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1話 女の子になってしまった元アマ強豪


 洗面器からとめどなく水が流れ出る。鏡に映った自分の姿を見た賢人(けんと)は、唖然の言葉を漏らして呆けた。


「は……?」


 誰だコイツは……? それが初めに浮かんだ感想だった。


 鏡に映っているのは見たこともない美少女。骨格は縮み、筋肉は縮小し、顔の形までも変わったそれは、もはや元の自分の姿ではない。少しばかり妹に似た顔付きをしているが、それとは比にならないほどの可愛さだった。


「……え? あ? はっ!?」


 リズミカルに鏡に向かって顔を近づける。この洗面所で顔を洗うまで気付かなかった。何の気なしに起床し、スマホで時間を確認し、洗面所へと向かって顔を洗うまで一切気づかなかった。


 ──なんだ? 誰だ? 誰なんだこの美少女は?


 ようやく現実を受け入れ始めた脳が、その現実に対する強烈な違和感を感じ取って危険視号を発した。


「は!?」


 後ろへ振り返る。

 誰もいない。


「は!?」


 左を見る。

 風呂場だ。


「は!?」


 右を見る。

 壁だ。


「……え?」


 恐る恐る鏡を見る。

 そこにはやはり、見たこともない美少女が映り込んでいた。


「な、なんだこれーーっ!!!?」


 この日、香坂(こうさか)賢人は生まれ変わった。


 否。香坂賢人、22歳。女の子に生まれ変わって人生終了のお知らせである。





「ま、まてまてまて! どうなってんだこれ!? TSか!?」


 一言目で答えにたどり着く賢人。伊達に10年もオタクをやってない。しかし物事には道理がある。理想と現実がかけ離れているように、創作と現実は決して交わらない。交わることなどありえないのだ。


「嘘だろ……声まで……」


 自分の声が完全に女声になっていることに気づく賢人。顔を洗っている最中だったこともあり、頭は完全にしゃっきりしている。故に今起こっている事柄が夢でないことは理解していた。


「……」


 呆けた口、未だ洗面器から流れ出る水音。賢人は無言で洗面器の蛇口をひねって水を止めると、そのまま胸に手を当てた。


 ──もにゅ。


「……」


 TSしても所詮は自分の身体である。こんなことをしても意味はない。しかし、その考えは少し早計ではなかろうか? 自分自身に興奮することはできないが、あくまでもこの身体は自分のものではないと客観視することで、美少女の胸を揉んでいる気分に浸れるのではないだろうか。


 ……と、知り合いのTSマスターが言っていた言葉を思い出して、賢人は自らの胸を無言で揉みまくった。


 そして気づいた。


「現実は甘くなかったよ虎飛(こたか)……全然興奮できねぇ……」


 所詮は自分の身体。自分で触ったところで虚しいだけである。


「いやいや、そんなことよりなんだこれ。なんで女の子になってるんだ? よく見たら背も縮んでるし、手もちっちゃくなってる……」


 鏡に映る自分は見たこともない完全な美少女。どうしようもないほどの美少女である。元の男の面影などどこにもなかった。


 どうして自分が女の子の身体になってしまったのか。どうしてこんな非科学的な様相を呈する現象が自分の身に起こったのか。原因は分からない。心当たりもない。怪しい薬を飲まされた記憶も、神のような存在に出会った記憶もない。


「……いや、原因なんかより先にすべきことがある」


 そう、今考えることは原因の究明じゃない。こんな状態で知り合いになんか出会ったらタダではすまないだろう。いや、知り合いだけならまだいい。TSマスターことTS好きの()()()になんか出会った日には──。


 ブー! ブー!


「わっ」


 ポケットに入っていたスマホから鳴った通知音に思わずビクリと肩を震わせる。スマホを取り出し中身を見ると、通知が1件届いていた。


 虎飛:もうすぐ着くぞー


「うああぁっ……!?」


 情けない声が家中に響いた。

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