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第103話、押し問答

「随分と騒がしいな」

『人増えてるー』


 主犯を殺して一息つき、玄関ホールに戻ると人が大量に居た。

 いや、元々大量には居たがな。襲って来た連中が。

 だが今のホール内には、衛兵と騎士が大量に詰めていた。


 恐らく騒ぎを聞きつけたか、誰かが通報をしたのだろう。

 更に言えば雪に埋もれた連中を救助しており、治癒術師が循環を使っている。

 とはいえ最早連中はどうでも良いので、狐と娘はどこかと周囲を見回す。


「嬢ちゃん、こっちだ!」


 男の声が聞こえたので目を向けると、男と娘と狐が玄関の端の方に立っていた。

 だが当然ながらそんな声が響けば、衛兵や騎士の意識が男へと向く。

 そうなると男の視線の先を辿り、周囲の視線が俺へと突き刺さる。


 だが大半の物はすぐに視線を切り、それぞれの作業に戻った。

 数人は俺を警戒する様に見ているが、むしろその態度が当然ではあるのだろう。

 等と考えていると、責任者らしき騎士が一人、俺の傍へと近づいて来た。


「お待ちしておりました。ミク殿」

「俺を捕まえる為にか?」

「・・・場合によっては。貴族の屋敷に押し入り、戦闘行為をしたのですから」

「そうか、ならば全力で抵抗するとしよう」


 止めていた循環を再開し、一瞬で体と心を戦闘に切り替える。

 場合によっては? 貴族の家に押し入って戦闘行為をした?

 先に仕掛けて来たのは向こうだ。俺はその喧嘩を買ったに過ぎない。


 証拠でも要るのか? 知った事か。何故説明する必要が有る。

 俺は俺の生き方を通すだけだし、それを咎められるなら全力で抵抗するだけだ。


 奴は俺を殺す気だった。だから俺は奴を殺した。ただそれだけの話だろう。

 もし認めないというのであれば、領主は俺との約束を違えるという事だ。

 だが俺の言葉を聞いた騎士は、慌てた様子で少しのけぞる。


「お、お待ち下さい、何故そうなるのですか」

「何故も何も、俺は領主に話を通していたはずだ。領主も了承していたはずだ。だというのに俺を捕えるというのであれば、所詮はその程度の約束という事だろう。だが俺は理不尽に従うつもりは一切無い。殺される前に殺すだけだ。最後まで抗って貴様らを皆殺しにしてやる」


 俺は悪党の生き方を通すと決め、そして理不尽には抗うと決めた。

 生き残る為に、今生こそ好きに生きる為に、そこだけは譲れない。

 領主もそこは了承していたはずだ。殺しに来るなら殺しても構わないと。


 貴族を殺した事も、貴族の家に押し入った事も、普通に考えれば重罪だろうよ。

 だが、だからどうした。俺には知った事か。まさか大人しく殺されてろとでもいうのか。

 ならば貴様らは全員敵だ。領主も約束を反故にしたという事だ。


 殺される前に殺す。生きる為に敵は皆殺す。俺の生を脅かす敵は全て殺す。


「どうか落ち着いて下さい、ミク殿・・・!」

「落ち着いている。今すぐに貴様らを殺さない程度にはな。俺は俺を殺そうとした連中を殺しただけだ。それを咎めるというのなら、今の発言が現実になる。ただそれだけの話だ」


 俺に譲る気が一切無いと、その事を理解出来た騎士がごくりと唾を呑む。

 そしておそらくは無意識なのだろうが、片手が武器に伸びていた。


「手に取った瞬間、全員敵対したとみなす。今の俺は容赦せんぞ。騎士だろうが知った事か」


 今の俺は少々機嫌が悪い。敵対者に加減する気が欠片も起きない。

 むしろ暴れられるのは好都合だ。一切合切全てぶち壊してやる。

 あんな下らない貴族を殺して咎められるなら、もう何も気にする必要は無い。


「っ、失礼致しました」


 だが警告を聞いた騎士は慌てて手を離し、謝罪を口にしながら膝をついた。

 そして俺に目線を合わせつつ、真剣な表情で言葉を続ける。


「ご不快にさせた事は謝罪致します。ですがどうかお聞き下さい。先程の発言は、あくまで貴女に落ち度があればです。領主様との約束を違えていなければ、捕らえる事は致しません」

「そうか。ならば退け。俺の前を塞ぐ意味は無いだろう」

「い、いえ、事情聴取はさせて頂きたいのですが・・・」


 事情聴取か。だがそう言って俺を騙す可能性もある。

 良くある手だ。話を聞くと言って、実際は答えが決まっている等という事は。

 処罰する前提で連行して、案の定処罰が下されるという事がな。


 捕まえるかもしれない。そういう意思が欠片でもある。ならば付いて行くのは悪手だ。

 俺はそうやって規則に従って嵌められて、何度も何度も殺されているんだからな。


 絶対に捕らえる気は無い。俺に咎は無い。何も問題無い。

 そういった発言が無い限りは、殺される可能性が大いにある。

 たとえ領主が信用出来ようとも、周囲全てが信用出来る訳ではない。


「断る」

「で、ですがそれですと、貴女の立場が悪く・・・」

「ならその時こそ、お前達と殺し合いをしてやる。俺を敵だと思っているのだろう」

「い、いえ、ですから―――――」

「違うと言うのであればそこを退け。今俺はお前達に付き合う気が欠片も無い」


 完全な押し問答だ。相手は俺から話しを聞いて情報の精査をしたいのだろう。

 そんな事は百も承知で、その上で俺は騎士達に何も話す気は無い。

 むしろ何故俺が教えてやらなければいけない、とすら思っている。


「俺に手間をかけさせるという事は、あんなクソ下らない貴族をのさばらせ、俺が殺された方が良いと考えているという事だ。なら誰が従うか。これで最後だ。退け」


 それでも、俺は自分に落ち度はないと断言して拒否出来る。悪党の俺には。

 ここまで言って止めるというのであれば、もうその時は騎士だろうが関係ない。


「俺を殺そうとしたのは騎士だ。どう考えれば貴様らを信用すると思う」

「っ・・・!」


 アレは領主も頭を抱える馬鹿だったが、それでも所属は騎士だった。

 そう、眼の前に居る男と同じ騎士だ。

 つまり先に規則を犯したのは貴様ら騎士。なら俺に従う道理は無い。


 騎士の規則違反を隠す為に、罪を擦り付けられるつもりも無い。

 俺を殺そうとした騎士を殺した、という事実で咎められて捕まる気も無い。

 規則に従い公的機関に嵌められるなら、最初から警戒して敵対するだけだ。


「解ったら退け。それでも俺を拘束するなら敵対と見做す」


 今ここに居るのは悪党と悪党。なら俺は悪党として押し通る。

 全力で殺意を漲らせながら、眼の前の騎士の答えを待った。


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