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第101話、事情確認

 改めて子供へと目を向ける。伏せてい居る時は解らなかったが、整った顔だ。

 可愛い系の顔で、髪型はおかっぱに近く、体形は痩せており、ただ不健康という程ではない。

 服装は狐の時と変わらず、というか狐時に合わせていたのだろう服なのでダボダボだ。


 恐らく女、だと思うんだが、どうだろう。可愛い顔の美少年の線もあるが。


「なあ嬢ちゃん」

「ん、どうした?」

「俺には目の前の居る嬢ちゃんが、虚空に向かって喋ってるようにしか見えないんだが、もしかしてこの嬢ちゃんも精霊付き、なんて話か?」

「そうだな。しかも操られていた様だぞ。望んで殺しをしていた訳では無いらしい」

「――――――っ、そうか」


 精霊が見えていない男は状況がつかめず、だが何となくは理解して居た様だ。

 だが会話内容が解っていない以上、子供の状況は解らなかったらしい。

 俺が端的に説明をすると、一瞬怒りで満ちた目を見せた。


 だが息を吐いて平静な表情に戻すと、防具を外して上着を脱いだ。


「おい嬢ちゃん、その恰好じゃ寒いだろ。これ着ておけ」

「あ、え、えと、ありがとう、ございます・・・」

『おう、兄ちゃんありがとな。まあ俺の事は見えてねえと思うけど。ただ女に着せるにはちょっと汗臭えぞ。ちゃんと洗ってるかこれ』


 男が差し出した上着を受け取り、礼を言う子供と若干辛辣な狐。

 嬢ちゃん呼びに反論が無かったという事は、娘で正解という事か。

 とりあえず娘が上着を羽織るのを待ち、前を止めた所で口を開いた。


「少し聞きたい事がある。良いか」

「は、はい。なに、かな」

『なんでも話してやるぜ!』


 俺が同じぐらいの見た目だからか、娘も狐も警戒心は余り無い。

 いや、精霊が助けた上に、妹などと言ったのが理由かもしれんが。


「操られている間、意識はあったのか」

「う、うん。自由に動けなかったけど、意識は、あったよ」

『だからメラネアの中で良く話してたぜ。それ以外する事無かったんだけどな!』


 成程。人間の中に閉じ込められた、という割に二人の関係は悪い様に見えない。

 それは閉じ込められている間に友好を築いていた、という事か。

 どちらかが利用している訳ではなく、どちらも利用されている者として。


「ならば、自分の状況は解っている、という事で良いな? 良ければ簡潔に教えてくれ」

「簡潔・・・簡潔・・・えっと」

『メラネアは家族に売られ、売られた先で何か色々実験され、俺を閉じ込める実験に使われて、成果が出たけど継戦能力が足りないから要らねぇ、って暗殺組織に売られた感じだな』

「あ、う、うん、大体、そんな、感じ・・・」


 売られた本人は子供なせいか、どう言えば良いのか解らなかったらしい。

 だが精霊が殆ど説明をし、その経緯はとても解り易かった。

 つまりは実験は成功したが、次の実験の為の資金調達にでも使われたか。


 あれだけの力が有れば、どこにだって高値で売れるだろうしな。

 しかし継戦能力が足りないか。戦っている感じはそうでも無かったが。

 それでも要らないと言われるのであれば、余程の長時間戦闘を想定していたのか。


 そういえばあの連中は、追放した組織全てに復讐、みたいな発言だったか。

 となれば敵対する数は多いだろうし、継戦能力は重要だろう。

 なら俺はその欠点も克服した化け物、という事になるのかもしれないな。


「何時頃売られたんだ」

「・・・何時、だっけ、もう、結構前、だったような」

『人間の言い方で言うなら、えーと・・・7年ぐらい前じゃないか、暗殺組織に売られたのは。実験してた連中の所に何時売られたのかは解んねーな。俺はメラネアの中に突然突っ込まれた身だから、最初から一緒に居た訳じゃねーし。いやぁ、ありゃ不覚だったぜ』


 という事は、かなり幼い頃に売られたのか。

 そして意識を封じられ実験動物になった。

 最終的にそのまま暗殺の道具に使われるとは。


 何とも、本当に、過酷等という言葉が軽い話だな。

 だが、しかしそうか、7年か。なら・・・。


「・・・殺しは、何時からやっている。もう、殺した事はあるのか」

「―――――、あ、る・・・よ。もう、何人も、殺した。いっぱい、殺したと、思う」

『でも大体は、大きな報酬の失敗出来ない仕事の時だけ使われてた感じっぽいぜ。今回みたいに苦戦した事は殆ど無いし、負けたのは初めてだし。だから扱いは悪くなかった。人間に対してと言うより、貴重で使える道具の手入れを大事にしてる感じだったけどな』


 当たり前と言えば当たり前だが、それだけ前に売られたのであれば殺しはしているだろう。

 狐の精霊は余り気にしていない様だが、娘の方の顔色が少々悪くなった。

 それが当然の反応だ。自分の意志では無いとは言え、自分の手で殺してしまったんだ。


 それが悪党なのか、それとも善人なのか、そんな事はきっと関係ない。

 子供が人を何人も殺して来た。その事実は受け止めるには重すぎる。

 幸いは有用性を認められた事で、丁寧に扱われていた事だけか。


「そいつらの拠点は解るか」

「えと・・・ごめん、解らない、かな・・・」

『移動は基本的に荷車の中で、しかも俺達は隠されて運ばれるからな。どこからどこに移動したのか解んねーし、俺も閉じ込められてたから色々感覚がおかしかったし』


 意識はあったが、木箱にでも詰められて運ばれていたせいで解らない、という事か。

 組織ごと叩き潰してやろうと思ったが、こうなると少し難しいか。

 しかし検問を突破出来るとなると、やはり穴が多いというしかないな。


「ならこの街に居るのは、依頼を受けたから別の場所から来た、という事で良いんだな?」

「本当は、別の依頼だった、らしいけど・・・うん、そう、だね・・・」

『なんか他の貴族殺す予定だったけど、嬢ちゃんに標的変更するって事になったらしいぜ?』


 拠点がこの街に無いのであれば、随分運ぶのが迅速だなと思った。

 だがどうやら思い違いだったらしく、俺を殺すのは予定外だったのか。

 しかし貴族を狙った暗殺か。となれば依頼者も貴族の可能性が高そうだな。


 まあ、この屋敷に居る時点で、それは確定している様なものだが。

 しかし、それにしても・・・。


「これとその狐交換しないか。話が通じるそっちの方が良い」

『妹酷い! 兄はこんなにも妹を愛しているのに!!』


 やっぱり会話が通じないのは、お前特有の性格だったのか。畜生。


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