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第113話、精霊の証明

『で、何するんだ?』

「やる事は単純だ。俺達が精霊付きだと解るよう・・・解り易い様に力を見せる」

『具体的には?』

「俺達はここから一歩も動かず、適当な奴を軽く吹き飛ばす。ああ、殺さない様にな」

『それぐらいはわーってるさ。精霊の仕業だって思わせたいだけ、って事だろ』

「話が早くて助かる」


 やはりこの狐との会話は良いな。無駄な説明が必要ない。

 本当にこの小人と交換して貰えないだろうか。

 駄目だろうな。狐も娘もお互いに離れる気は無さそうだし。


「領主殿、少し良いか」

「―――――どうした、ミク殿」


 まだ少し話をしていて、だがそろそろ締めに入っている領主へ声をかけた。

 領主はすぐに話を止めてこちらを向き、そうなると当然視線は俺に集中する。


「俺達が精霊付き、という事だけを話しても信じられん者も居るだろう。少々精霊達に力を貸して貰おうと思うんだが、良いか?」

「・・・何をするんだ?」


 俺の提案を聞いた領主は、若干不安そうな顔を見せて問い返す。

 以前聞いた話を考えれば仕方ないだろう。精霊の暴走で街が滅びかねない訳だしな。


「何、やる事は簡単だ。俺達はここから動かず、少し吹き飛んで貰おうかと思ってな」

「まてまてまて、気軽に言う内容じゃないぞ!?」

「安心しろ、大怪我をさせる気は無い。精霊もそこは理解している。強く押されて体が浮く、程度の話だ。それぐらいなら問題も無いし、解り易いだろう?」

「・・・本当に、ちゃんと加減をしてくれよ?」

「勿論だ」


 領主は部下の心配をしながらも、俺の提案に了承の意を示した。

 彼もその方が良い、とは思ったんだろうな。


 精霊付きだと説明はしていても、真実だと解る人間は少ない。

 魔術師連中は魔力の流れで気が付くとしても、騎士や兵士は解らない者が大半だ。

 となれば見て解り易い様に、そこに見えないに何かが居る、と教えた方が早い。


「予定とは違うが、ミク殿から提案があった。貴殿等に精霊の力の一端を感じて貰おうとな。加減はしてくれるそうだが、皆相応に構えておくように!」


 突然の領主の宣言に、騎士も兵士も警戒するが、魔術師が一番警戒を見せた。

 精霊の魔力を感じられるからなのか、表情に危機感すら見える。


「領主殿の了承も貰えたし・・・頼んだ」

『おうよ、任せろ』

『任せろー!』


 あ、ちょ、まて。お前は何もしなくて良い。狐だけで良い。

 お前が動くと何をするか解らないから、むしろ動くんじゃない。

 そう思ったが既に遅く、声を上げる前に小人は数を増やして散らばって行く。


 こうなってはもう止められない。大声で止めては不審がられてしまう。

 俺達はあくまで『精霊を制御出来ている精霊付き』であるべきだ。

 その方がクソジジイとやらも、他の貴族も脅威を感じるだろうしな。


「わ、わ、ヴァイド君が、いっぱい・・・」

「あー・・・もうどうにでもなれ」


 話を理解しているなら、大怪我はさせないはずだ。理解しているなら。

 してるかなぁ。してない気がするなぁ。でも時々は話が通じるしなぁ。

 等と若干の現実逃避をしながら眺めていると、ニルスも人の列を駆け抜けていく。


 そして精霊達の行動に対し、整列している者達の反応は様々だ。

 小人が増えた事に勘づいた魔術師は、少々どころではない驚きを見せている。

 勿論全員ではない辺り、やはり技量差があるのだろうな。


 騎士と兵士は大半何も解っておらず、ただ一部は何かを感じ取っている者も居る様だ。

 魔術の才能があるのか、それとも別の感覚で感じ取ったのか。

 まあ、どちらにせよやる事は変わらない。


『おりゃー!』『ふんぬらばー!』『ふっとべー!』『こなろー!』『にゃー!』

「うわぁ!?」「うお!?」「いだっ!?」「べふっ!?」「ぐっ!?」


 精霊が掛け声を上げると同時に軽く衝撃を受ける騎士達。

 とはいえそれは、大人が軽く体当たりをした程度の威力なんだろう。

 大半の者達は大きくのけぞる程度で済んでおり、倒れた者も少し体が浮く程度だ。


 良かった。流石のアレも話を聞いていたか。そう思った矢先。


『うおらぁ!』

「「「「「「「「「「うぎゃぁ!?」」」」」」」」」」


 狐の一撃で人の塊が吹き飛んだ。

 そうか、そうなるのか、そうなってしまうのか。

 話が通じていると思っていたんだがな。やはり狐も精霊という事か。


 いや勿論吹き飛ばしただけだから、大怪我をしている者は居ないだろう。

 だがあの吹き飛び方では、着地時に打撲は免れない。けが人は確実に出る。


『あはははははっ! 久々に自分の意志で力を振るえると楽しいなぁ!』

『たーのしー!』『楽しいねぇ!』『わーい!』『おりゃおりゃー!』『そらいくぞー!』


 これは酷い。ここまでやるつもりは無かったのに、吹き飛ぶ勢いが増して来た。

 魔術師などは本気で警戒を始め、魔力を放ち始めている者も居る。

 お、あれはもしかして障壁の類か。良い物を見れた。後で試してみよう。


「ミク殿!? やり過ぎでは無いか!?」

「あ、すまん、ちょっと呆けてた。 おい! そこまでだ! もう良い!」

『もう良いのー?』『もうちょっと遊びたかった』『ざんねーん』『でも妹が言うなら仕方ないかー』『もどろもどろー』『はー楽しかったぁ』

『俺も楽しかったぜ。いやぁ、自由の身って良いなぁ!』


 領主に声をかけられて正気に戻り、精霊達に止めるように指示を出す。

 素直に止まった精霊達は、それはもう満足そうな顔で戻って来た。

 代わりに目の前には死屍累々な光景が広がっているんだが。


「すまない領主殿、治療に加わって来る」

「・・・そうしてくれ。はぁ」


 流石に罪悪感を覚えたので、呻いている連中へとかけよった。


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