第102話、決着
「とりあえず、大体の事情は分かった。コレと違い話の分かる精霊で良かった」
『兄だって話の分かる精霊だよ!』
お前のどこが話の分かる精霊なのかと、とても強く問いたい。
問うたところで全く意味が無いので、無駄な事をする気は無いが。
さて、ならば後やる事は決まっている。この奥に居る連中を殺すだけだ。
そう決めたら視線を娘から切り、同行している男へと向ける。
「おい、この子供の事はお前に任せる」
「―――――解った」
『まかせたよー!』
男は一瞬何か言いたげだったが、反論する事無く頷いた。
娘も何か言いたげだったが、そちらも特に何か言う事は無い。
狐は満足気に娘を見ている辺り、余り他の事に興味は無いのだろう。
「こっちか」
二人に背を向けて奥へと歩き出し、ずっとこちらを見ていた気配へと向かう。
あれからこちらを見る気配はずっとあった。狐と戦っている時もだ。
ならば視線の主は、あの娘が敗北した事を知っているはずだ。
だというのに逃げないのは、魔道具を置いて行っているという事だろうか。
もしそうなら探すのは面倒だな。出来れば道具の傍で怯えていて欲しい。
等と考えながら、鍵のかかった扉を殴ってぶち壊す。
鍵を探すつもりも無ければ、屋敷の住人に気を使ってやる気も無い。
「ひっ」
「た、たすけて・・・!」
「私達は雇われているだけなんです!」
その向こうで使用人らしき者達に会ったが、全て無視して奥へと向かう。
本人達の言う通り、ただ雇われて屋敷を管理しているだけだろうからな。
戦闘職の気配も無ければ殺気も無く、別段相手をする意味も無い。
ならとっとと先に進んでしまい、目標を殺す方が良い。
「・・・行き止まり?」
『まりー?』
何故か付いて来ている精霊と一緒に首を傾げる。
気配を辿って来たのだが、その先には壁しかない。
何処か遠回りして入る通路が有るのだろうか。
「面倒だ、な!」
『どかーん!』
通路を探す気など毛頭なく、壁をぶんなぐって破壊する。
中々頑丈な壁だったな。もしやこの辺りだけ作りが違うのか?
「ば、馬鹿な! 壊せるはずがない! ハンマーで殴ってもビクともしないんだぞ!?」
そして破壊した壁の向こうから、どこかで聞いた事がある様な声が聞こえた。
目を向けると、顔も見覚えがある気がする。だが思い出せない。誰だ。
いやまあ誰でも良いか。誰だろうと結末は決まっている。
叫んだ男の隣にいる、青ざめた様子の女もな。
だが拳を握る俺を見た女は、慌てて両手を上げて口を開いた。
その手には水晶の様な物が在り、俺の探っていた魔力はそこに繋がっている。
成程、それで見ていたという事か。やはり魔道具の類だったらしいな。
「待って、降参するわ。あの子がやられた時点で勝ち目はないもの。要求があるなら何でも飲むから、あの子を生かして返してちょうだい。金なら積むわよ」
「あの子を? 私をの間違いじゃないのか?」
てっきり自分の命を助けてくれ、というのかと思った。
まさかあの娘の命を願うとは予想外だ。
「私だけ帰っても殺されるだけだわ。大事な商売道具を捨てて来たのか――――――」
「ひっ!?」
女の言葉が途中で止まり、男の悲鳴が小さく上がる。
何故なら女の頭は既に存在せず、飛び散った物が男にかかっているからだ。
勢い良く拳を振り抜いたおかげか、俺は拳以外に血は付いていない。
余りに耳障りだったので、全部聞く前に思わず殴ってしまった。
まあ、どのみちやる事は変わらなかったので、何も問題は無いが。
「・・・ああ、思い出した。お前あの時の馬鹿騎士だな」
男の恐怖の顔を見ていたらふと思い出し、成程コイツだったのかと合点がいった。
以前領主の命令を何か勘違いして、俺に絡んできた馬鹿騎士だ。
つまりこいつは本来の標的を狙わず、恨みの有る俺を殺そうとした訳か。
「――――――ふ、ふざけるな! 誰が、誰が馬鹿騎士だ!」
俺の呟きに怒りで恐怖を忘れたのか、掴みかかるかと思う勢いで叫び出す馬鹿騎士。
だがその様子に迫力などは無く、ただ血走った表情には正気を疑う。
「どいつもこいつも俺の事を馬鹿にしやがって! 俺を誰だと思ってやがるんだ! 辺境の連中は血を何だと思ってやがる! 俺は―――」
だが男の言葉も途中で消えた。聞く気の無い口上を俺が拳で止めた事で。
これで頭部のない死体が二つ出来た。面倒な事を起こした原因は殺した。
だが終わった今の気分は、相変らず苛立ちだけが募っている。
「・・・くだらない」
何もかもが下らない。この馬鹿騎士も、子供を道具に使う暗殺者も。
そしてそんな者達の存在に、感情を振り回されている俺自身も。
本当に、余りに下らな過ぎる。ただただ不愉快な一件だった。
『よしよし。いい子いい子。頑張ったね』
「煩い撫でるな」
そんな俺をどう思ったのか、精霊は暫く頭を撫で続けていた。




