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第117話、戦う意思

「あら、いらっしゃいミクちゃん・・・と、騎士様」


 武具店に到着し、店内に入ると何時も通り娘が立っていた。

 やはり今日も店主は表に居ない。と言うか、表に居る事は有るのだろうか。

 娘は俺の事を笑顔で迎えたが、背後の騎士を見て少し表情を硬くする。


「悪い、約束の時間から大分遅れた」

『ごめんねー?』

「あ、うん、それは全然良いんだけど・・・何かあったの?」

「心配そうな顔をせずとも、特に問題がある訳じゃ無い。騎士が一緒なのは、先程まで領主館に居たからだ。話を終えて武具店に行くという事で、車を出して貰っただけだ」

『がたごと乗って来た!』

「そっか、なら良かった」


 娘は俺と領主の繋がりを知っている。むしろ知らなければおかしい。

 何せ俺の防寒具の素材は、領主の保有している物を出しているんだからな。

 支払いも領主持ちだし、となれば悪い関係とは思っていないだろう。


「じゃあ、お父さん呼んで来るね」

「ああ、ついでに追加注文がある事も伝えておいてくれ」

『お仕事頼むよ!』

「ん、解った。ちょっと待っててね」


 何時も通り奥へ向かって父を呼びに行く娘を見送り、視線を背後へ向ける。

 騎士は先程から何も話さずに直立不動で、メラネアは店内を興味深そうに見回していた。


「何か気になる物でも有ったか」

「あ、う、ううん、お店に入るのって、ひ、久々だから、ちょっと、楽しくて」

『雑用とかは一切した事無かったからなぁ』

「・・・そうか」


 何処までも暗殺の為の道具、という一片をさらっと口にするメラネア。

 本人はその自覚が無いのかもしれないが、過酷な人生が垣間見える。

 それでも心が壊れずに今を生きていられるのは、ある意味で心が強いのだろうか。


 先程は騙されたとは思ったが、それでも7年自由意志を奪われ暗殺に手を染めたんだ。

 やり始めた頃が子供なのは事実であり、精神がねじ曲がってもおかしくないはず。

 だと言うのに目の前にいる娘は、ただの普通の少女にしか感じられない。


 勿論立ち振舞いにただ者では無い部分は在るが、それはそれとして。

 よくよく考えれば、ここまで普通な少女である事が先ず異常か。


「ミ、ミクちゃん? どうしたの? 何か怒ってる?」

「いや、何でもない。少し考え事をしていただけだ」

「そ、そっか」


 ホッと息を吐くメラネアは、やはり普通に可愛らしい少女だ。

 誰がこれを暗殺者と思うだろうか。誰が化け物だと思うだろうか。

 そういう意味でも暗殺者としては最高の道具だろうな。


 この姿でそっと近づき、傍に寄ったら狐になって一撃。

 それだけで大体の人間は殺せる。アレに不意を打たれたら対処は難しい。

 有用性のある道具だという事を考えると、やはり暗殺組織は黙っていないだろう。


 メラネアは自由を手に入れたが、ただ自由を手に入れただけでは終わらない。

 この道具を回収できないか、もしくは他者に取られない為に破壊出来ないか。

 組織の本部が大打撃でも受けていない限り、そう判断しておかしくない。


 その事は既に昨日話してある。隠し通せる事でもないからな。


『た、戦う、よ。私は、戦う。ちゃ、ちゃんと、頑張る』


 彼女が出した結論は、その人生と向かい合うという言葉だった。

 誰かに庇護される事を求めるでも、組織の壊滅を他者に求めるでも無くだ。

 正直、この娘は状況が余り良く解っていないのでは、等と思っていた。


 だが違う。この娘は明確な意思を持って、自分で戦う事を決めたのだ。

 状況が良く解っていない子供ではなく、しっかりと自分の足場を見定めて。

 言動で完全に騙されていたが、その思考は随分と冷静だったらしい。


 全く、どこまで暗殺者向きなんだ、この娘は。



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