対に無理だ。凡人だからな。


「先ずこれを持ってくれるか」

『何これ美味しい物?』


 室内を見回していると、店主が鋳塊らしき物を幾つか持って来た。

 ゴトリと音をさせて置かれたそれを、言われた通りにも持ち上げる。


「・・・重いな、これ」

『美味しい物じゃなかった・・・』


 齧るな齧るな。見て解るだろうが。


「片手で振り回すのは無理そうか?」

「いや、思ったよりも重いというだけだ。振り回すに問題は無い」


 俺も過去の経験から、鉄器類の重量はある程度の感覚を持っている。

 その感覚のままに持っち上げた結果、予想以上に重くて少し驚いた。

 店主が軽々持って来たから尚の事、というのもあるがな。


「これは本来力自慢の野郎の鎧や大剣に使う素材でな。頑丈なんだが重いんだよ。その大きさでその重量ってなると、武具の大きさにした時どれだけ重いか何となく解るだろ?」

「・・・少なくとも一般人には、持ち上げるのも難しそうだな」


 鋳塊でここまで重量を感じるという事は、鎧にすれば重いなどでは済まない。

 半端な筋力では歩く事すらままならないんじゃないだろうか。

 むしろ歩かずに防御出来る程の強度がある、という事かもしれないが。


「これで手甲、脚甲を作るのか」

「そうなる。現状手元にある中では、これが一番頑丈な物になるな」

「色々と試すという話だったが、他には無いのか?」

「本当は他の素材も試すつもりはあったんだが・・・これが手に入らない前提だったからな」

「・・・珍しい素材なのか?」


 そう問いつつ、重量を確かめる様にポンポンと軽く放り投げる。

 うん、やはり問題は無いな。重量を感じる程度というだけだ。

 俺ならたとえ大剣や鎧であっても、そこまで問題無く動けるだろう。


「貴重と言えば貴重か。この鋳塊は複数の鉱石に魔獣の素材を混ぜて作られた物、らしい。普通なら不純物の塊なんだろうが、不思議な事に一つの形になってる。これを作る技術は公開されていないが、作ってる連中が売値を吊り上げないからそこまで高くはない。買えれば、な」

「・・・つまり、コネか運が無いと手に入らない素材、という事か」

「そういうこった。因みにこれを横に流して金儲けした奴は、二度と売って貰えないんだとさ。作るのに手間がかかるらしくて数が少ないから、流す奴は後を絶たないみたいだが」

「そうなるだろうな。貴重な物は何時だってそうなる」


 あの領主め、随分な物を出しやがった。報酬にしては物がでかすぎる。

 今後も良い関係を築いていこう、等という無言の伝言だろうな。

 とはいえ俺には知った事かという話だが。奴が何を企もうと関係は無い。


 聞く意味のある話ならば聞くし、不愉快ならば従うつもりは無い。

 俺にとってはただの報酬だ。それ以上でもそれ以下でもない。


「これなら俺が殴っても壊れないのか?」

「流石にそれは無理だろうよ。こいつは頑丈ではあるが、どんな頑丈な物だっていつかは壊れるもんだ。嬢ちゃんの拳の威力なら尚更だろう。だからちょっと工夫をさせて貰う」

「工夫? まあ、俺に技術の事は解らんし、良い様に任せるが」

「おう、任された」


 しかし横流しか。転売というのは何時の時代どこの世界でもやはり在るものだな。


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