第114話、封印
「いってぇ・・・」
「うぐ・・・」
「アレが精霊か・・・何も解らなかった・・・」
「びっくりしたぁ・・・」
吹き飛ばされた連中に近づくと、そんな呻きの様な愚痴の様な言葉が聞こえた。
流石は戦闘職と言うべきか、あの程度で気絶はしていない様だ。
とりあえずは精霊の脅威、という物を感じ取っては貰えたか。
「今治療する」
「あ、ありがとうございます、ミク殿」
一番近場に居た者の傍に座り、手を触れて魔力を循環させる。
怪我は打撲程度だろうし、俺の循環でも特に問題は無いはずだ。
周囲の魔術師もうそれぞれ動き出し、倒れた者達に治癒術をかけている。
「・・・びっくりしたよ。精霊は二体じゃなかったのかい?」
そこで俺の傍に座った魔術師が、治癒術師の分隊長が声をかけて来た。
確かミリヴァとかいう名前だったか。俺に循環の治癒術を見せてくれた女だ。
「二体だけだぞ、精霊はな」
「じゃあ、あの大量の気配は何だったんだい?」
やはり気がついていたか。こいつは精霊の魔力を読めるからな。
増えた精霊の魔力を読めたとしても、何ら驚く事は無い。
「増えたんだ。俺について来てる奴は増えるからな」
「・・・それはまた、本当に謎な存在だねぇ、精霊っていうのは」
彼女の言葉にその通りだなと思いながら、今も増えたまま踊る精霊に目を向ける。
狐は物静かだと思っていたんだが、今は大分テンション高く一緒に踊っているな。
二体とも暴れられた事が嬉しかったのか、凄まじくご機嫌な様子だ。
治療に参加できないメラネアは、精霊達に絡まれて振り回されている。
「あれでも大分加減はしてくれたんだろうね。皆打撲程度で済んでいるし」
「・・・そうだな」
加減は間違いなくしているとは思う。本気ならこの程度では済まないだろう。
少なくとも俺と相対した時のメラネアと狐は、死を覚悟する必要が有った。
となれば打撲程度で済んでるこの状況は、遊びと言っても良い程度か。
「しかしこれは、伝聞では理解出来ていなかった、と言うしかないね。見えない存在との戦闘というのは。騎士や兵士では話にならないし、魔術師は魔力が見えるが故に案外厳しい」
「厳しいのか? 見えているなら戦い様がある気がするが」
「精霊の放つ魔力と、攻撃の為に放つ魔力、どちらが攻撃で本体かが解らないのさ。特に先程の様な、衝撃しか起こらない魔術だと余計にね」
「成程。確かにそれはきついか」
土や火や水といった、視覚的に解る物であれば、本体と魔術の区別はつく。
だが衝撃波だけを放たれているとなると、体当たりなのか本体なのか解らない。
特に今回の様に複数体居る上に、片方はやたらめったら増える精霊だと尚の事だ。
「精霊が見える君達が羨ましいよ」
「俺は出来れば精霊付きになりたくなかった」
「ははっ、お互い無い物ねだりだね」
「有る物を捨てたいんだが?」
全てはあの精霊を助けてしまったせいだ。あの時の選択が全ての原因だ。
助けようなどと思わずに、そのまま捨て置けば良か・・・うん?
「一つ聞きたいんだが、良いか?」
「何だい、ミクちゃん」
次の治療に移りつつ、ついて来るミリヴァに声をかける。
彼女も同じ様に治療を始め、お互いに顔を見ずに話を続ける。
「精霊を封じる手段などは、知られていないのか?」
「うーん、少なくとも私は知らないかなぁ。知っていたとしても、恐らくは秘匿している組織が多いと思う。精霊を捕まえて利用できれば、かなりの戦力になるだろうし」
「・・・秘匿技術として軍事力に組み込む、か」
「多分ね」
もしや俺が殺した連中は、技術者としては相当優秀だったのでは。
騎士達が手も足も出ない様な存在を、捕らえて実験に利用していた訳だし。
あの娘の中に精霊を封じた連中も・・・いや、まさか、もしかして。
俺とあの娘は、同じ組織の実験台か。それならば合点がいく部分があるが。
読んだ資料に狐の情報があっただろうか。メラネアの情報は・・・。
実験の資料は大半斜め読みしていたから、該当情報があったか思い出せないな。
現地に戻れば見つかるかもしれないが・・・面倒だな。別に良いか。
肝心なのは実験体だった過去じゃない。今からの生活だろう。
どうせ連中はもう存在していない。なら何も気にする必要は無いか。
「しかし、その言い方から察するに、君は精霊を封じる術を知っている様だね?」
「いや、知らん。封じる方法がある、という事を知っているだけだ」
「それはそれは、そうだとしても興味深い話だね」
「問い詰められても本当に何の情報も無いぞ。封じる所を見た訳でも無いんでな」
「それは残念だ」
彼女は心底残念そうに呟き、また別の人間の治療へと向かった。
あの脅威を知った身としては、対処法は手に入れたかったんだろうな。
「同感だ」
兄を名乗る精霊が面倒な身としては、封じる手段を探せばよかったと思っている。
それの為に研究所へ戻るなら意味はあるか。俺に使えるかどうかは解らんが。




